【小児科医監修】8歳の男の子、おたふくかぜではなかった耳の下の腫れ
8歳の男の子が耳の下の腫れと、発熱で来院しました。「おたふくに効く薬はないので、様子を見ていた」というママですが、実は別の病気だったようで…?
赤ちゃんやママ・パパにいつもやさしく寄り添う陽ちゃん先生こと、小児科医の吉永陽一郎先生。「ひよこクラブ」も頼りにしている先生の、日々の診察室で起きた思い出深いできごとをつづります。「小児科医・陽ちゃん先生の診察室だより」#8
耳の下の腫れと続く発熱で受診
8歳の男の子がお母さんとやってきました。「おたふくかぜですが、熱が続くので念のために来ました」
お母さんは、受付でスタッフに伝えてくれました。
「4日前から両方の耳の下が腫れて、痛がります。熱もあります。おたふくかぜには、治療法がないので様子を見ておくしかないと聞いていたので、元気だったし、そのままにしていました」
受付のスタッフは、すぐにクリニックの別室に案内しました。感染症のお子さんは、ほかの子にうつすことがないように、まずそこにいてもらうようにしているのです。
「学校におたふくかぜの子がいたんですよ」
おたふくかぜは、耳の下の耳下腺(じかせん)やあごの下の顎下腺(がっかせん)が腫れる病気で、たしかに根本的な治療法はなく、自然に治ってくるのを待つしかありません。髄膜炎(ずいまくえん)や難聴の合併症にならないように、予防接種が大切だと考えられています。この子は予防接種をしていなかったようです。最近の規則では、5日たったら、学校や保育園幼稚園に行けるのですが、熱が下がらないと行くわけにいかないので、受診したのです。
腫れる位置がおたふくかぜとは違う「伝染性単核症」
お母さんの話を聞いて、診察を始めました。顔を見て、なんだか赤くてほんのりと発疹のような様子が気になりました。胸の聴診をしながら体を見ると、うっすら発疹があるようです。耳下腺を触ります。
(あれ?なんだか違うぞ)と思いました。
耳下腺は両方の耳たぶのいちばん下の部分を取り巻くように腫れていきます。左右両側腫れるときと、片方のみのこともあります。でもこの子が腫れているのは、耳下腺の場所よりもちょっとだけ後ろでやや低いようです。たしかに左右とも腫れています。直径が4㎝ほどもあるでしょうか。あごの下には腫れはないようです。
のどを見ました。扁桃腺(へんとうせん)が腫れて、白い膜のような膿(うみ)がくっついています。
―腫れているのは首のリンパ節ですね。おたふくかぜではなさそうです。
「え?違うんですか?」とお母さんは驚きました。
―顔が腫れぼったくはないですか?
「そうなんです。いつもは二重まぶたの子が、病気のせいか一重になっています」
顔が腫れぼったいかどうかは、普段の様子を見慣れているご家族にしかわかりません。
―首のリンパ節が腫れる病気はたくさんあるので、検査をしないとはっきりしたことは言えませんが、伝染性単核症(でんせんせいたんかくしょう)という病気かもしれません。
小さいころは知らずに感染していることも
伝染性単核症は、EBウイルスというウイルスによる病気で、首のリンパ節が腫れ、扁桃腺に偽膜という膿がつきます。発疹が出たり、まぶたが腫れぼったくなったりします。海外ではティーンエージャーに多いと言われ、唾液(だえき)でうつるので「キッス病」とも言われるようです。日本ではそれよりも小さい子どもに多いとされています。EBウイルスはヘルペスウイルスの仲間で、3歳ごろまでに自然に感染する子が多く、思春期ごろまでにはほとんどの子が感染します。小さいころにかかれば、無症状あるいは軽い風邪程度の症状が多く、EBウイルスと気づかず過ぎることも多いのです。また、一度感染すれば、抗体ができて生涯免疫を持つため、再感染しません。
ところが、10代になって、このEBウイルスに初めて感染すると、その半数近くが伝染性単核球症になると言われています。肝機能が一時的に悪くなる子がいて、診断が付けば、肝臓の検査をしないといけません。このお母さんにも病気の説明をしました。
「なんだか怖い病気なんですね。おたふくかぜかと思っていたけれど、やっぱり来てよかったです」
この子は血液検査で、伝染性単核症と診断されました。心配した肝機能は、一時悪くなりましたが、間もなく改善してくれました。それを確認するために、数回の血液検査を必要としました。
おたふくかぜのように、治療法がない病気だと思っても、ちゃんと診断してもらうことが大切です。このお母さんには、おたふくかぜの予防接種を受けましょうとすすめました。
初回公開日 2019/08/20
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