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海遊び、旅行、野球観戦も!在宅医が、医療的ケア児を「家族との冒険」に連れ出す理由

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医療的ケアが必要な子ども・家族との野球観戦イベントを主催

ワンオペ育児、孤育て、長時間労働、少子化…。本特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、誰ひとりとりこぼすことなく赤ちゃん・子どもたちの命と健康を守る世界のヒントを探したいと考えています。

シリーズ「子どもの在宅医療」の連載2回目では、岡山県で在宅医療に取り組む医療法人つばさ・つばさクリニック理事長の中村幸伸先生に、小児の在宅医療の現場で大事にしていることを聞きました。

通院が難しい子どものための在宅医療

中村先生の「つばさクリニック」は、在宅医療に特化した医療機関として、2009年の開院以来、24時間365日の相談・診療対応を行ってきました。

在宅医療というと一般的には高齢者のためのものというイメージが強いですが、つばさクリニックでは赤ちゃんや子どもの患者も積極的に受け入れています。

「在宅医療を受けるのは、生まれつき重い病気や障がいを抱えていたり、事故にあったりして病院への通院が難しい子たちです。人工呼吸器をつけていたり、胃ろう(※お腹から胃に穴をあけて直接栄養を注入する方法)だったりと、日々の医療的ケアが必要な子もいます。ささいな不調のたびに病院に連れていくのはとても大変なことですが、私たちが定期的に自宅で診察することで、安心して日々を過ごせているというお母さんやお父さんは大勢います」

小児患者の家族の不安やストレスに寄りそう

患者さんのお母さんと。家族との雑談も大切にしている中村幸伸先生。

一方で、小児在宅医療は、子どもを日々お世話する家族に負担が集中しやすいという課題があります。

「24時間常に子どもの病状と向き合っている、本当に一生懸命なご家族がたくさんいるんです。それだけに、“病院と同じレベルで”と気負ってしまい、疲れ切ってしまう。毎日が緊張の連続では、どれほど熱心なご家族でも長くは続きません。せっかくの子どもとの楽しい時間や成長の喜びも、感じにくくなってしまいます。だからこそ、家族の負担を減らすために最大限サポートすることも、私たち在宅医の大切な役割です」

現在、つばさクリニックには小児科の専門医を含む医師21名、看護師22名が在籍。緊急の往診にも対応できるように、ソーシャルワーカーや事務などのスタッフとともに、チーム体制で診療にあたっています。

「在宅医療を始めたばかりのご家族からは、『体調を崩したら、いつ病院に行くべきかわからない』という不安の声をよく聞かれます。少し心配という段階で早めに私たちが診察し、いっしょに対処法を考えることで家族の負担を軽減し、自宅でのケアの質を高めていくことができます。24時間いつでも相談できる安心感からか、私たちがかかわるようになってから容態が安定して入院の頻度が減ったという子たちもたくさんいます。何より、住み慣れた自宅で過ごすことでリラックスできることが大きいのでしょうね」

子どもたちの世界を、自宅から外へと広げる

初めての海の感触を楽しんだ、たっくん。

つばさクリニックでは、家族ぐるみで参加できるイベントを定期的に開催しています。

2019年の夏のイベントでは、人工呼吸器をつけた子どもたちと、海遊びやバーベキューをして楽しみました。この日参加していた中に、11歳の時から中村先生が訪問診療を担当している「たっくん」がいました。

たっくんは、生後8か月の時にけいれんのため脳に障害がのこり、9歳の時から人工呼吸器をつけて生活しています。この日、初めて家族そろって海水浴に来たといい、たっくんだけでなく、きょうだいみんなで大はしゃぎでした。

「お母さんが『たっくんはこれまで一度も波に触れたことがないんです』というので、それなら海を感じてもらおうと、抱っこをして海水の中に足をつけました。たっくんは21歳にして初めての海水と波と砂の感触に、目を白黒させながらびっくりした様子でしたが、家族みんなでいることもあって楽しそうにしていました」

病気や障がいがある子はなかなか外に出られない、遊べないというイメージはまだまだ根強くあります。中村先生が子どもたちを外に連れ出すのには、大きな理由がありました。

「もちろんすべての子が外に出られるわけではないし、いろいろな制約や配慮すべきことはあります。ただ、体調や安全に十分配慮して、できる範囲でさまざまな経験をすることは、子どもの成長にとってとても意味のあることだと思うんです。大切なのは、子どもが子どもらしく過ごせるように、私たちに何ができるのかということです」

中村先生たちはこうしたイベントを“冒険”と呼んでいます。全国の医療機関や団体とも連携して、アミューズメントパークへの旅行や広島への野球観戦ツアーなど、いろいろな体験の場を作っています。

「病気や障がいがあるから諦めるのではなく、成長に合わせた経験を積み重ねて、子どもも家族も一緒に楽しめる時間を大事にしていきたいと思っています」
取材・文 /武田純子

子どもの病気や障がいとどう付き合っていくのか。中村先生が重視するのは、患者という枠を超えた、一人ひとりの子どもと家族の生活です。障がいの有無を問わず「子どもらしく過ごすためには、どうしたらいいのか」を私たち大人がそれぞれ考えることが、すべての子どもたちの生きやすさにつながるのかもしれません。

中村幸伸先生(プロフィール)

1977年島根県生まれ。2002年鳥取医学部医学科卒業後、倉敷中央病院に入職。2009年、岡山県初の在宅診療専門所「つばさクリニック」を開設。2014年「つばさクリニック岡山」を開業。著書に『畳の上で死にたい 「悔いなき看取り」を実現した8家族のストーリ―』(幻冬舎)がある。

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