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【小児科医リレーエッセイ 25】 予防接種・感染症対策、日本は本当に先進国?

小児科医調べる女の子のリンパ節
KatarzynaBialasiewicz/gettyimages

「日本外来小児科学会リーフレット検討会」の先生方から、子育てに向き合っているお母さん・お父さんへの情報をお届けしている連載です。今回は、ワクチンで防げる病気(VPD)について大阪府茨木市・橋本こどもクリニック院長の橋本裕美先生からのメッセージです。ワクチンの副反応が報道されるワクチンを本当に避けるべきかどうか、一緒に考えてみましょう。

おたふくかぜで難聴になることがあります

日本は世界的にトップレベルの衛生環境で、医療も充実しているから、他国よりずっと安全だ。皆さん、そう思っていませんか。私も以前はそう思っていました。新型コロナウイルスであらためて注目の集まっているワクチンというものについて、私が思い知ったこと、これから日本がすべきことを今日はお話したいと思います。

15年ほど前、私は小児科医のおたふくかぜによる難聴(ムンプス難聴)のグループ研究にかかわりました。ムンプス難聴はおたふくかぜの原因であるムンプスウイルスによって音を感知する細胞が破壊されることで起こる、重篤で回復が期待できない難聴です。片耳だけのことが多いために、子どもでは難聴になっても気づかれるまでに時間がかかることもあります。これは1~2万人に1人程度のまれなものとされていて、小児科で保護者の方に説明する必要があるとはあまり思われていませんでした。しかし難聴になる子どもが数百人に1人くらいはあるという報告を知って、実際はどうなのかを確かめるため、近畿地方の小児科の開業医たち40施設で2004年から3年間前向きの調査を行うことになりました。私はそれまでムンプス難聴の患者さんを経験したことがなかったため、よく判らないながらこの調査のリーダーを受け持ちました。

おたふくかぜが流行するのは日本だけ

調査の開始にあたって、ムンプス難聴について日本はもちろん世界の動向を調べました。そこで判ったのは驚くべきことでした。
まず、小児科ではそれまであまり気にされていなかったムンプス難聴が、耳鼻科では深刻な問題として着目されていました。おたふくかぜのワクチンを定期接種にするべきだとの意見も何度も出されていました。
しかし耳鼻科だけではムンプス難聴の発生頻度は推測でしか判らず、本格的な発生頻度の調査は私たちの行ったものが世界でも初めてと言っていいものでした。

実は世界ではおたふくかぜは定期接種によって、もうとっくに過去の病気になっていたのです。英語の教科書の一つには、「おたふくかぜは日本では風土病として繰り返し流行している」と書かれていました。大ショックです。とっくに撲滅できたはずの病気を、自然にかかったほうがいいと考える人や、ワクチンの副反応を心配して定期接種に踏み切らない国の政策のためにまん延させていたのです。しかもそうした世界の非常識を私のような小児科医さえも恥ずかしながら知らなかったのです。私たちの調査の結果、おたふくかぜにかかった7400人の子どもたちのうちの7人が難聴になってしまっていたことがわかりました。それまでの定説より10倍も多い1000分の1の頻度です。

日本は「おたふくかぜのワクチンが必要」という声になぜ耳を閉ざすのか?

(左/日本外来小児科学会リーフレット 中/読売新聞の取材記事 右/大阪小児科医会パンフレット)

私たちは世界ではワクチンによっておたふくかぜは過去の病気であること、おたふくかぜにかかると1000人に1人難聴になってしまい、決してかかっていい病気でないことを全国の先生たちとお母さん・お父さんたちに伝える努力をしました。当時国立感染症研究所・所長であった岡部信彦先生をはじめ多くの先生がこの研究は国を動かす力になると応援してくださり、英語の論文にして世界的に発表することをすすめられました。多くの先生に助けていただき実現したアメリカの小児科学会での発表では、世界的なワクチンの権威であるプロトキン先生が真っ先に来てくださり、「こんなにたくさんの子どもが…、かわいそうに」とおっしゃいました。そして私の論文に添えて、「Is Japan Deaf to Mumps Vaccination?」というタイトルで小文を寄せてくださいました。「日本のムンプス難聴の頻度が1000人に1人という報告は驚きだが、何よりなぜ日本はワクチンをしないのだ。ワクチンによる副反応とワクチンを行わないことの被害と、比較したらわかるのに」といった内容の小文でした。
その後各地の先生の努力によりおたふくかぜワクチンの公費助成を行う市町村が増えていますが、国はワクチンの副反応を心配する声もあるからと、今に至るまで定期接種化は実現していません。

ムンプス難聴にかかる人がいるのはワクチンを定期接種していない日本だけ

日本にいると気づかないことですが、おたふくかぜワクチンを定期接種していないのは先進国では日本だけです。ほかの国の子どもたちは、MRワクチンではなくおたふくかぜも含めたMMRワクチンを受けており、おたふくかぜにかかる心配はほとんどなく、ムンプス難聴にもなりません。一方で日本ではおたふくかぜは4~5年の周期で流行し、流行時には350人を超えるムンプス難聴の患者さんが発生しているのです。これは世界中で日本だけです。

私たちが調査した7400人のうち、おたふくかぜワクチンを受けていたのは628人でした。ワクチンを受けていても流行すれば残念ながらかかってしまうことがあります。しかしこの中でムンプス難聴になった子はいません。一方、ワクチンを受けていなかった6772人の中では7人がムンプス難聴になりました。

つまり、これまでの調査に基づくとこういうことが言えます。日本中の子どもがおたふくかぜワクチンを接種するようになれば、おたふくかぜは流行しません。ワクチンの副反応で6~7000人に1人が無菌性髄膜炎になる可能性があると見積もられてはいます。この無菌性髄膜炎は1週間程度の入院が必要になる可能性がありますが、後遺症を残すことなく治ります。一方、ワクチンを行わずにおたふくかぜに感染すると、無菌性髄膜炎を合併する可能性はワクチンの副反応の10倍程度あり、無菌性髄膜炎と違って治らないムンプス難聴になる可能性も1000人に1人と決して少なくありません。

ワクチンを忌避することは健康に対する大きな脅威

日本人は安全性を重視して、ワクチンの恩恵を過小評価しがちです。何であれ自分の子どもが病気になるのはつらいのはよくわかります。どんなワクチンもリスクフリーではありません。しかし、自然におたふくかぜにかかってしまうほうが安全などとは断じて言えません。

そしてワクチンは受けたい人だけが受ければいいものではありません。少し前まで任意接種であった水ぼうそうは、任意接種であった間は流行がなくなりませんでしたが、乳幼児の定期接種となったとたんに流行がなくなりました。多くの人が免疫を持つことで、体質や年齢等でワクチンを受けられない人も守ることができるのです。

ワクチンを受けるべきかどうか、自分で勉強して判断したいと考えるお母さん・お父さんが増えているのはいいことですが、古い誤った情報や根拠のないデマに不安をかきたてられるケースが後を絶ちません。ワクチンを忌避する勢力こそが、世界中で健康に対する大きな脅威であると世界保健機関(WHO)は述べています。
ワクチンに関する疑問や不安はぜひ身近な専門家である小児科医に直接相談してください。
信頼できるネット情報としては、私たち小児科医がかかわって発信している情報 VPDを知って、子どもを守ろうのサイトをおすすめします。

文・図版提供/橋本裕美先生(橋本こどもクリニック・院長)

Profile
京都市生まれ。1987年関西医科大学卒業。京都第二赤十字病院などに勤務して小児科全般を研修。二人の娘の出産育児を契機に病院を退職し、2001年自宅で橋本こどもクリニックを開業。絵本の力や、食べてくれない、寝てくれないなど自身の子育ての中で実感した経験も踏まえて、子育て中のお母さんお気持ちに寄り添う地域の小児科医として活躍中。
開業前から日本外来小児科学会に参加し、同学会内の近畿外来小児科学研究グループ(KAPSG)でムンプス難聴発生頻度調査のリーダーを務めた。

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