子どもが「習い事を辞めたい」と言ったらどうするべき?小児脳科学者が語る、今の時代を生き抜くために本当に大切な力

小児脳科学者の成田奈緒子先生は、子育て相談を通して、子どもが幸せになるために大切なことをママ・パパたちに伝えています。子どもが幸せになるためには、ときには子育てへの考え方を見直すことも必要です。子どもの習い事や、子どもの将来の夢などの考え方について、成田先生に話を聞きました。全4回インタビューの3回目です。
子どもが「習い事を辞める」と言うと「裏切られた」と嘆くママ・パパも
成田先生の著書『パパもママも知っておきたい 子どもが幸せになる「8つの極意」』では、子どもが夢をもつことの大切さについて触れています。
――子どもが夢をもつことの大切さについて改めて教えてください。
成田先生(以下敬称略) 子どもが夢をもつということは、将来を想像できる力がはぐくまれている証しです。
「〇〇選手みたいになりたい!」と夢をもって、習い事を頑張る子もいるでしょう。しかしママ・パパの中には、子どもに過剰な期待を寄せて、子どもの夢がいつしかママ・パパの夢に代わってしまうこともあります。
――たとえば、どういうことでしょうか。
成田 子どもの習い事へのママ・パパの力の入れ方が過剰になっているケースが多いと感じています。子どもの習い事中心に生活が回っている家庭もあります。ママ・パパに「なぜ、そこまでして〇〇を習わせるのですか?」と聞くと、「子どもがやりたいと言ったから」と言います。
しかし、子どもが習い事を辞めたいと言い出すと、ママ・パパのほうが「これまで、どのぐらいお金と時間をかけてきたと思っているの?」と言って、辞めさせようとしません。
私が代表を務める子育て支援事業「子育て科学アクシス」にも、「子どもに裏切られた」と嘆きながら相談にくるママ・パパもいます。「子どもに習い事を辞めさせたくない!」と言うんです。
――「子どもに裏切られた」とは、どういう意味でしょうか。
成田 お金の問題が1つあるのでしょう。習い事を「投資」と考えているのか、相談にくるママ・パパに習い事にかけている費用を聞くと驚くこともあります。
習い事も勉強も、お金をかければかけるほど、見返りを求める傾向が強くなるというのがよくない点です。
子どもの習い事は「いつか飽きて辞めるかも。でも、それでもいい」と思えるぐらいがちょうどいいんです。
私は大学で多くの学生とかかわっていますが、なかには「子どものころにピアノを習っていたけど、小学生のときに辞めたんです。でも、またピアノを習いたいんです」と、笑顔で言ってくる学生もいます。
子ども時代の習い事は、ママ・パパが思うようにいかないこともあるかもしれません。しかし高校生や大学生、大人になってから再び始めて、楽しめることもあります。
子どもが夢を語ったら、否定しないで! 子どもの夢に興味をもとう
成田先生は「子どもが将来の夢を語るのは、脳が順調に育っている証し。ママ・パパは、喜んで見守ってほしい」と話します。
――子どもが将来の夢を語り始めたら、親はどのようにかかわるといいのでしょうか。
成田 子どもが将来の夢を語るのは、脳が順調に育っている証しなので、否定しないことが大切です。「そうなんだね!」と受け入れて、子どもの夢に興味をもってください。
たとえば「将来、ユーチューバーになりたい」と言ったら、「何のユーチューブが好きなの?」と聞いて、親子で子どもが好きなユーチューブを一緒に見てもいいでしょう。なかには「ユーチューバーなんて・・・」と思うママ・パパもいるでしょうが、子どものほうが「編集作業って大変なんだよ」「登録者数を増やすって大変なんだよ」と、現実を意外と知っているものです。
私自身、ゆるく楽しく言語の話をする『ゆる言語学ラジオ』というユーチューブが好きで、娘にすすめたこともあります。男性2人組ですが、1人は大学の文学部で言語学を学んでいます。
今、大学でも文学部を志望する学生が減っています。研究者も文系は少なくなっています。
私のところに大学進学について相談にくるママ・パパからも「うちの子、文学部に行きたいって言うんです。でも経済学部に行かせたいので説得してください」と言われることもあります。
しかし『ゆる言語学ラジオ』を知ってから、文系を研究する人の道が広がったと思いました。「こういう道もあるんだ!」と感心しました。ママ・パパたちには、時代は変わっているということを再認識してほしいと思います。
今の時代を生き抜くために大切なのは、自分の居場所を見つける力
子どもの夢を否定するママ・パパは、子どもに過干渉の傾向が。子どもとのかかわり方を見直すことが大切です。
――ママ・パパが子どもの将来の夢を否定したときの、子どもへの影響を教えてください。
成田 どうせ夢を抱いても、ママ・パパに否定されるので、しだいに子どもは夢を抱かなくなります。
また夢を否定するママ・パパは、何事に対しても子どもに過干渉な傾向があります。そのため、子どもは「どうせ何か言っても親に否定される」と思い、自分で自分の道を切りひらかなくなります。親に言われるがまま、親の希望どおりの進路を歩もうとします。しかし、それがうまくいかず親子関係に亀裂が生じる家庭は少なくありません。
ママ・パパの中には、「有名大学を卒業して、有名企業に就職することが、子どもの幸せにつながる」と信じている人もいますが、有名企業に就職してもリストラだってあるし、ハラスメントで心身ともに疲弊してしまう人もいます。幸せのカタチは、多様化しています。今の時代を生き抜くために大切なのは、自分の居場所を見つけられる力を養うことです。その居場所は、ママ・パパが望む場所ではないかもしれませんが、理解することが必要です。
――将来の夢については、子どもの意見を尊重するといいのでしょうか。
成田 子どもの意見を聞きつつ、子どもの個性をよく見て、可能性を広げるようなかかわり方をしてください。
たとえば子どもが絵が上手で「デザインの仕事をしたい」と言うならば、「〇〇ちゃん、絵が上手だね。もっと絵を描いてみる?」と聞いて、画材を買い与えてもいいでしょう。
「運動神経がいいな」と思えば、子どもが楽しめそうなサッカークラブなどをすすめても構いません。
ただし子どもが興味を示さないときは、無理強いはしないでください。本人の意思で始めて、本人の意思で頑張ることが大切です。
お話・監修/成田奈緒子先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
習い事や子どもの夢は、親が過剰に口をはさまない練習の場でもあります。成田先生は「ママ・パパには、親と子どもは別の人間ということを、乳幼児期から理解してほしい」と言います。
●記事の内容は2024年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『パパもママも知っておきたい 子どもが幸せになる「8つの極意」』
子どもの脳の育て方、子育ての方針の決め方、コミュニケーションの取り方など、夫婦で共有しておきたい8つの極意を紹介。パパにもママにも読んでほしい、子も親も幸せになる新時代の子育て論。成田奈緒子・上岡勇二著/1650円(産業編集センター)