あなただけじゃない!授乳が不快という感覚…D-MERとは?
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D-MER(ディーマー・不快性射乳反射)を知っていますか? 赤ちゃんが母乳を飲み始めると、突然、不快でネガティブな感情に襲われることです。母乳育児の幸福なイメージからは、ちょっと想像しにくいこの症状。珍しいことではないようです。今回はD-MERについて、母乳育児に詳しい新生児科医・奥起久子先生に聞きました。
原因はわかっていませんが「射乳反射」の変わったかたち
赤ちゃんに母乳を飲ませているときに「気分が悪くなる」「イライラする」といった不快に襲われたことはありませんか? それはD-MERかもしれません。近年、ネットなどでも見かけるようになったD-MERという言葉。いったいどんなものなのでしょうか?
「D-MERは不快な感情が起こることから、”授乳に幸せを感じられない私は、異常なんじゃないか“、”母親失格なのでは?“と、ママが1人で悩んでしまうことが問題です。
D-MERは生理的な現象。重大な病気の前兆ではありませんし、悪化することもありません。産後うつでもないので、まずは安心してください」(奥先生・以下同)
では、どうして授乳で不快な感情が起こるのでしょうか?
「原因はわかっていませんが、射乳反射の変わったかたちではないかと考えられています。母乳は、赤ちゃんが乳頭を吸うことによってママの脳が刺激され、オキシトシンというホルモンが乳腺に働きかけ噴出します。
オキシトシンは”LOVEホルモン“ともいわれ、ママの情緒にも作用します。そのため、大多数の人が授乳時に赤ちゃんをかわいいと感じたり、幸福を感じたりするわけです。けれどごく少数ではありますが、授乳によって中には不快感を覚える人もいるのです」
母乳育児の支援者に相談しながら、つき合っていきましょう
D-MERがつらい場合は、どうしたらいいでしょうか?
「授乳を続けていても、数分でおさまることが多いようです。症状が重い場合、海外では薬剤が用いられます。有効な手だてがない場合、母乳をやめる選択をする人もいますが、たいていは長期間続くことはないようなので、信頼できる母乳育児の支援者に相談しながら、つき合っていきましょう。周囲の理解や支援も大切です。
D-MERが最初に報告されたのは2007年ですが、昔から授乳で不快を感じた人はいたようです。まずはD-MERについて知ることが、第一歩になります」
母乳が出るしくみとは?
「ホルモンの働きが合わさって母乳がつくられ、噴出します。赤ちゃんが乳頭を吸うと、その刺激はママの脊髄(せきずい)を通り、脳下垂体(のうかすいたい)に伝わります。すると、脳下垂体から射乳ホルモン・オキシトシンが分泌され、催乳ホルモンといわれるプロラクチンの働きで、乳腺房ですでにつくられていた乳汁がしぼり出され、湧き出るように出てきます。一説では、D-MERはプロラクチンが用いられる際に脳内のドーパミンが一時的に低下することが原因で起こるといわれています」
(取材・文/ひよこクラブ編集部)
■監修:奥 起久子先生
東京北医療センター小児科 新生児科医。NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 広報事業部長。母乳育児支援の国際認定資格・国際ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)。