子どもの「聞いて」を願いに置き換えてみる〜 赤はな先生 「子どもの人格を否定しないことの大切さ」
みんなからは赤はな先生と呼ばれる副島賢和先生は、院内学級の教諭として、これまで二千人以上の病気の子どもたちに関わってきました。その姿は、大泉洋さん主演のドラマ『赤鼻のセンセイ』(2009年日本テレビ)のモチーフとなったり、NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』で紹介されたりしたことも。2006年に昭和大学病院内院内学級「さいかち学級」の担任になってから14年、「病気の子どもに限らず、誰しも明日が来ることは奇跡だ」と、とても大切なことをニコニコと穏やかな口調で話します。でも、教え子の痛みは副島先生の痛み。これまで関わってきた全ての子どもが副島先生の原動力となっているようです。
第3回は、長く子どもとその家族に寄り添ってきた副島さんからたまひよ世代のママ、パパへのメッセージをお届けします。
大人は常に子どものモデルであることを意識する
―― 副島先生のこれまでのご経験から、親(大人)が子どもに対するとき、どんな点に気をつければ良いかアドバイスいただけますか?
(副島先生 以下敬称略) まず「子どもと直接関わるとき」に大切にしなくてはいけないことからお話ししますね。一つは「子どもの人格を否定しないこと」。そしてもう一つは「大人は常に子どものモデルであることを意識する」です。
例えば、きょうだい関係で、上の子に下の子に優しくしてほしいと思っているのなら、親御さん自身が上のお子さんに優しくしないといけないですよね。「優しくしなさい」と言うだけでは優しくできません。僕も子育て中に、「もし、誰かがしんどいときに温かい言葉をかけられる人になってほしいのなら、子どもがしんどいと思う瞬間に、親である私たちが温かい言葉をかけなければこの子はそうは育たないよね」と妻と話し合ってきました 。
子どもは常に、大人の言葉や行動、表情を見て勉強している、つまり、「大人は常に子どものモデルである」ことを意識していてほしいです。
―― とはいえ、子どもが間違ったことをすると、ついカッとしてしまうことがあります。
(副島) 親も学校の先生も、子どもを良くしたいと思っていますものね。だから子どもが人を傷つけるようなことをしたら怒鳴りたくなる気持ちはわかります。でも怒鳴ったときに子どもに伝わるのは、「自分の意に染まらなかったときに怒鳴る」「嫌なことがあったときはこうやって怒りをぶつける」という手法です。
親御さんも先生もそんなことを伝えたいわけじゃないとは理解できますが、でも実はその手法が伝わっていると自覚していないと……。もちろん大人だって失敗することだってありますよ。だから、失敗したときは「ごめんね。ちょっと言い過ぎたね」って謝れるかどうかがポイントです。
そういう余裕をもつためには、「ほんと、頭にくるのよ」って言えるパートナーや親仲間、空間が必要だと思いますね。
しんどいときは「助けて」と言える仲間を作ろう
―― 忙しい毎日のなかで余裕をもって子どもに接するのは難しいです。
(副島) 大人だっていつもいつも子どもの前で聖人君子でいられるわけはありませんから、しんどいときに「助けて」「手伝って」と言えるような、また自分の悲しみや辛さ、怒りなどを渡せる仲間が必要なんです。「ちょっとさ、子どもを叩きたいと思ったのよね」なんて言えたら、実際に子どもを叩かずにすみますから。ひとりで子育てをするのは大変なことなんだと思います。
もしそういう仲間が身近にいなければ、行政や福祉、お金を払って専門家につながってでも、自分が援助希求できる相手をもっておくことはとても大事です。
だから、本当に大変な状況になる前に、心理士にでも福祉にでも相談してほしいんですよね。しっかりトレーニングを受けた専門家は、評価せずに話を聞いてくれますよ。
――そのうえで普段の生活のなかで、どのように子どもと向き合えばいいのでしょうか。
(副島) 例えば、「今は忙しいから後で聞くね」と言うだけではなくて、実際にそうしてくれることを知っていれば、子どもは待っていられます。「この間聞いてくれなかったじゃない」という経験があるから、「今、聞いて!」になるわけです。だから「今は忙しいけどお風呂に入ったときに聞くね」というような積み重ねはとても大切です。そして子どもが話し終わるまでは、決して評価せず聞いてほしいです。
子どもの言葉を「願い」に置き換える
―― つい子どもの言葉に一喜一憂してしまいます。
(副島) 「この子はこれを伝えることで何を願っているんだろう?」と子どもの言葉を「願い」に置き換えながら聞くと、一喜一憂せずにちょっと楽に聞けますよ。
例えば、サッカーの試合でゴールを決めて「ねぇねぇ、聞いて! サッカーで1点入れたよ!」と子どもが言ったとします。この子は1点入れた事実を伝えているようですが、その裏にはおかあさんに一緒に喜んでほしいという願いがあるのかもしれません。「おかあさんもうれしいわ」と子どもの気持ちを言語化してあげると「今度は2点取れるようにがんばりなさい」とか、「もっと練習しなさい」とか言わずに済みますよね(笑)
でも、おかあさん自身が忙しかったり、気持ちが揺れていたり、不安があったりすると、そんな風には聞けないので、ぜひ、パートナーが支えてあげてほしいです。もちろん専門家に頼ってもいいと思いますよ。
―― ほかに子どもの話を聞くときに注意した方がいいことはありますか?
(副島) 「受容はするけど許容はしない」ということでしょうか。「受容」は「感情を受け止めること」。だから、どんな感情も一生懸命受け止めます。一人で受け止めるのが難しい場合は、仲間にやパートナーに頼って、役割分担しながら感情を受け止めます。でもいけない行動を容認する「許容」はしません。「ダメなものはダメ」「やらなければいけないことはやりなさい」というのは、子どもの感情をいっぱい受け取ったあとです。つい先に行動にダメ出しをしてしまいがちですが、その順番を間違えると難しくなることが多いです。
なんて、教師としてはできるようになりましたが、親として娘に対するのはとても難しいと感じています。だからこそ、ときにはちょっと距離のある人に、「あなたの気持ちはわかるよ」と言ってもらうことも大切ですね。周りに頼ってもいいんですよ。子育てって、ひとりではなく周りの人も一緒にしていくものですから。
取材・文・写真/米谷美恵
3回にわたってお届けした赤はな先生こと副島賢和先生からのメッセージ。皆さんにどのように届きましたか? 子どもの自尊感情を傷つけないためには、まず大人が自分自身を大切にすることが必要なのかもしれません。
副島賢和先生(そえじままさかず)
Profile
昭和大学大学院保健医療学研究科 准教授。昭和大学附属病院内学級担当。大学卒業後、25年間東京都の公立小学に教諭として勤務。2006年より品川区立清水台小学校・昭和大学病院内「さいかち学級」担任。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー、ホスピタルクラウンとしても活動。