スウェーデン人は「手抜き」が当たり前!?現地のママたちが教えてくれる時短料理
「ワンオペ」「孤育て」など育児の大変さを象徴する言葉が次々と生まれてしまう日本…どうすれば子育てしやすい環境を作ることができるのでしょうか?
そのヒントを手に入れるべく、子育てに優しい国として有名なスウェーデンへ家族で移住したのは、『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』の著者である久山葉子さん。
育児・共働きを経験して感じたことを、自身の言葉で綴ってもらいます。連載【スウェーデンでのくらしが気づかせてくれた、大切なこと】第三弾は、「スウェーデン式時短料理」について。
「作る気力ない…」という時のスウェーデン式時短メニューは?
前回、スウェーデンではパパも頻繁に料理をするという記事を書きましたが、もうひとつスウェーデンに来て驚いたのは、食事がとてもシンプルなこと。
保育園や学校の給食を見ていてもそうですが、タンパク質(肉か魚)+炭水化物(じゃがいもorパスタorライス)+野菜が2~3種類あれば、バランスの取れた食事だというイメージです。 しかも野菜は、きゅうりやにんじん、赤いパプリカ、トマトやコーンなど、子どもの好きな野菜を切っただけ。ちなみに保育園でも毎日必ず切っただけの野菜が給食に出ていて、マヨネーズやドレッシングもかけません。うちの子もすっかりそれに順応してしまい、家で頑張って手の込んだ味つけのサラダを作ってもむしろ食べてくれなくなりました。そういうわけで、わが家も冷蔵庫にある野菜を洗って切っただけですませるように。あとは肉か魚をフライパンやオーブンで焼いて、じゃがいもを茹でるかご飯を炊く。基本的にはそんな感じです。
他にスウェーデンの子育て世帯でよく食べられているメニューの代表格は、子どもたちが大好きなスパゲッティーミートソース。これに切っただけの野菜を添えれば、立派な夕ご飯の完成です。
さらに手を抜きたいときには、もっと簡単なメニューがあります。これはあるママが「疲れてどうしても夕食を作る気力がないときは、これ!」と教えてくれたもの。このママは、新聞記者として活躍しながら、当時六歳と四歳の男の子を育てていました。かなり郊外に住んでいるため、家の近くにレストランはありません。そんなママが教えてくれたのが、スウェーデンの伝統料理であるパンケーキでした。小麦粉と牛乳と卵を混ぜて、バターを溶かしたフライパンで焼くだけ。パンケーキといってもかなり薄いので、クレープを想像してもらったほうがいいかしれません。それに生クリームやジャムを添えていただきます。スウェーデンでは昔からこれが立派な食事なのです。気候が厳しくて野菜があまり採れないスウェーデン。今はさすがにスーパーに行けば輸入品の野菜がいくらでもありますが、昔はジャムが貴重なビタミン源でした。このパンケーキは給食にも出るし、レストランの子どもメニューにも必ずあるほど、子どもたちの大好物。これを夕食に出せば、子どもも文句は言わないし、親も手抜きできちゃうというわけです。
ここでもやっぱりパンケーキ!
新聞記者ママの息子さんたち。今では十二歳と十四歳になりました。
山の中の別荘に滞在中、二人が食べているのもやっぱりパンケーキで、大好物なんだそうです。
一生懸命ごはんの準備をしていた理由を改めて考えてみた
わたしは子どもが二歳になる直前まで日本に住んでいたのですが、その頃は毎日一生懸命料理をしていました。短時間勤務で四時半に職場を出ても、保育園にお迎えに行って家に戻るともう六時。そこから、お腹を空かせた子どもが泣いているのをあやしながら、必死で何品も用意して……。
なぜそこまでしたんだろう、と考えると、昔学校で習った“一日三十品目”と言う標語がずっと頭のどこかにあったからのような気がします。一日三十品目を目指して用意しないと、悪い母親だ。働いているからって、それは言い訳にはならない。そう思っていたのかもしれません。さらには、自分が子どもだった頃の理想の母親像にも縛られていたんだと思います。毎日栄養たっぷりの美味しい夕食が食卓に並び、おやつも手作りで……のような。しかし最近調べてみると、〝目指せ一日三十品目〟は2000年に厚生労働省の食生活指針からも消えたそう。 現在では「主食」「副菜」「主菜」「牛乳・乳製品」「果物」をバランスよく食べるようにという指導がされているようです。な、なんだったんだ、わたしがあんなに頑張ってきたのは!と拍子抜けしてしまいました。
「合理的、賢く手抜き」がスウェーデン流?
日本にいた頃のわたしは、共働きの多い国――たとえばスウェーデンでも、ママたちは仕事のあと必死に立派な夕食を作っているのだと勝手に思い込んでいました。でも、実際に行ってみると全然違ったのです!共働きの国は、家事も合理的に最低限しかしないし、それを手抜きだと批判する人もいない。なーんだ、これでいいんだとすーっと肩の力がぬけました。日本で理想とされてきた夕食を毎日作ることを求められたら、スウェーデンのママ・パパも「そんなの無理!」と思うのかもしれません。 以来、わが家はスウェーデン式シンプル献立になっています。それに加えて、二種類の具の入ったお味噌汁(乾燥野菜やわかめを振り入れるだけ)をつけているし、ご飯を炊けばふりかけや梅干しも食べるわけですから、いまでは「うちがこの町でいちばん豪勢な夕食を食べさせているな」なんてたかをくくっているくらいになりました。日本にいた頃より相当手を抜いているにもかかわらず、です。
皆さんも、シンプルな料理に罪悪感を抱かなくてもいいと、私は思います。そしてごく普通のメニューでも、「世界規模で見ると、わたしは毎日すごいご飯を作っているんだ!」と自分をほめてあげてくださいね。
(文・久山葉子)
久山さんのスウェーデン式時短料理エピソード、いかがでしたか?
もちろん、日本の食文化の豊かさを誇りに思うことも多々ありますが、食のあり方も時代や環境に沿って変化しています。
多忙な生活を送るママ・パパの状況や気分次第で、シンプルなメニューの日があってもそれに罪悪感を抱く必要はないという風潮が広まるといいなと編集部も思います。
さて、【スウェーデンでのくらしが気づかせてくれた、大切なこと】第四弾は、「驚き!スウェーデンのママ友事情」について。どうぞお楽しみに!
(構成:たまひよONLINE編集部)
久山葉子さん参加のトークイベント『待機児童がいない北欧に学ぶ ママの自尊心を削らない子育て、どうする?』開催!
普段はスウェーデンで育児をしながら、翻訳家や教師として広く活躍する久山さんが11月に帰国してトークイベントを開催します。
ベストセラー『美容は自尊心の筋トレ』の著者である、美容ライター長田安奈さん、
『北欧に学ぶ 好きな人ができたら、どうする?』など北欧書の翻訳を通して「女性にとって大切な知識」広める枇谷玲子さんとともに、「働きながら育児して気づいたこと」について語るブックトークイベントです。
久山さんはスウェーデンでの経験や、スウェーデンの育児制度・文化の視点からたっぷり話をする予定。
「北欧を愛する」ことで共通の思いをもつ3人。
「育児と仕事の両立に折れかけた」という共通の経験を持つ3人。
「ママの心を楽にする」トークイベントです。
■日程 2019年11月7日(木)
■時間 19:00~20:30(開場18:45)
■二子玉川 蔦屋家電
Profile●久山葉子(クヤマヨウコ)
1975年兵庫県生まれ、2010年よりスウェーデン在住。翻訳・現地の高校教師を務める。訳書にネッセル『悪意』、ペーション『許されざる者』、カッレントフト『冬の生贄』他。主にミステリの翻訳を行う。今年6月に育児目線でスウェーデンを綴ったエッセイ『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』を上梓。福祉国家が実際にどのように機能しているのか、デメリットも含めて余すことなく描いた。著書では上記以外のスウェーデンの時短料理や、娘のお友達のパパが作ったお子様プレートのエピソードなども公開されている。
●Twitter/@yokokuyama