日本小児科医会が緊急メッセージ! 小児科が直面する新型コロナによる医療崩壊危機 閉院する小児科も【専門家】
ワンオペ育児、孤育て、長時間労働、少子化…。本特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、誰ひとりとりこぼすことなく赤ちゃん・子どもたちの命と健康を守る世界のヒントを探したいと考えています。
今回は日本小児科医会が9月7日に発表した「子どものかかりつけ医がいなくなる!? 日本の小児医療がピンチです!」という緊急メッセージについて、日本小児科医会 業務執行理事を務める、はやしクリニック院長 林 泉彦先生に聞きました。
新型コロナの影響で、小児科への外来患者数が激減! 小児科が苦境に
新型コロナウイルスの影響で、全国の開業小児科医が苦境に立たされています。小児科の現状は、今、どのようになっているのでしょうか。
「すでに小児科の閉院が報告されています。新型コロナウイルスの影響による小児科の医療崩壊の危機だととらえています」(林先生)
かかりつけの小児科が閉院すると、困るのはママやパパです。
「近所に小児科がなくなると、小児専門の医師に診てもらえなくなります。
かかりつけの小児科は病気を診るだけでなく、発育・発達や子育て、園や学校生活の悩みに答えるなど、ママやパパの不安に寄り添っている存在です。地域に根差した小児科が閉院することで、乳幼児健診や保育園・幼稚園・学校の健診などにも多大な影響が出るでしょう」(林先生)
緊急事態宣言が延長された8都道府県では、5月の診療所収入が前年同月比-59.3%に
小児科の受診がどのくらい減っているのか、日本小児科医会による全国400施設以上の小児科診療所経営実態調査のデータを紹介します。全国平均で前年同月と比べて、次のような結果が出ています(複数回答)。
【外来患者数について】
2020年3・4月の前年同月比
30%以上減少した診療所 68.5%
40%以上減少した診療所 47.5%
2020年5月の前年同月比
30%以上減少した診療所 90%
40%以上減少した診療所 41%
60%以上減少した診療所 8.4%
【診療所収入について】
2020年3月の前年同月比 -25.7%
2020年4月の前年同月比 -38.2%
2020年5月の前年同月比 -48.3%
とくに緊急事態宣言が延長された8都道府県の診療所では、5月の診療所収入が前年同月比の-59.3%という結果に。いまだ回復の兆しはありません。
外来患者数が、ここまで減ったのはなぜでしょうか。
「まず1つは新型コロナウイルス感染症以外の感染症が流行していないためです。毎年、夏に子どもたちの間で流行る手足口病にかかった子は、今夏は例年の30分の1ともいわれていて、流行はしませんでした。
理由の1つには新型コロナウイルス予防が徹底したためとも考えられています。
もう1つは、ウイルス干渉です。ウイルス干渉とは、たとえば新型コロナウイルスに感染すると、自然免疫がついて、ほかのウイルスには感染しづらくなることです。しかし感染しづらい期間は1~2カ月間です。ここまで長期化するのは考えづらいです。
そのためほかの感染症がなぜ流行しないのか、理由がわからない状況ではありますが、子どもの感染症が減って、病気をしないことはいいことです。
ただバランスが急激に崩れてしまい、医療崩壊が起き始めています」(林先生)
自己判断での受診控えは要注意! 大きな病気を見逃したり、悪化するケースも
林先生は、今回の小児科医療崩壊は、必要以上に新型コロナウイルスを恐れることによる受診控えも大きいと言います。
「休校や緊急事態宣言が発令された3・4月は予防接種や乳幼児健診を見合わせるママやパパもいましたが、現在では“それは不要不急ではない”と理解されたようで、スケジュール通りに戻っています。
一方、具合が悪いのに小児科受診をためらう状況は続いています」(林先生)
ママからは次のような声も聞かれます。
●娘が、2日前からのどの痛みを訴えるようになり、鼻水、せき、下痢(1回)の症状が見られます。熱はありません。保育園では溶連菌が少し出ており、周辺地域で新型コロナは出ていません。娘は、過去に同じような症状で溶連菌と診断されたことがあるのですが、今の時期、受診するのが怖くて…。熱がないから、余計に受診をためらってしまいます。
●うちの子はアレルギーがあり、小児科に定期的に通っています。近々受診する予定ですが、新型コロナが怖いので迷っています。今回は診察だけなので、すぐに終わりますが、負荷試験など言われると、再び受診しないといけないし…。少し時間をあけてもいいのか迷うところです。
「ママたちの体験談にありますが、受診控えで心配なのが悪化したり、大きな病気を見逃したりすることです。“おかしいな”と思ったときは、適切に受診してください。そして不安を抱え込まないでなんでも相談してください。
頭の中が新型コロナウイルスへの恐怖でいっぱいになっているママやパパもいますが、ぜひかかりつけの小児科に行って、正しい知識を聞いてください。安心できますよ。
小児の場合は、新型コロナの重症化は世界でもほとんど報告がなく、季節性インフルエンザのほうが新型コロナよりはるかに重症化することがわかっています。
そのため乳幼児はインフルエンザの予防接種は、ぜひ受けましょう」(林先生)
日本小児科医会のHPでは、乳幼児の新型コロナウイルスの情報を公開しています。ぜひ参考にしてください。
今の状況が続くと、閉院する小児科は増加傾向に
前述のとおり、全国の小児科では診療所も病院も外来患者数が減り、収入が大幅ダウンして倒産の危機にひんしています。
「後継者がいないベテラン小児科医のなかには“この機会に閉院しようか”悩んでいる医師もいます。
また去年や今年、開業したばかりの若手の小児科の医師からは、開業資金の借り入れもあるうえ、大幅な赤字経営が続き、継続が難しいという声も聞かれます。
今の状況が続くと、年末・年始や来春あたりには、地域に根差した小児科がどんどん閉院してしまうといっても過言ではありません」(林先生)
さらに外来患者の減少に伴い、大学病院や総合病院への紹介も減っているので、小児科の受診減は開業医だけでなく小児医療全体の問題になっています。
「小児科の閉院は、新型コロナウイルスが招いた医療崩壊です。もちろんさまざまな業界が大きな打撃を受けていますが、小児医療は社会インフラです。家の近くに子どものかかりつけ医が存続するか、しないかは、けしてひとごとではありません。ママやパパも、この問題に目を向けていただきたいと思います」(林先生)
お話/林 泉彦先生 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
日本小児科医会では、支援策などを盛り込んだ“日本の小児地域医療を崩壊から守るための国に向けた緊急要望”を国に提出しました。
ママやパパにとって、かかりつけの小児科はなくてはならない存在です。わが子の成長を見守り続けてくれて、育児の気がかりを気軽に質問できる、かかりつけ医が、突然なくなる生活を考えられますか!? 小児科の医療崩壊は、私たちの生活に直結する問題です。
小児科の医療崩壊を救うための電子署名も始まっています。
林 泉彦先生(はやしもとひこ)
Profile
はやしクリニック院長。順天堂大学病院、関連病院勤務を経て、1997年はやしクリニック開設。日本小児科医会業務執行理事、東京小児科医会副会長、町田市医師会会長。地域の幼稚園、保育園などの園医・校医も務める。
※文中のコメントは口コミサイト「ウィメンズパーク」の投稿からの抜粋です。