折れ線型の自閉症と診断された娘を育てる母。いつか花粉症くらい気軽に「自閉症だよ」と言える世界を目指したい【体験談】
長崎県在住の平山愛理さんは、娘の愛鈴(あられ)ちゃん(4歳)、息子の新心(あらし)くん(2歳)、パパの4人家族です。長女の愛鈴ちゃんは1歳半ごろまで「ママ」「抱っこ」など20個ほどの単語を発していましたが、その後、徐々に言葉を失っていく折れ線型の自閉症スペクトラム障害と診断されました。
現在はYouTubeチャンネルを通じた発信をはじめ、オンラインサロンや座談会の開催など自閉症のお子さんを育てる家族が悩みや情報を共有できる場づくりに取り組んでいる平山さん。2回目のインタビューでは、きょうだいの関係性や、平山さんが支援活動を始めたきっかけ、その背景にある思いを聞きました。
用心深い姉と、活発な弟。自然とお互いを気づかい合う関係に
愛鈴ちゃんには、2歳下に弟の新心くんがいます。最近の2人の様子を聞きました。
「半年ほど前までは、愛鈴のほうが絶対的な権力を持っていたんですが、最近は新心が成長して精神年齢が逆転してきたのか愛鈴をよく気づかってくれるようになりました。以前、愛鈴が外で服を脱いでしまったことがあって、そのときは新心があわてて愛鈴に駆け寄って服を着させようとしたり、大勢の人が一度にわっと出てきたときに愛鈴が怖がらないよう手をぎゅっと握ってあげていたり。まだ2歳ですが、感覚的に愛鈴には配慮が必要なことをわかっているんだなと感じます。
新心が生まれたのは、愛鈴の人見知りやパニックに違和感を感じていた時期でした。産後に退院して初めて弟を見たとき、愛鈴は驚いたのか号泣してしまって。でも30分ほどたつとミルクをあげるのを手伝ってくれたりして、すぐに心を開いていました。それからはずっとなかよしです。
愛鈴はとにかく用心深いし周囲への警戒心も強い。でも新心は真逆で、いきなりパッと飛び出していったり少々危なっかしいので、そういうときは愛鈴が手をつかんで制止してくれたりします。それ以外にも弟のお世話はよくしてくれますし、大人が介入せずとも、子どもたちがお互いに気づかい合えるような関係をつくってくれているなと思います」(平山さん)
そんなお子さんたちに望むことを聞くと、「2人とも今と変わらず優しい子に育ってほしい」と話す平山さん。そして、こう続けます。
「愛鈴はコミュニケーションの障害を持っていますが、私はそんな愛鈴からコミュニケーションを学びました。それまで知らなかった多くのことを教えてもらい、考え方も価値観も大きく変わりました。自閉症の子は人を変える力を持っていると思うんです。私が愛鈴から力をもらったように、だれかに勇気を与える存在になってくれたらうれしいです」(平山さん)
育児に悩んだ時期を経て生まれた「知ってほしい」という気持ち
2023年の12月から、YouTubeチャンネル「あられちゃんねる」で愛鈴ちゃんたちとの日常を配信し始めた平山さん。開設から約半年ほどですが登録者数は5900人を超え(2024年8月時点)、自閉症のリアルを伝えながらもポジティブで明るい日常動画が支持されています。
「動画配信を始めたのは、とにかく1人でも多くの人に『自閉症のことを知ってほしい』という気持ちからです。私は愛鈴が自閉症だとわかるまで障害についてほぼ無知だったので、もっと前から知っていれば配慮できることがたくさんあったかもしれないと歯がゆく思いました。もちろん昔に比べれば認知は進んでいるとは思いますが、自閉症についてよく知らない人はまだまだ多いです。
自閉症は外見ではわからないことも多いんです。なかには勉強が得意なお子さんもいますし、一見障害を持っているように見えない子もいます。それゆえに、ただ『空気が読めない』『協調性がない』子どもだと思われてしまうことも。“知らない”ことが誤解や偏見を生むことは多いです。
自閉症はコミュニケーションの障害であるということ、そして自閉症のことをもっとたくさんの人に知ってほしくて、YouTubeを始めました。子どもの顔と名前を前面に出すことに賛否はあるかもしれませんが、私は愛鈴のことをオープンにすることで、より身近に感じてもらいたいと思ったんです」(平山さん)
YouTubeチャンネルで家族の日常を配信
「こころがけているのは、前向きな発信です。自閉症についてネットで情報を集めていたころ、私が見たなかでは育児のたいへんさや苦労を伝える動画はたくさんあっても前向きで明るい動画はほとんどなくて、ネガティブにとらえてしまったことがありました。
だから、自閉症の子どもとの生活ってこんなに楽しいんだよ、ポジティブな個性の一つなんだよ、ということを自分たちの日常をありのままに見せることで伝えたいと思いました。まだ手探りですが、動画やSNSを通じて私たちのことを知ってくださる方が少しずつ増えてきて、視聴者やフォロワーの方々の応援やうれしい声が励みにもなっています。
最近は、YouTubeで動画を見てもらうだけでなく、実際に会って話し合える場があったらいいなと思い、オンラインサロンや座談会も始めました。私にも自閉症について悩んだ時期がありましたが、近くに住んでいる仲のよい姉が心の支えになってくれました。私には姉がいましたが、身近にそういう存在がいない人はものすごくつらいはずです。だから、もし孤独や不安を抱えている人がいたら、話をすることで少しでも心を軽くしたいと思い、気軽に悩みを相談できたり情報を共有し合えたりする場づくりを始めました」(平山さん)
座談会や学び場づくりなど、活動を通じて当事者と家族に寄り添いたい
「現在は、姉と立ち上げた『みんなのわ いっぽいっぽ』というASD(自閉スペクトラム症)支援団体で、座談会を含めたさまざまな取り組みを行っています。座談会では、こういうことがあったという話をすると参加してくれた皆さんが『わかるわかる』『うちも同じだよ!』とすごく共感し合えて。理解し合える仲間がいるだけで心強いですし、ふだんなかなか子育ての悩みを相談できないという方もいらっしゃるので、そういう場の大切さを再実感しましたね。直近では、性教育をされている講師の方をお呼びしてコミュニティセンターでお話を聞くような機会も予定しています。
子育ての悩み相談や情報交換だけに限らず、『こういうことを企画してみたい』という話もします。そんな声を聞いているうちにだんだんと、座談会だけで終わりたくないと思うように。今はNPO法人の立ち上げをめざして活動の幅を広げているところです。
その一環として、今年の年末に佐世保市内のショッピングモールで、自閉症の子どもたちがつくった作品の出店を予定しています。作品に自閉症について知ってもらいたいことを添えたりして、1人でも多くの人に知ってもらえたらと思っています。また、子どもたち自身にも、つくり手や店員さんになることで社会とつながることの楽しさを知ってほしい。それが成功体験となって自分に自信が持てたり、働くことをイメージすることで将来の見通しができるとよりいいなと思います。
こういった活動も『世の中の人に知ってもらえるなら』『子どもたちが生きやすい社会につながるなら』と協力してくれる方々のおかげで成り立っている部分が大きいですが、やはりボランティアで行えることには限界があるとも感じていて。これからもっと支援活動の幅を広げられるように、企業の方や自閉症の特性について詳しい方など、私たちの活動に賛同してくれる方がいたら、ぜひ力を貸していただきたいです」(平山さん)
SNSのコメントや座談会などで集まる声を聴きながら「だれかの居場所になれたらと思うようになった」と話す平山さん。また一緒に活動を行っている平山さんの姉は、自閉症のことを少しでも多く理解できるように児童発達支援士や発達障害コミュニケーションサポーターの資格を取得しており、今後も1人でも多くの人に寄り添えるよう姉妹でほかの資格も取得していきたいといいます。いつか、だれでも気軽に立ち寄れるようなリアルの場をつくりたいという夢もあるそう。そんな彼女が今、世間に伝えたいことを聞きました。
「知ってもらいたいのは、“世の中には多様な人がいる”ということ。たとえば、社会生活のなかではあいさつは当たり前にやることで、学校でもあいさつ運動とか活発にありますよね。でも、自閉症の子はその当たり前ができないことで自信をなくしたりする。できる人がやるのはもちろんとてもいいことです。でも、できない子どもがいることも知ってほしい。
そういったシーンは学校や社会生活のなかでたくさんあります。そんなとき、自閉症の人に限らずとも社会には多様なタイプの人がいることを理解してもらえたらうれしいですし、当事者も家族もそれを引け目に感じない世の中であってほしいなと思います。ふだんの生活をはじめ、保育園や学校に登校するまでに、自閉症の子はたくさんの試練があることを保護者の立場から伝えていけたら」(平山さん)
いつか、花粉症くらい気軽に「自分は自閉症だよ」と言える世界に
「自閉症の子どもを育てる親は、しばしば『しつけがなってない』『わがまま』『うるさい』などと言われたり、たとえ直接的に言葉で言われなくてもそういったまなざしを向けられたりすることがあります。私にもその経験がありますが、見た目ではわかりにくい障害だからこそ悩むこともあると思います。でも、そんな親御さんたちに伝えたいのは、理解してくれる人は必ずいるということです。今はそう思えないという方も、どうか諦めないでほしいです。
昔は、理解してもらえないと諦めていた時期が自分にもありましたが、最近は飲食店に行ったときに『子どもが自閉症なので、できれば端の席にしてもらえませんか?』と伝えることもあります。もちろん、すべての人やお店が受け入れてくれるわけではありませんが、私たちのような家族を受け入れてくれる場所は必ずあって。少なくとも愛鈴のことを知ってくれている方たちには、理解してもらえているなと感じます。だから、自分たちは社会に取り残されていると思わないでほしい。
でも、自閉症の当事者やご家族の方に『頑張って』と私は言えません。『頑張って』という言葉は逆に負担になってしまうこともあるので…。だから代わりに、『一緒に子育てしよう』と声をかけたいです。
ゆくゆくは、自閉症と診断されたときにショックを受ける人が世の中からいなくなることが理想です。そのためには、まず世間から自閉症のマイナスなイメージがなくならないといけません。私にできるのは小さなことかもしれませんが、そういう世の中にちょっとでも近づくように、だれかの役に立てるように、これからも自閉症の子どもたちとの暮らしや育児の楽しさをポジティブに発信していこうと思っています。
いつか花粉症くらいの認知度になってくれたら。そして、花粉症くらい気軽に『自分は自閉症だよ』と言える世界になったらいいなと思います」(平山さん)
お話・写真提供/平山愛理さん 取材・文/仲島ちひろ、たまひよONLINE編集部
子育てに悩んだ時期を、家族や周囲の支えによって乗り越えてきた平山さん。現在は自閉症の当事者やその家族を支える側(がわ)として、さまざまな活動に取り組んでいます。ネットやSNSが普及し「自閉症」という名前は認知されるようになっても、その特性やどのように行動すればいいかまではまだ一般的にあまり知られていません。私たち1人ひとりが関心を持ち、理解し、行動が変わることで、だれもが生きやすい社会への一歩につながるはずです。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることをめざしてさまざまな課題を取材し、発信していきます。
平山愛理さん
PROFILE
自閉症スペクトラム障害の当事者やその家族を支援するボランティア団体「みんなのわ いっぽいっぽ」を立ち上げ、長崎県佐世保市を拠点に活動中。YouTubeチャンネル「あられちゃんねる」やインスタグラムで子どもたちとの暮らしを発信している。
※「みんなのわ いっぽいっぽ」の活動にご興味のある方、またご賛同・ご協力いただける方はぜひ下記よりお問い合わせください。
【問い合わせ先】minnanowaippoippo@gmail.com
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年8月の情報で、現在と異なる場合があります。