毎月の給与明細書にある控除や所得税っていったい何のこと?
会社員には毎月渡されている給与明細書。あまり見ていない方が多いのではないでしょうか。税金や社会保険などの控除がいくつもある中で、今回は控除の項目に必ず出でてくる「所得税」について、税理士の須栗一浩さんに説明してもらいました。
税理士法人エムエスオフィス 代表社員税理士 須栗 一浩
税理士
平成7年税理士登録・開業。平成27年より税理士法人へ合流。現在に至る。会社税務から個人の確定申告、相続税に至るまで活動範囲は広い。堅苦しくない、気軽に相談できる税理士として、税理士っぽくない税理士になるべく活動している。
給与明細で差し引かれているものには何があるの?
給与明細で差し引かれているものを大きく分けると税金と社会保険料のふたつにわかれます。さらに明細には“支給欄”と“控除欄”が必ずあります。ただ「書いてある言葉が難しくて見る気がしない」という人が多いのではないでしょうか。
実は、給与明細にある言葉の裏側まで考えると、“支給欄”にある各手当は会社の経営方針が反映されていたり、控除欄にある差し引かれる所得税、住民税や社会保険料からは国や自治体の制度や方向性が見えたりします。給与明細を毎月確認して、支給額や控除額の意味、金額の変動の意味、変動する理由などを知っておくことは、とても重要なことなのです。
給与明細書がすぐに見つかるようでしたら、手元にご用意ください。手当や控除が沢山ある人やそれほどない人、さまざまだと思います。まずは、ここで簡単に控除のことを説明します。手当の意義は別の機会に説明します。
控除項目には、
「1.所得税」
「2.住民税」
「3.社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金)」
「4.雇用保険」
があると思います。
この4つは、ほぼどの明細にもあるのではないかと思います。
そのほかには
「5.財形貯蓄」
「6.生命保険料控除」
「7.手当と同名称、同額の控除」
「8.年末調整過不足」※年末調整時に記載
「9.自社株を購入するための積立」
などがあります。
まず、1から4に関わるものは、国や地方自治体へ支払う税金や保険料などで、法律で加入や納付が義務付けられています。
7は、1、3、4を計算する上で便宜的に載せているもので、給与での金銭のやり取りのない、紙面上だけの項目です。会社が通勤定期券を購入している場合は、「通勤手当控除等」の名称になっていると思います。支給欄で通勤手当として基本給やほかの手当と合算し、税金や社会保険料などを計算し、控除欄で同額を控除して支給と控除をプラスマイナスゼロにします。
8は、1の年間の所得税の計算をした後に徴収し過ぎた額や不足した額を調整するものです。下記で説明します。
9は、努めている会社に持株会という組織があり、そこに積み立てていくことで自分が働いている会社の株式を買う、出資するための積立のような控除です。自分の会社の株主になることで、決算の後に配当をもらえることもあります。
所得税って誰がどうやって計算しているの?
さて、控除の中にある所得税とはどんな税金なのでしょうか。所得税は個人の所得に対してかかる国の税金です。所得税の中で、サラリーマンの給料は給与収入といって、源泉所得税制度に沿って支払者(会社)が給料から引いて税務署へ納める流れになっています。
会社では、経理をしている人や依頼されている税理士や社会保険労務士が毎月の給与を計算します。計算した金額に応じて、国が決めている給与所得の源泉徴収税額表(※1)という一覧表から「給与の金額の行」と「扶養控除の人数の列」から源泉徴収税額を求め、その税額を給与から差し引き、差し引いた税額は税務署へ専用の納付書で納付します。納付方法は、納付書をもっていき銀行や郵便局で納めるか、電子申告制度を使ってネットバンクで納めることもできます。
参照:国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(平成31年(2019年)分)」
年末調整
会社では12月ごろにその一年間の給与の合計から各種控除を差し引いて、一年間の所得税の額を計算します。毎月差し引かれていた源泉所得税の合計と最終的な所得税の額を比較して、毎月の金額が多い場合には皆さんへ税金を返し、逆の場合にはさらに徴収することになります。この年末の精算の計算を「年末調整」といいます。この年末調整を行った結果の帳票が源泉徴収票です。「年末調整で還付になった!」といっても、実際には毎月徴収されていた税額が多すぎたために返ってきただけで、得をしているわけではないのです。
所得税
給与明細の控除欄に記載されている「所得税」は、毎月の給与から仮の所得税額を計算して徴収していることになります。
個人の所得税は10に分けられていて、税務上ではサラリーマンの収入を“給与所得”といいます。年末調整の時に、生命保険や地震保険の控除証明書、社会保険に加入している方でも扶養家族の国民年金などを支払っている場合には社会保険料控除、住宅ローン控除を2年目以降に受ける場合には残高証明書などを会社へ提出することで大概の場合は年末調整で年間の締めは済んでしまうため、確定申告をする必要はありません。
ちなみに、サラリーマンが働いている中でかかる経費(自分で負担しているもので、会社で精算してもらうものとは違います)は、収入に応じて法律で決められていて、日本中のほとんどのサラリーマンはこの決められた経費の額を使って所得を計算し、年末調整を行っています。そのため、各個人で負担した経費の領収書を集める必要がないのです。
ただ、サラリーマンの場合でも確定申告をしなければ受けられない控除もあります。医療費控除と初年度の住宅ローン控除やワンストップサービスを適用できないふるさと納税、寄付控除などです。これらの控除を受けられる方は注意が必要です。
まとめ
このように、毎月もらっている給与明細に記載されている「所得税」は、それほど単純なものではありません。ですが、控除されている税金を理解することで余分な税金を納めずに済みますし、税金に対する意識も変わってくると思います。ぜひ、この記事をきっかけに理解を深めてもらえればと思います。