コンセントにつながった状態の電気コードをなめて起こる「電撃傷」。体の中を電流が通り抜ける・・・赤ちゃんが危ない!【小児科医】
「電撃傷(でんげきしょう)」って知っていますか?感電によるやけどです。乳幼児の場合、コンセントにつながっている電源コードをなめたり、コンセントにいたずらしたりすることで起こる危険があります。子どもの事故に詳しい小児科医の山中龍宏先生に、電撃傷について聞きました。
体の中を電流が通り抜ける「電撃傷」。皮膚のやけどだけでは済まないことも。
――電撃傷とはどのような症状ですか。
山中先生(以下敬称略) 電流が人の体の中を抜ける「感電」によって起こるやけどです。皮膚のやけどだけでなく、内臓損傷、不整脈、ときには心臓の動きに影響をおよぼして致命傷になることもある、とても怖いものです。
乳児の場合は、コンセントにつながった状態の電源コードや延長コードを口にくわえ、口の中や唇をやけどするケースが多いです。ひどいやけどを負うと、口や唇の機能に支障が出て、言葉の発達に影響してしまうことがあります。また、唇まわりにケロイド状のあとが残り、美容上の問題になることもあります。
幼児については、細長い金属製のものをコンセントに差し入れて、電撃傷を負う例がみられます。好奇心旺盛でいたずら盛りの年代のため、キーチェーン、硬貨、ヘアピン、装飾用針金モール、クリップ、アルミニウムはく、はさみなど、さまざまなものが電撃傷の原因になっています。
なお、肌がぬれていると電気が通りやすくなるため、唾液や汗でぬれた手でコンセントやプラグを触ると、感電のリスクが高まってしまいます。
日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)に報告されている、電撃傷の事例を紹介します。
【事例1 6カ月女の子】
居間に3歳、5歳の姉とともにいた。1メートルほどの高さの棚の上にヘアアイロンの本体があり、電源コードは床にあった延長コードに接続されていた。家族が目を離したすきにヘアアイロンの電源コードを女の子がひっぱり、ヘアアイロンが落下。その衝撃で通常は着脱できない本体と電源コードの接続部が破損し、コネクター内部が露出。それを女の子がくわえているのを目撃した5歳の姉が両親に教え、緊急受診。
右ほほの粘膜、右上あご、舌の右外側部分に白い潰瘍(粘膜がただれている状態)ができており、口腔内の電撃傷と診断された。
全身状態は良好だったが、血液検査でCK(クレアチニンキナーゼ)の上昇があり、モニタリングを含めて観察が必要と考えられ、入院加療となった。
(傷害速報より引用、一部改変)
【事例2 4カ月男の子】
急に泣き声が聞こえたので、別室にした母親がかけつけると、電気こたつのコードをなめた形跡があった(ぬれていた)。母親が触ったときビリッとしたので、よく見ると銅線が露出した部分があった。すぐに泣きやんだが、心配なため電話したうえで医療機関を受診。
胸部聴診音と心拍は正常で、意識ははっきりしている。口腔内は舌を含め外傷は見られなかった。その後も明らかな異常は起きていない。
(傷害速報より引用、一部改変)
【事例3 5歳女の子】
母親と祖母が同じ美容院におり、女の子は1人で遊んでいた。その美容院は顧客用ロッカーの鍵は個人で管理するようになっていた。女の子は母親と祖母の分の2つの鍵を両手に持ち、美容室の鏡に備え付けてある家庭用100Vコンセントの両端子に、ほぼ同時に鍵を差し込んだと思われる。鍵に付属したプラスチックのタグは焼き切れているものもあった。
受傷後すぐに受診。自分で歩いて来院し、バイタルサインに異常は見られなかった。不整脈はなし。両側手指にⅠ~Ⅱ度のやけどおよび黒色変化があり、右手掌に直径10㎜程度の電流斑が認められた。
やけどの処置後、高次医療施設を紹介され、不整脈、横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)などがないことを確認。2日後に電流斑は20㎜程度に広がり、右第四指基骨部にも電流斑が認められた。
(傷害速報より引用、一部改変)
――事例1で報告されている、血液検査の「CK」、事例3で報告されている「電流斑」と「横紋筋融解症」について教えてください。
山中 「CK」は筋肉細胞にもっとも多く含まれている酵素の一種で、組織がダメージを受けると血液中にもれ出る性質があります。つまり事例1は、感電によって筋肉にダメージを受けたことを示しています。
そして「横紋筋融解症」は、感電することで筋肉が溶けた状態になること。筋肉が溶けると、CKが血液内に流れ出るため、血液検査をすると数値が高くなります。横紋筋融解症は急性腎不全を起こすこともある非常に怖い症状です。
「電流斑」は電流が体内を流れたことで、皮膚がこげた状態になることです。皮膚の深部に電流が流れることで起こり、じわじわ広がっていくため、事例3でも2日後のほうが広がっています。
「コンセントキャップはいたずら防止にならない」という調査結果が
――子どもを電撃傷から守るために、家庭でできることを教えてください。
山中 コードから電線がむき出しになっている電化製品を使うのはNG。そのうえで、使い終わったらすぐに電源コードをコンセントから抜くのを習慣にしてください。また、プラグのゆるみを日々確認し、電源コードは垂れ下がった状態で放置しないように注意します。
最近の住宅は利便性から、コンセントがたくさん設置されていることがあるかもしれません。普段使わないものは家具で隠しておくなどの工夫もしましょう。
自宅では気をつけていても、たまに帰省する程度だと、実家では目が行き届かないことがあります。帰省中にホットプレートを使ってにぎやかに食事を楽しんでいたところ、何かの拍子で外れた磁石式の電源コードをしゃぶって電撃傷を負った赤ちゃんの診察をしたことがあります。電気製品を使うときは、子どもから目を離さないようにしてください。
また、事例3のようにお店でも起こることがあるので、どこにいても油断は禁物です。
――子どものいたずら防止のためのコンセントキャップが有効か、実験した調査があるとか。
山中 平成24年6月に東京都生活文化局消費生活部が発表した「いたずら防止用コンセントキャップに関する調査」というものがあります。この中に、乳幼児がコンセントキャップをはずせるか実験した結果が報告されています。
キャップの面が厚いもの、薄いもの、形状がシンプルなもの、キャラクターなどがついているもの、色がついているものなど28種類のキャップを用意し、0歳児、1歳児、2歳児各6人がキャップを取りはずすかを観察したのです。
その結果、0歳児では3種類、2歳児は25種類をはずし、だれも取りはずさなかったのはたったの3種類でした。
この結果から、コンセントキャップは必ずしも安全対策にはならないことがわかります。とくにキャラクターがついていたり、かわいいデザインだったりするものは、子どもがコンセントに興味を持ってしまうので、もってのほかです。
電撃傷は電流によるやけど。応急処置は冷やすに限る!その後、必ず受診して
――子どもが電撃傷を負ったときの応急処置を教えてください。
山中 電撃傷はやけどなので、ほかのやけどと同様、即座に冷やしてダメージが広がるのを防ぎます。手指の場合は流水で20分程度冷やし、唇や口のまわりは冷やしたタオルを当て、何度かタオルを交換しながら同じく20分程度冷やします。
電撃傷は表面の傷は小さくてもダメージが深く、皮膚の奥まで損傷している可能性があります。見た目で判断せず、必ず受診してください。
――スマホを充電したあと、ケーブルをコンセントに差したままにしていることがよくあるかと・・・。スマホの端子をなめて口の中をやけどすることもありますか。
山中 スマホの電流は微弱なので、電撃傷を負う可能性は低いでしょう。ただし、ケーブルが首にからまって死亡した赤ちゃんの例があります。スマホの充電は子どもの手が届かない場所で行い、使い終わったケーブルは出しっぱなしにせず、すぐに片づけましょう。
電気は目に見えないので、感電の怖さがイメージしにくいかもしれませんが、家庭の電圧であっても、乳幼児は大きなダメージを受けることがあります。電気製品を使っているときは、子どもから目を離さないようにしてください。
取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
電化製品は私たちの生活になくてはならないものですが、乳幼児にとっては危険なものになるリスクがあります。そのことを忘れないようにしたいものです。
●記事の内容は2024年1月の情報であり、現在と異なる場合があります。