ジェンダーの不平等が原因?なぜ少子化を食い止められないのか 【経済学者】
厚生労働省が発表した人口動態統計によると、2019年に生まれた赤ちゃんは86万5239人、合計特殊出生率は1.36となり、どちらも過去最低となりました。少子化対策は日本の急務となっていますが、どのような対策が必要なのでしょうか。結婚、出産、子育てを経済学的に研究している、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の山口慎太郎先生に聞きました。
妻が「子どもを持ちたい」と思えない国は出生率が低い
――日本では少子化が進む一方です。原因はどこにあると思われますか。
山口先生(以下敬称略) 子どもを持つか持たないか、持つとしたら何人ほしいかは、夫婦で話し合って決めることです。でも、夫婦で意見が一致しないのは珍しいことではなく、その場合、妻のほうが子どもを持ちたくないと考えるケースが多い、という調査結果があります。
そして、妻が「子どもを持ちたくない」と思っている割合が高い国ほど、男性の子育て参加度が低く、出生率も低くなることもわかっています。
――出生率が下がる一方の日本は、「妻が子どもを持ちたいと思いにくい国」ということなのでしょうか。
山口 急激に少子化が進んでいる現状を見る限り、残念ながらそう言わざるを得ません。
子育てや労働環境において男女平等が進んでいる国ほど、子どもを持つことに夫婦間の意見が一致しやすいという研究結果もあります。
世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数2020」によると、日本の順位は153カ国中121位。1位アイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランドと続き、イギリスが21位、アメリカが53位、アジア圏では中国が106位、韓国が108位で、日本は断トツに低い順位です。
また、6才未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児関連時間の国際比較によると、日本のママが1日に家事・育児に費やす時間は7時間34分(うち育児が3時間45分)で、パパは1時間23分(うち育児が49分)です。「ジェンダー・ギャップ指数2020」2位のノルウェーでは、ママが5時間26分(うち育児が2時間17分)、パパが3時間12分(うち育児が1時間13分)ですから、かなりの差がありますね。
こうした男女の不平等を改善していかないと、日本の少子化を食い止めることはできないと思います。
ジェンダー平等のために、パパにできること
――日本のママの家事・育児負担は、ほかの国と比べて相当大きいということで、これでは「今の状態で手いっぱいだから、子どもは1人だけでいい」と思ってしまうのは当然とも言えます。日本の男女不平等を解決する方法はあるのでしょうか。
山口 男女の不平等を改善し、ジェンダー平等をめざすには、男性の家事・育児の参加が不可欠です。少し古いデータですが、2002年の「国際社会調査プログラム」によると、男性の家事・育児の負担割合が高い国ほど出生率が高くなっています。
出生率が高くなれば家庭内にいる子どもが多くなるので、自然とパパの家事・育児負担が増えたのかもしれず、単純には結論づけられないかもしれません。でも、パパが家事・育児を分担してくれたらママの負担が減るのは明らかですから、「これだけ一緒に家事・育児をしてくれるのなら、もう1人子どもを産んでも大丈夫」とママが感じられるのではないでしょうか。
パパの家事・育児参加は始めが肝心。1カ月育休を取り、子どもと濃密に接する時間を作るだけで、その後もパパのライフスタイルが変わり、家事・育児に積極的に取り組むようになるという報告があります。
―-パパの育休取得は、少子化対策としてもとても大切なようです。日本ではパパの育休取得率が7年連続で増えているとはいえ、2019年度の取得率は7.48%。過去最高でこの数字なのは、とても残念です。
山口 実は日本は、男性の育休制度が非常に充実していて、2019年に発表されたユニセフの子育て支援策に関する報告書では、日本の育児休業制度はOECD(経済協力開発機構)とEU(欧州連合)に加盟している41カ国中、男性は1位の評価を得ています。制度だけ見たら日本は「育休先進国」なんですよ。そんな充実した制度があるのに、利用しない手はありません。
育休は突然長期間の休みが必要になるわけではなく、あらかじめ取る時期がわかっているのですから、仕事の調整が可能なはず。それを拒む上司は、管理能力がないと判断されるべきです。
職場内で最初の育休取得者になるのは勇気がいることですが、「パパの育休は伝染する」が私の持論。職場内で育休を取るパパが増えれば、「男性社員が育休を取るのは当たり前」という企業風土が自然と出来上がります。自分のため、周囲の男性社員のために、ぜひパパも育休を取り、夫婦で力を合わせて家事・育児を行うスタイルを確立してください。
日本の少子化対策として最も有効なことは?
――ジェンダー平等に基づく少子化対策として、国としてはどういった対策が必要だと思われますか。
山口 妻(ママ)の負担を軽減するために、保育政策を充実させて保育園の待機児童をゼロにする。これを最優先に進めるべき、というのが私の考えです。
子育て支援策として、児童手当や子育て世帯に対する税制優遇措置も行われていますが、経済的な支援だけではママの負担は減らせないため、出生率の向上に十分な効果が得られないのです。
一方、ママが一定期間育児に専念できる育児休業政策や、安心して子どもを預けられる場所を提供する保育園対策は、大きな効果があると考えられます。
女性の育休取得については、状況がよくなってきていると言えます。でも育休が取得できても、育休後の受け皿となる保育園がなければ、ママの負担は減らないばかりか、働く機会を奪うことになってしまうので、子どもを持ちたいと考えなくなってしまうでしょう。だから保育園の充実が最も重要なのです。
子どもを任せられる保育園があり、家庭内ではママとパパが分担して家事・育児を行う。これが実現すれば、多くの家庭で「子どものいる幸せ」を感じられ、おのずと子どもの数は増えていくのではないでしょうか。
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
ジェンダー平等の考えに基づいた少子化対策を国が実行してくれたら、安心して子どもを産む人が増えそうです。そして、ママとパパがよく話し合い、力を合わせて、自分たちが思い描く家庭を築いていくことが大切です。
子育て支援の経済学
多くの人が働き方や家族の在り方を模索する今、必要なのは「子育て支援=次世代への投資」という考え方。そのエビデンスが詰まっています(日本評論社)