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たった5㎝の小腸で生きる。24時間、点滴を手放せない「短腸症候群」の男の子。日々寄り添う両親の願いは…【体験談】。

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「蒼くんのリュックには点滴が。結構重いのですが、蒼くんはもろともしません」(ママ・亜沙美さん)

戸川家の長男として誕生した蒼斗くん。生まれてまもない入院中におなかが黒くなり、緊急手術を受けました。原因を判明しようとおなかを開けてみると、小腸の入り口がねじれて、その先が壊死していることが判明。壊死は全体の95%にものぼり、切除後に残った腸はわずか5cmの「短腸症候群」となりました。
これまで度重なる手術や毎日のケアを乗り越えながら日々を歩んでいる戸川さん家族。今回は前編に引き続き、蒼斗くんを育てるパパの拓哉さんに、最近の蒼斗くんの様子や将来の展望についてお話を聞きました。

▼<関連記事>前編を読む

蒼斗くんがいつも背負っているリュックの中身は…

「最近の蒼くんとお姉ちゃん。蒼くんの今のリュックは4代目です」(ママ・亜沙美さん)

蒼斗くんのトレードマークともいえるアイテムがあります。それは背中に背負ったリュック。中に入っているのは荷物ではありません。点滴です。

「蒼斗は食べ物から栄養を吸収するのが難しく、24時間、点滴をつないで栄養や薬を入れています。以前は外出時のみリュックを背負い、家の中では点滴棒につるしていましたが、最近は動き回って危ないので、就寝中以外は家の中でもリュックに点滴を入れて背負っています。
リュックの重さは、点滴満タンの状態で2リットルのペットボトルほど。蒼斗はもっと小さいころから背負い続けてきており、今では重さをものともせず俊敏に走り回っています。
リュックはもう蒼斗の一部みたいな存在のようで、嫌がるどころか、点滴がなくなると『点滴がなくなったよー』と教えてくれたり、点滴のアラームが鳴っていると教えてくれます」(パパ・拓哉さん)

食べ物からの栄養摂取は難しいものの、食事の時間は大事に

「サービスエリアでアメリカンドッグに興味をもった蒼くん。中のソーセージが見えるあたりまで食べました!」(ママ・亜沙美さん)

点滴で栄養を摂取している蒼斗くん。腸がとても短いので、食べ物から栄養を吸収することが難しい状態です。ですが、将来的に食事の時間を嫌がることがないよう、家族は蒼斗くん用のごはんも毎回、必ず用意。蒼斗くんはみんなと一緒に席につきます。

「今は腹部に穴をあけてチューブを入れ、そこから栄養をとる“胃ろう”もしているのですが、主治医からは『食事をすることが嫌にならないように』と言われています。そのため、胃ろうからの栄養剤に加えて、素材の味や食感を楽しめるよう、食べたいものを1日一口だけでもいいから口にしてもらうようにしています。言い方は悪いですが、仏壇にお供えするよりも少ないくらいの量です。

蒼斗は意外とキムチなど、からいものやお肉が好きですね。お肉は焼き肉を食べることも。ほかにはマヨネーズとかツナとか海苔とか、調理されたごはんよりも素材のままを食べていることがほとんどですが、少しでも『食べたい』と言ったものを食べさせて、食事への興味を育んでいけたらいいなと思っています」(パパ・拓哉さん)

排せつは苦手。食べたり飲んだりすると、すぐに出る

「毎年参拝している静岡の神社。願いごとがかなうといわれており、蒼くんが健康のパワーを授かれるように祈りました」(ママ・亜沙美さん)

短腸症候群の影響で「食べること」と同じ、もしくはそれ以上に苦労しているのが「排せつすること」です。

「4歳になった今もトイレはとても苦手です。便がゆるく、一般の人の体調が悪いときの下痢くらい。食べ物を食べたり、短腸症候群には必須な”エレンタール“という栄養剤を飲んだりすると、すぐに下痢をしてしまうので、おむつをはいています。おしっこも含めると、1日10回ほどおむつ交換をしていますが、それが原因でおしりが荒れてしまうことが…。 

排せつ量が多くてモレてしまうこともあります。深夜でも『うんち、出たー』と知らせてくれますが、目も手も離せない状況です。防水シーツなども敷いていますが、解決してはおらず、なかなか思いどおりにいかないことばかりです」(パパ・拓哉さん)

大阪に引っ越してから、治療の幅が広がった

「蒼くんが1歳になったくらいのころ、お姉ちゃんの七五三の前撮りをしました。このときは大阪に引っ越すなんてまったく思っていなかったです」(ママ・亜沙美さん)

蒼斗くんの治療のために、愛知から大阪に引っ越してきて、もうすぐ2年。決死の思いで決めた引っ越しでしたが、引っ越して来て本当によかったと拓哉さんは振り返ります。

「引っ越してから主治医の指導のもと、蒼斗の体調をていねいに管理できるようになったり、成長曲線に触れることのなかった身長体重が、成長曲線に触れることができるようになりました。また、すぐに対応してもらえる病院が近くになった安心感は他に変えがたいものです。
今だと蒼斗がちょっと熱を出したときも、すぐに受診できますし、検査して『これは風邪だね。大丈夫そう』となれば、退院もできる。愛知にいたときは何かあったら不安だからと1カ月ぐらい入院することも多かったので、全然違いますね」(パパ・拓哉さん)

最近、腸を3倍に引き伸ばす手術を経験

「入院中の蒼くん。腸を引き伸ばす大手術をしたときは、1カ月ほど入院しました」(ママ・亜沙美さん)

2025年2月、小腸を延長する大手術を行った蒼斗くん。それも大阪に引っ越して来たからこそ、安心して受けることができた手術でした。(※手術を受けたのは田附先生が異動した先の兵庫医科大学病院です)

「14時間の大手術でした。もともと5cmだった小腸を切って、斜めに引き伸ばし、縫い合わせて3倍の15cmに伸ばしました。腸管は細くなりましたが、成長とともに太くなることが見込まれています。
今後もできれば同じ延長手術を受けたいと考えていますが、この手術が安心して受けられるのも、引越しをして来たからこそです。蒼斗の未来にとって、とても大きなメリットだと思います」(パパ・拓哉さん)

同じ短腸症候群の患者さんで30歳くらいのときに、点滴を離脱できたケースもあるのだそう。蒼斗くんの状況が同じようになれればいいなと戸川さん夫婦は願います。

「蒼斗の場合、もとの腸がその方よりもさらに短いので、同じようになれるかはわかりませんが…。ただ、点滴を続けると臓器への負担があるのも事実で、蒼斗がこのまま20歳や30歳を迎えられるのかと心配になることもあります。だからこそ、いつか点滴から卒業し、口から取る食事の栄養だけで生活できるようになることが夢であり、目標です」(パパ・拓哉さん)

困っている人同士、積極的に情報交換できるようにしていきたい

「2025年、お弁当屋さんをオープン。写真のひじき煮はお弁当にも入れているおかずです。お店でも短腸症候群のことを紹介するチラシを置いています」(ママ・亜沙美さん)

ママの亜沙美さんは蒼斗くんの日常をインスタグラムで小まめに発信。パパの拓哉さんはブログで詳しい病状を書いています。また最近では、とあるYouTubeの番組で、蒼斗くんの短腸症候群が取り上げられる機会も。もともとこの病気のことを知ってもらいたくて始めた発信活動でしたが、そうした情報を公開していくと、同じように困っている方からたくさんの声をかけられるようになりました。

「『点滴の固定はどうしていますか?』だったり、『おふろのときは、どうしていますか?』だったり。みんな手探りでやっているし、そのときの不安感も本当に理解できるもので…。だからこそ、僕たちのやり方を伝えたり、他の方の『こんな方法もあるよ』という情報を共有したりしています。
たとえば、医療物品って一つ一つが驚くほど高いんです。毎回のおふろに入るときに使う保護テープが1枚1000円ほどします。こういういいものがあって、ここで安く売っていますよ』みたいな情報があれば、正直、とてもうれしいし、助かります。さらに、ほかの家庭もその情報を知ることができたら、すごく役立つはず。
また、短腸症候群にかかわる海外の日本未承認薬を蒼斗が使った経験があり、当時はとても役立ちましたし、将来的に再び使う可能性も大きいので、『それを使ってよかったよ』みたいな発信もしていきたいと思います。その未承認薬が必要だという声がもっと高まれば、いつか日本でも承認されるかもしれないと思うからです。
なので、そういった患者や患者の家族同士がお互いに助け合って、ウィンウィンとなる情報交換を、SNSを通して今後もしていきたい。そこを目標に、これからも蒼斗の短腸症候群に関する発信を続けていければと思っています」(パパ・拓哉さん)

お話・写真提供/戸川拓哉さん 取材協力/戸川亜沙美さん 医療監修/田附裕子先生(兵庫医科大学附属病院小児外科) 取材取材・文/江原めぐみ、たまひよONLINE編集部

生まれてすぐに手術を受けた際には「1歳の誕生日まで生きられないかもしれない」と告げられていた蒼斗くん。今では元気いっぱいの4歳に成長し、周囲からは「奇跡の子ども」と呼ばれています。日々、更新されるインスタグラムには、屈託のない人なつっこい笑顔があふれています。この奇跡がこれからも続くことを願いつつ、戸川さん一家の挑戦はこれからも続きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。


●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年10月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

戸川蒼斗くんのインスタグラム

戸川蒼斗くんのブログ

短腸症候群を知ってもらう会

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