SHOP

内祝い

  1. トップ
  2. 赤ちゃん・育児
  3. 赤ちゃんの病気・トラブル
  4. 低出生体重児・小さく生まれた赤ちゃん
  5. 1000g以下で生まれた小さい赤ちゃんの命。必死で守ろうとする看護師たちの姿~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】

1000g以下で生まれた小さい赤ちゃんの命。必死で守ろうとする看護師たちの姿~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】

更新

体重1000g未満で生まれたみづきくんを初めて胸に抱くお父さんと、2人に寄り添うお母さん。

妊娠・出産などで入院する際に、妊婦や赤ちゃんのいちばん近くにいてくれる看護師さんたち。新生児集中治療室(NICU)で医療を受ける赤ちゃんたちにとっても看護師さんは大きな存在です。テレビドラマ『コウノドリ』でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター周産期医療センターの豊島勝昭先生に聞く短期連載。第10回は、NICUの赤ちゃんと家族を支える看護師の役割について聞きました。

小さく生まれた赤ちゃんと両親の触れ合いを大事に

――神奈川県立こども医療センター(以下、神奈川こども)のNICUでは、カンガルーケアを積極的に行っているそうです。最近のカンガルーケアの様子を教えてください。

豊島先生(以下敬称略) 体重1000g未満で生まれたみづきくんのことをお話しします。みづきくんは、保育器の中で約1カ月間、さまざまな治療を受けていました。生後1カ月を過ぎたある日、人工呼吸器管理は続いていましたが、ご両親と担当医や看護師さんと一緒に予行練習した上で、初めてのカンガルーケアをしました。ご両親と、見守るスタッフたちで喜び合う笑顔がとてもすてきでした。

――体重1000gに満たない赤ちゃんも胸に抱くことができるのですね。

豊島 1000g未満で生まれた赤ちゃんたちは体温が下がりやすく、閉鎖型の保育器の中で体温維持してあげることが必要ですが、カンガルーケアは、ご両親の胸の上で素肌と素肌を合わせるように抱っこするので体温が下がらずにすみます。
また、カンガルーケアには母乳の分泌を増やし、赤ちゃんたちの成長を促進し、両親のストレスをやわらげることなどの報告もあります。

日本の多くのNICUと同様に神奈川こどもでも10年くらい前まで、1000g未満の赤ちゃんの人工呼吸器がはずれるまでは、保育器から外に出してのご両親の抱っこはしていませんでした。ホールディングといって手で包むように触れるスキンシップをしていました。

しかし、当院のスタッフたちがスウェーデンのNICUを見学すると、1000g未満の赤ちゃんたちでも、生後1週間ほどの人工呼吸器をしている状態で保育器の外に出てご家族がカンガルーケアをしていました。見学したスタッフは、早産の赤ちゃんたちが集中治療を受けながらでも、両親と触れ合いながら過ごす姿に感動したことを伝えてくれました。

そういった海外のNICUの取り組みを知り、私たちも、赤ちゃんの状態が安定したら人工呼吸器をつけながらのカンガルーケアをすることに取り組んできました。実際にまだ人工呼吸器につながっている赤ちゃんたちのカンガルーケアを実施してみると、親子水入らずで過ごしている間は、呼吸の状態がむしろ安定していることが多いと感じています。

――人工呼吸器をしている小さな赤ちゃんにカンガルーケアをすることの難しさはどんなところですか?

豊島 1000g未満の赤ちゃんたちは、肺の発達が未熟で酸素を体内に十分に取り込むことが難しいため、生後1カ月~2カ月くらいは肺の近くに気管チューブを挿入した上で人工呼吸器のサポートが必要なことが多いです。人工呼吸器をつけている間は、保育器からご両親の胸に移動してもらうときに人工呼吸器がはずれたり、気管チューブが抜けてしまうと呼吸が苦しくなってしまうリスクがあります。100%安全とは言えません。

だからカンガルーケアを行う際には、事前にご両親にカンガルーケアの説明をして、看護師さんたちと一緒にシミュレーションなどの事前練習をした上で、安全に気をつけながらカンガルーケアを行うことにしました。保育器から移動するときには、赤ちゃんの様子をよく観察しながら、体についているたくさんのチューブなどが抜けてしまわないようにスタッフとご家族が一緒に細心の注意を払いながらカンガルーケアをしています。

NICU看護師には赤ちゃんたちへの知識や技術が必要

お父さんの胸の上ですやすやと呼吸も穏やかに過ごす、みづきくん。

――そのように繊細なケアが必要なNICUで働く看護師さんは、専門的な知識や資格が必要なんでしょうか?

豊島 NICUで働く看護師さんは看護師免許以外の特別な資格が必要なわけではなく、神奈川こどものNICUでも看護学校を卒業したばかりの新人看護師さんたちが先輩たちと一緒に赤ちゃんたちを担当しています。
しかし、早産児の看護には成人や小児とも異なる必要な知識や技術がたくさんあり、専門性は高く、NICU看護師さんとして独り立ちしていくにはやはり5~10年間が必要です。

日本は、先進国の中でNICUに配置される看護師の人数が少ない国です。ヨーロッパではNICUの患者さん1~2人に1人の看護師が配置されますが、日本の看護師配置基準ではNICUの患者さん3人に対して1人です。集中治療中の3人を同時に看護しなければならない負担はとても大きいです。日本の新生児医療は成績がいいけれど、過酷な状況で働いている看護師さんの頑張りに頼っている部分があります。

――看護師さんたちは赤ちゃんたちにどんなケアをしていますか?

豊島 NICU看護師さんたちは、1000g未満で生まれた早産児の生後3~4日の不安定な状態で命を守ったり、合併症を防いでくれています。その時期を乗り越えても、過剰な酸素療法や人工呼吸器のサポートで肺にダメージが積み重ならないように、呼吸ケアをしたり、未成熟な皮膚から感染症などが広がらないようにこまやかな皮膚ケアをしてくれています。
自分の言葉で症状を伝えられない赤ちゃんたちの表情やしぐさ、生体モニターのバイタルサインからささいな変化をくみ取って、1人1人の赤ちゃんに合わせたミニマルハンドリング(必要最低限の処置)の看護があってこそ、早産児の未来は守られます。

また、NICU卒業生のママさんたちはお子さんの退院後に「“NICU育児ノート”が宝物です」と見せてくれることが多いです。NICU育児ノートは看護師さんが作ってくれていて、ママ・パパたちたちが面会していない時間の赤ちゃんの様子を書きとめたり、かわいい表情の写真を残してくれているものです。NICUに入院するご家族にとって看護師さんたちの存在は大きいと実感しています。

NICUの看護師になるために、特別な資格は基本的には必要はありませんが、新生児のケアをするための専門的な資格を取っている看護師さんたちもいます。

――専門資格とはどんなものですか?

豊島 「新生児集中ケア認定看護師」という、重篤な状態にある新生児に高いレベルの治療や看護を行うための認定看護師資格があります。新生児集中ケア認定看護師の講義を開講している学校で学び、NICUでの実地研修を経て、試験を受ける認定資格で、現在全国にこの資格の取得者は420人ほどいて、全国の総合周産期医療センターの7割以上のNICUで勤務しています。

新生児集中ケア認定看護師たちは国内外のNICU看護の情報交換や連携しながらよりよい新生児看護を日本に広げようと頑張っています。

神奈川こどものNICUでもこれまで4名の新生児集中ケア認定看護師がいました。脳室内出血や感染症を減らす看護、24時間面会やきょうだい面会、ファミリーセンタードケアなどの現場からの提案をしてくれつつ、全国のNICUに伝えてくれていました。

チーム医療はさまざまな専門性を教え合うのが大切で、そのほかには母乳育児を支援する国際ラクテーションコンサルトを習得している看護師さんたちもいます。
また、NIDCAP(Newborn Individualized Developmental Care and Assessment Program)を学んだNIDCAPプロフェッショナルがあります。

赤ちゃんの動きや皮膚の色から状態を読み取ってケアする

――NIDCAPはどんな専門性か教えてください。

豊島 NICUにいる早産の赤ちゃんにとって、室内の明かりや医療機器の音、検査などの医療行為がストレスになることがあります。NIDCAPは、そういったストレスによって発達などに影響が出ないように、赤ちゃんの動きや皮膚の色などを観察して心身の状態をくみ取って、その子に合わせた看護をするプロフェッショナルです。このプログラムはアメリカで開発されました。
医師や理学療法士などの職種でこの認定資格を取得した人たちもいますが、NICUの看護師さんたちが取得することが多い認定資格です。

――なぜNIDCAPのようなケアが大切なのでしょうか。

豊島 早産児の救命医療は進歩して、救命できる赤ちゃんたちが増えています。日本のNICUの救命率は世界トップクラスかもしれません。一方で、退院したあとの発達や生活に不安があることも事実です。だからNICUは命を救うだけでなく、子どもたちの特性を理解して、より発達しやすい環境を作るようなこと、それを家族にシェアして一緒に考えることが大切だと考えています。

赤ちゃんがNICUに入院している生後3~4カ月は、赤ちゃんの発達にとっても大切な時期です。小さく生まれた赤ちゃんは言葉を話せませんから、ともすれば医療者のペースで業務的に医療行為を行ってしまいかねません。赤ちゃんの様子をよく見ながらその子に合わせて医療行為をすることは、集中治療がトラウマにならず、子どもの発達を促す可能性があると期待されています。

NICUの赤ちゃん・家族・医療者で、それぞれがお互いに育ち合うために

NICUで夜勤中の看護師さんたち。看護学校時代に豊島先生の講義を聴いて新生児医療に興味を持ったそうです。

――親の立場からしても、赤ちゃんの状態を代弁してくれるような存在は心強いですね。

豊島 そうですね。赤ちゃんの反応や発達に合わせて育児していくことをご家族がNICU入院中から身につけていくのをよりよく支援できる役割とも言えます。

またこれからNICUに増えていくだろう認定資格としては、採血などの医療手技や治療の説明を医師と同様に担当できるナース・プラクティショナー(NP)があります。

専門性のある資格を持った人がチームにいると、チーム全体によりよい医療を提供するために専門知識を共有していくことができます。

――NICU看護師さんたちの働く時間や環境はとても大変な印象があります。

豊島 集中治療の現場は夜勤も多く過酷さもありますから、だれもが長く続けられるわけではなく離職率も高いです。
大変さもある職場でも、救えた赤ちゃんの命をご家族と喜んだり、見守っていた赤ちゃんが成長して笑ったりすると、両親と一緒に育てている気持ちになったり、やりがいを見いだして長く働いてくれる看護師さんたちもいます。

NICUはそんな看護師さんたちがいてこそ成り立っている現場です。看護師さんたちが長く働き続けられることが、ひいては赤ちゃんたちをよりよく救うことにつながると思っています。
大変な業務に加えて、新生児集中ケア認定看護師やラクテーションコンサルトといった専門資格にチャレンジしている看護師さんたちの多くは時間外の学習などの末に資格を修得しています。

欧米の大きな周産期医療センターでは、NICU看護の専門性を重要視して、NICU看護師は希望すればNICUで働き続けられるようです。一方、日本の病院では、幅広いスキルや技術を身につけるために看護師さんは3~4年間隔で異動や転職をするという考え方が普及しているように思います。NICU看護師は育成に時間がかかるものですが、日本ではなかなか専門性を高めにくい現状があるんです。

経験や資格を得た看護師が働き続けられない体制だと、専門性を身につけようとする看護師さんたちが増えていかない気がして、日本の新生児医療の未来が心配になることもあります。

赤ちゃんたちを1人1人の特性や事情を踏まえて応援したいNICUだからこそ、NICUの医療チームもいろいろな人たちがいて、それぞれを応援しあえるチームになりたい。チーム医療は皆が同じことをすることを求めるのではなく、さまざまなできることや得意を持ち寄って補い合うのが大切に感じています。

特別な資格などがなくても、育児や介護と両立しながらNICUで働き続けてくれる看護師さんたちも大切ですし、看護師長さんたちのように管理的な視点で看護チームをまとめる人も大切です。さらに現場で看護をよりよくしていく専門資格のある看護師さんたちの専門性をいかせるNICUに変わっていけたらと思っています。同じ仕事をするのがチームではなく、それぞれの事情や得意を出し合っていくことでよりよいチーム医療ができると信じています。そんなことを考えて、今は県内の看護学校で看護学生に新生児医療の授業を担当しています。

お話・監修/豊島勝昭先生 写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

「患者や家族のつながりが大きいからこそ、看護師の育成が非常に大事」なのだと豊島先生は話しています。

神奈川こどもNICU 早産児の育児応援サイト

がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2

●記事の内容は2024年12月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

赤ちゃん・育児の人気記事ランキング
関連記事
赤ちゃん・育児の人気テーマ
新着記事
ABJマーク 11091000

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第11091000号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→ https://aebs.or.jp/

本サイトに掲載されている記事・写真・イラスト等のコンテンツの無断転載を禁じます。