【小児神経専門医提言】「うちの子、育てにくい」と感じたときにしたいこと
赤ちゃん時代を卒業し、子どもの個性がはっきりしてくる3才ごろから、「なんだかうちの子、育てにくい…」と感じることが。そんなとき、ママやパパはどのように対応すればいいのでしょうか。発達・小児神経外来を設け、子どもの発達サポートを積極的に行っている、みくりキッズくりにっく院長の本田真美先生に聞きました。
子どもの様子を、多くの専門家の目で見てもらうことが大切
――3才ごろになると、子どもの性格や個性がはっきりしてきますが、
・ちょっとしたことで泣く
・かんしゃくを起こして人や物にあたる
・ささいなことを怖がり過ぎる
・こだわりが強い、1つのものに固執する
・じっとしていられない、1つのことに集中できない
・のんびりしすぎて、何をするにも時間がかかる
といったタイプの子どもを、ママやパパは「育てにくい」と感じることがあるようです。なぜ「育てにくい」と感じてしまうのでしょうか。
本田先生(以下敬称略) 大人同士のつき合いに「合う・合わない」があるように、親子関係にも「相性」があります。
たとえば、のんびりやのママなら、スローペースの子どもの行動を待つことは苦にならないけれど、せっかちなママだと「なんでいつもこんなに時間がかかるの…」と育てにくく感じますよね。
親子といえども別の人格ですから、自分とタイプが違う子どもに「育てにくさ」と感じるのは、当然のことといえるでしょう。
――「育てにくい」と感じること自体は悪いことではないんですね。3才になると、大半の子が幼稚園や保育園で集団生活を送るようになります。ママやパパが「育てにくい」と感じる部分は、集団生活を行う上で何か影響しますか。
本田 3~6才ごろは、日常生活の自立と社会性を身につけていく時期。これらを幼稚園や保育園の集団生活の中で少しずつ学んでいきます。
子どもは一人一人個性が違い、いろいろなタイプの子がいるので、全員が一律に成長していくわけではありません。集団から少しはみ出しながらも、その子なりのペースで自立していくのを見守っていくことが大切です。
ただし、ママやパパが「育てにくい」と感じた部分が、「個性」と考えていい範囲なのか、専門的なフォローが必要なレベルなのかを、就学前の3~6才に見極めることも重要です。
――わが子に感じる「育てにくさ」のレベルを、ママやパパが見極めるのは大変そうです。
本田 少子化の時代なので、「子育てはこの子が初めて」というママやパパが多いし、核家族化でわが子以外の小さな子どもが周囲にいることも少ないですよね。まして今は、新型コロナウイルスの影響による新しい生活様式の自粛ムードで、同年代の子と触れ合う機会も減っていると思うので、ママやパパが判断するのは非常に難しいですね。
まずは保育園や幼稚園の先生に、園での生活について聞いてみましょう。先生やお友だちとコミュニケーションが取れているか、先生の声かけで場面の切り替えができるかなど、多少ほかの子とはテンポが違っても、集団の中で生活できているかを確認します。
また、かかりつけの小児科や、地域の子育てセンターなどで相談し、子どもの様子を見てもらうのもいいと思います。
その上で必要と判断された場合は、発育・発達の専門家がいる医療機関を紹介してもらい、必要なサポートを受けるようにしましょう。
発育・発達のサポートは、子どもが社会生活で「苦戦」する場を減らすのに有効
――ママやパパはそんなに気にしていなかったのに、保育園・幼稚園の先生や、かかりつけの小児科医などから、「発育・発達の専門家のアドバイスを受けたほうがいい」と言われるケースもあります。ママやパパは「これはこの子の個性」と思っていても、専門家のサポートは必要ですか。
本田 子どもの個性に寄り添って子育てをするのはとても大切なこと。ママやパパに認めてもらうことで、子どもは自分に自信をつけ、自己肯定感を高めることができるからです。
でも、子育てには「子どもが社会の中で生きていけるように育てる」という大事な目標もあります。今、専門家から発育・発達のサポートを受けることで、これから先、お子さんが生きやすくなるかもしれません。その機会を与えてあげることも親の大切な役目だと、理解していただきたいと思います。
――「専門的なサポートが必要」と判断された場合、ママやパパはどのように対応するのがいいのでしょうか。
本田 心配なあまり、なんでも先回りしてやってあげてしまうママやパパがいますが、それは子どもの自立を阻むので逆効果です。子どもができることは見守り、できないことは一緒にやって達成感を味わわせるなど、“いいあんばい”の寄り添い方を心がけ、子どもの日常生活の自立と社会性の発達を促してほしいですね。
――「わが子を『育てにくい』と感じることは悪いことではない」と、最初に教えてもらいました。それでも、うしろめたさを感じてしまうママやパパもいると思います。その点はどう考えるべきでしょうか。
本田 親子といえども違う人間同士。「育てにくい」と感じることで、自分を責める必要はありません。
大切なのは「育てにくい」と感じた部分をどうフォローすれば、わが子が社会で健やかに生きていけるようになるかを考えること。そして必要なら専門家のサポートを受けつつ、子どもの生きる力、成長する力を応援してあげてください。
お話・監修/本田真美先生 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
集団生活の中で子どもが困らないようにしてあげるのは、親の重要な役目。わが子を「育てにくい」と感じたときは、まず身近にいる子育ての専門家に相談し、必要な場合は発育・発達の専門家のアドバイスを受ける。このことを忘れないようにしたいですね。
本田真美先生
(みくりキッズくりにっく院長)
Profile
医学博士、小児科専門医、小児神経専門医、身体障害者福祉法第15条指定医。東京慈恵会医科大学卒業。国立小児病院にて研修後、国立成育医療研究センター神経科、都立多摩療育園、都立東部療育センター勤務、ニコこどもクリニック院長を経て現職。