「親が過度に頑張ると、子どもが生きづらくなる」小児脳科学者が伝える、子どもが幸せになる極意

小児脳科学者の成田奈緒子先生は、子育て支援事業「子育て科学アクシス」(以下アクシス)の代表を務めていて、これまで多くのママ・パパたちから相談を受けてきました。成田先生は「“子どものため!”といってママ・パパが過度に頑張ると、子どもが生きづらくなる」と言います。子どもが幸せになる親のかかわり方について、成田先生に話を聞きました。全4回インタビューの4回目です。
「親のゆるんだ姿を見たことがない」と言う子どもも。完璧主義がもたらす影響
成田先生は、著書『パパもママも知っておきたい 子どもが幸せになる「8つの極意」』で、ママ・パパが心と体を休めることの大切さについて触れています。
――ママ・パパが、心と体を休めることの大切さについて教えてください。
成田先生(以下敬称略) 完璧主義のママ・パパにとくに見られる傾向ですが、子どものためとなると、過度に頑張り過ぎてしまうんです。
どんなに疲れていても元気なふりをして、朝早く起きて手の込んだお弁当を作って、子どもを幼稚園に送っていき、幼稚園から帰ってきたら習い事の送迎をして、家事も完璧にこなす――そうした毎日を、頑張って続けているママ・パパがいます。
ある子どもは「家の中で、ゆるんだママの姿を見たことがない」と言っていました。外だけでなく家の中でも、ママ・パパが完璧をめざして頑張っているのでしょう。
でも頑張り過ぎは、自分自身にも子どもにも、いい結果をもたらしません。
ハードスケジュールでも無理して頑張り、急にバッテリーがゼロになってしまう子どもも
成田先生は「頑張り過ぎるママ・パパを見て育つと、子どもも同じように頑張り過ぎる傾向が強い」と話します。
――ママ・パパが頑張り過ぎると、子どもにはどのような影響がありますか。
成田 家庭の中で、ママ・パパが頑張る姿ばかり見せていると、子どもも頑張り過ぎる傾向があります。勉強、友だちの誘い、塾、習い事など予定がいっぱいでも「全部こなさないと!」と、がむしゃらに頑張ります。「今日は、友だちの誘いは断ろう」「今日は疲れたから、習い事は休もう」と、自分で考えて調整ができないんです。とくに真面目な子どもに多い傾向です。疲れていても、自分が疲れていることにすら気づかない子どももいます。
そして頑張り過ぎているうちに、急にバッテリーがゼロになったように、朝、布団から出る気力すらなくなってしまうことがあります。そのまま不登校になってしまう子どもがたくさんいます。
新入社員が、ストレスにさらされて急にダウンしてしまうのも、ストレスコーピングができていないためです。
無理をしないママ・パパを見ることで、子どもはストレスコーピングを学ぶ
ストレスコーピングとは、自身のストレスを理解して、対処するセルフケアの1種です。
――ストレスコーピングについて教えてください。
成田 ストレスコーピングとは、自分のストレスの状態を理解して、対処するセルフケアです。
――具体的には、どのようにするといいのでしょうか。
成田 たとえば、疲れているときは休むことを優先にしましょう。「子どものため!」と無理して食事を作ることはありません。「今日は、疲れたからお弁当ね」と言って、買ってきたお弁当を食卓に並べてもいいですし、「今日は、疲れて早く寝たいから、夕ごはんはお茶漬けでいいよね」とお茶漬けを出しても構わないんです。子どもやパートナーが協力してくれたら「助かった」「ありがとう」と、すなおにお礼を言いましょう。
そういう生活が当たり前になることで、子どもも無理をしないことや、「大変なときは、こうして手を抜けばいいんだ」「疲れているときは、疲れているって言っていいんだ」ということを学びます。
ママ・パパの姿を見て、子どもがストレスコーピングを身につければ、前述のように急にバッテリーがゼロになって、布団から出られなくなるということも防げるでしょう。
――ストレスコーピングで、ときには子どもをパートナーに任せて、自分の時間を作ってもいいのでしょうか。
成田 いつも夫婦一緒になって、子育てをする必要はありません。リフレッシュしたいときは、パートナーに子どもを任せて、自分の時間を作りましょう。
私も娘が幼いとき、リフレッシュが必要だと思い、夫に娘を任せて「ちょっと旅行に行って来るね」と言って、1人でホテルに泊まり、映画や演劇を観たりして、リフレッシュしたことがあります。帰ってきたら、娘と夫に「ありがとう! 〇〇の映画を観てきて、すごく楽しかった」と話しました。
私のそうした姿を見て育ったため、娘もストレスコーピングが上手にできています。
リフレッシュするには、1人でショッピングをしたり、映画を観に行ったりして、多少なりともお金がかかります。でも子どもは、ママ・パパがリフレッシュする姿を見て「自分も将来、ママ・パパみたいに自由な時間がほしい。そのためには経済的に自立しないと!」考えるようにもなります。
――リフレッシュはしたいけれど、パートナーなどに子どもを任せるのは心配というママ・パパもいるようです。
成田 「実の親や義理の親に子どもを預けると、お菓子ばかり与える」「自分がいないと部屋が散らかる」などの理由で、子どもを任せられないというママ・パパもいるようですが、そこは少しおおめに見るようにしましょう。「命の危険さえなければOK!」と考えてはどうでしょうか。子どもに「おばあちゃんからお菓子もらったの? ラッキーだったね」と笑って言えるぐらい、心に余裕をもちましょう。
「お菓子ばかり与える」「散らかる」などの理由でリフレッシュできず、ストレスがたまるよりも、子どもと離れて自分を取り戻すほうが大事です。
親やパートナーを含め、社会にはいろいろな人がいて、親も子どもたちもこの先、いろいろな人に出会っていきます。「〇〇でなくてはいけない!」という考え方をやわらげ、完璧主義をやめると、子育てはしやすくなります。
お話・監修/成田奈緒子先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
成田先生は「子育ては、何年も続くものだから細く長く。ときには手を抜き、ママ・パパ自身、リフレッシュしながら、子どもとの生活を楽しんでほしい」と言います。
●記事の内容は2024年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『パパもママも知っておきたい 子どもが幸せになる「8つの極意」』
子どもの脳の育て方、子育ての方針の決め方、コミュニケーションの取り方など、夫婦で共有しておきたい8つの極意を紹介。パパにもママにも読んでほしい、子も親も幸せになる新時代の子育て論。成田奈緒子・上岡勇二著/1650円(産業編集センター)