AI時代を生きるためには IQではなく「あと伸びに影響する」 非認知能力が大切!
AI時代の子育てに迷っているママ・パパも多いでしょう。なにしろ、自分たちの子どものころにはなかったスマホが、今の子どもたちには最初からあるのが当たり前。環境が変わり、常識もこれまでとは大きく変わっています。しかし、こんなAI時代だからこそ、数値では測れない人間の能力「非認知能力」が、子どもたちが「あと伸び」する成長力のためにも重要だと言われています。
たまひよONLINEでは非認知能力を高める育児に詳しい、玉川大学教育学部非常勤講師(乳幼児発達学科)の大豆生田千夏先生に、AI時代に非認知能力が重要である理由を聞きました。
AIにはない想像力、失敗が人間の力を伸ばす
――非認知能力が「あと伸びに影響する」と言われるのはなぜですか?
大豆生田千夏先生:まず非認知能力とは、何かに熱中したり集中したり、自分の気持ちをコントロールしたりする能力のことで、記憶したり解釈したりする認知能力と異なり、数値化しにくいのが特徴です。この非認知能力が高まると、物事に主体的に粘り強く取り組んだり、困難なことに挑戦したりできるようになります。幼児期に、大人に優しくされたり好きな遊びに熱中したりした経験が、好奇心や頑張る力につながってあと伸びがしやすいんです。
――非認知能力は数値化しにくくて見えにくいものなのに、なぜそれが「あと伸び」につながるということが言えるのですか?
大豆生田先生:アメリカで40年にわたって行われた追跡調査によると、幼児期に非認知能力がはぐくまれた子どもはその後、14歳時点での基礎学力達成率、40歳時点での収入・持ち家率が高かったようです。さらに、就学前に先取り学習をして高いIQ(知能指数)を得たとしても、それが一時的なものであるということもわかっています。結局その数年後には、先取り学習をしていないけれど、非認知能力の高い「あと伸び力」のある子どもに追いつかれ、追い抜かれてしまうんです。最初は認知能力が低くても、本人に「これはなんだろう?」「なんでこうなるんだろう?」という興味関心があれば、あとからどんどん伸びるんです。
――就学前に何か習いごとをさせようと思っているママ・パパも多いと思いますが、あと伸びする力を養ったほうが長い目で見るといいのかもしれませんね。
大豆生田先生:子どもの可能性を少しでも広げようといろいろなことをやらせてみても、子どもがやらされているだけでは意味がありません。こんまりさん(近藤麻理恵さん)の片づけ術と同じで、本人がときめかないと意味がないんです。就学前は、子どもの自由な姿を肯定的に見守ることによってあと伸びする非認知能力が高まるでしょう。
今は外からどんどん情報が入ってくる時代です。その中で、先ほども言ったように、子ども自身が何が好きなのか、何にときめくのか、ということを見つけないといけません。でないと、どんどん情報が増えて、頭の中の洋服だんすがいっぱいになって、もっと行くとゴミ屋敷になってしまいます。
――物事に集中して取り組むには、情報が多すぎる時代なんですね。となると、スマホやタブレットとのつき合いも難しくなりますね。
大豆生田先生:スマホやタブレットが生活の一部になった中で育つ第一世代といえるでしょうか。子どもが小さなうちはできる範囲で距離を置くことをおすすめします。子どもが受動的になってしまうこと、さまざまな経験をする時間が奪われてしまうこと、目の健康を害するリスクが高いこと、中毒性や依存性が高いことなどが理由です。
――最近は、「親がスマホを見すぎている」という指摘もしばしば聞かれます。
大豆生田先生:昔は近くに親せきがいたりして、ちょっとしたことで「どう?」と家に寄ってくれました。でも今は、そういうつながりが減って、まったくない人も珍しくない。今は他者や社会とのつながりが、ママ友やネットになっていることが多いのです。だからママにとって、スマホはとても大事なツール。ある程度、それに時間を取られてしまうのはしかたがないと思います。子どもといるときはスマホはなるべく控えたほうがいいでしょうが、スマホをがまんするのは大変なので、出かける回数を増やすといいと思います。オンラインのつき合いは、やはり生(オフライン)のつき合いがあってこそなので。
――スマホ・タブレットと、非認知能力との関係においては、どのようなことが言えますか?
大豆生田先生:スマホやタブレットだと、なんでも調べられますよね。AIは、聞けば決まった答えが返ってきます。基本的に想像力や創造力、失敗もムラもありません。人間は不完全な存在で、コミュニケーションは複雑です。何気ない会話の中でも、相手によってどのように考えるか、思いをはかりながら、たいへん高度なやり取りをしているのです。
スマホ・タブレットに熱中してしまうと、考えたりコミュニケーションを取ったりする力を身につける時間が減ってしまいます。生の人間とのコミュニケーションは、子どもに多くのものを育てます。
主体的に遊ぶことで、非認知能力だけでなく、運動能力も伸びていくそうです。小さいころに何かにのぼったり、何かを飛び越えたり、しゃがんだり、全身を使っていろんな動きをたくさん経験していると、何かのスポーツを始めるタイミングが遅くても、後からどんどん伸びる力になるのだとも。スマホなどで能動的な遊びの時間がなくなったりしないよう、バランスよく付き合って言う必要がありそうです。(取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部)
監修/大豆生田千夏先生
玉川大学教育学部非常勤講師(乳幼児発達学科)、子どもと家族支援研究センター副代表。臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士として、長年子育て相談にかかわる
参考/『非認知能力を育てるあそびのレシピ 0歳~5歳児のあと伸びする力を高める』(大豆生田啓友・大豆生田千夏著、講談社)