赤ちゃんの「声」が「言葉」になるきっかけは?
最初は「アウー」「クー」など、言葉にならない声を発している赤ちゃんですが、声の種類が増えて表情も豊かになってくると、「今何を言おうとしているのかな?」「ミルクがほしいのかな?」「遊んでほしいのかな?」と、いろいろ推測しますよね。いったいどんなタイミングで、赤ちゃんの「声」が意味のある「言葉」に変わるのでしょうか。子どもの言語獲得を研究する、東京大学大学院教育学研究科教授の針生悦子先生に聞きました。
赤ちゃんの第一声「産声」のしくみ
生まれたばかりの赤ちゃんが「オギャー」と産声(うぶごえ)をあげるのは、初めて吸い込んだ空気を思いきり外に吐き出すための“音”です。大人は口からのどにかけての空間で音を響かせながら発声していますが、新生児はまだその空間が狭いので、力いっぱい空気を出すときに「オギャー」と声が出てしまうのです。
最初は1音ずつしか発せない
泣き声ではない普通の声が出始めるのは、生後2~3カ月ごろからです。ただ、この段階ではまだ鼻にかかったような「アー」や、喉(のど)からしぼりだす「グー」といった音が中心です。赤ちゃんにとって声を出すための動作(舌を動かす、息をコントロールするなど)は、まだまだ大変なこと。それでも4カ月ごろから6カ月になると、いろいろな声を出して遊び始めます。0歳台後半には、「アーアーアー」「バーバーバー」「マンマンマン」といったように音をつなげて声を出せるようになります。
「ママ」「パパ」はただの声? 言葉?
「赤ちゃんがママって言っているけれど、私だけでなくて、パパに向かってもそう言っている気がするし、これは言葉なのかしら?」と疑問に思ったことはありませんか? 実は「ママ」や「パパ」といった“音”は、赤ちゃんにとって出しやすい音なので、そう言ったからといって、必ずしも「母」「父」という意味でない場合もあります。「なんだ、自分を呼んでいるとは限らないのか」と思うかもしれませんが、「この子はこの音をいつもこういう時に使うな」ということがこちらに伝わってくるなら、それはもう声が言葉へと変わる立派な一歩を踏み出しているといえます。大人たちの肯定的な受け止めが、赤ちゃんの言葉を育てていくのです。
性別や出生順位の違いより個人差が大きい
「男の子より女の子のほうがしゃべり始めるのが早い」「長子より2番目の子のほうがしゃべり始めるのが早い」といった話を聞いたことがある人もいるでしょう。しかし、そうとは限りません。実際のところは、性別や出生順位の違いより個人差のほうが大きいのです。「しゃべる」という行為は、言葉を覚えたかどうかということだけでなく、口まわりの筋肉の発達なども関係しています。しゃべるのが遅くても、大人が言っていることが理解できていれば大丈夫。乳幼児健診の際に指摘されなければ心配する必要はありません。
直接のコミュニケーションで覚えていく
テレビをつけっぱなしにしていれば、子どもはそのうち言葉を覚えるかもしれない。そう考えるママ・パパもいるかもしれません。しかし、私たち大人が洋楽を聴き続けただけで英語がしゃべれるようにはならないように、赤ちゃんも、録音された音声を聴かせるだけでは言葉を話せるようにはなりません。赤ちゃんは、まわりの大人との生のやり取りをくり返すことで言葉を覚えていくので、赤ちゃんと一緒に生活する中で、自然に話しかけるといいでしょう。
仕事で赤ちゃんと接する時間が少ない人は?
赤ちゃんは日々の大人からの直接のはたらきかけで言葉を覚えていく、と聞くと「日中は仕事で外に出ているから赤ちゃんと接する時間が短いけど大丈夫?」と不安に思うママ・パパもいるかもしれません。しかし話しかける大人は、必ずしも両親である必要はありません。祖父母や保育士さん、ベビーシッターなど、赤ちゃんとかかわる大人が赤ちゃんとコミュニケーションを取れていれば問題ありません。
お話・監修/針生悦子先生 取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部
「赤ちゃんが「ママ」「パパ」と言ってくれた!」と喜んでいたのに、よく観察していたら、なんだか自分のことだけじゃなくて「食べ物」のこともそう呼んでいる。そう気づいて戸惑うこともあるかもしれませんが、ママやパパが喜んだときの反応は、赤ちゃんにも伝わっているはず。ママやパパに喜ばれることで、赤ちゃんは声を出すことが、今よりもっと楽しくなります。結果的に、「ママ」「パパ」と呼ばれる回数も増えるかもしれませんね。
針生悦子先生(はりゅうえつこ)
(東京大学大学院教育学研究科教授)
Profile
専門は発達心理学、認知科学。子どもの言語獲得をテーマとした書籍や論文を執筆している。
参考文献/『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(針生悦子著・中公新書クラレ)