どこかで誰かは、絶対に応援してくれている『ハルカと月の王子さま』鈴木おさむ・インタビュー
放送作家として数々の人気番組で活躍する鈴木おさむさんと音楽ユニットYOASOBIのコラボ企画から誕生し、大ヒット曲「ハルカ」の原作となった小説「月王子」。その月王子がイラスト小説「ハルカと月の王子さま」(双葉社)として2021年2月に発売されました。
後編では「子どもは親のために生きているわけではない」など作者の鈴木おさむさんに小説に含まれるご自身の経験や子育てに関することなどを聞きました。
小説は妻や子どもに向けて書いています
2015年に長男笑福くんが誕生。妻の大島美幸さんと共働きである鈴木さんは、父勉(育休)のため約一年間仕事を休むことに。鈴木さんは子育てを通して多くの気づきがあったと言います。
―――「ハルカと月の王子さま」のエピソードは鈴木さんご自身の体験から生まれたのでしょうか?
鈴木おさむさん(以下敬称略):僕は小説などを書く時には、家族だったり友人だったり誰に向けて書くかということがとても大事だと思っています。僕はいつも妻や子どもに向けて書いていますが、今回は妻に向けて書こうと決めました。
実際、書こうかどうか迷いましたが、赤ちゃんが残念なことになってしまう話を入れたのは、彼女の人生の中で辛かった経験について、近くにいた僕がリアリティーを持って書けるエピソードだったからです。妻だけでなく、同じような経験した後に母になった人はたくさんいると思うので、そういった人に向けても書きたいという気持ちもありました。
―――辛い体験を小説に書いた時の鈴木さんの思いをお聞かせください。
鈴木:当時の妻は仕事に復帰できないのではないかと思うほど、憔悴していました。
けれど手術の翌日、妻の母が栃木から3時間もかけて来て、ただカレーをつくって妻に食べさせてくれたのです。あんなに憔悴していた妻が母のつくったカレーを食べると元気になり、自分の体験をエッセイに書くとまで言ったのです。
妻の母は「がんばりなさいよ」と声をかけるのではなく、栃木から持参した食材で彼女が昔食べていたカレーをつくって「じゃあね」と帰っていくという、いつもの行動にすごく感動しました。その時のことが表現できないかなと思って。登場する『マグカップ』が「がんばれ」と言っている場面は、主人公の「ハルカ」ちゃんに届けと思って書いた分、きっと妻にも届くのじゃないかと思って書きました。
こんな風に読んでくれる人に、生きていたら悲しいことや辛いことは経験するけれど、でもどこかで誰かは見守っているよとか、声は聞こえていないかもしれないけれど、誰か絶対応援しているからねというメッセージが伝わればと思っています。
―――大島さんが小説を読んだ反応はいかがでしたか。また小説についてご夫婦で話したことなどがありましたらお聞かせください。
鈴木:最初、妻は僕の小説を読んでいなかったんです。普段から夫婦で仕事の話はしないし、ドラマでもなんでも僕から見て欲しいということは言わないので。
けれどある時、夫婦ともにお世話になっている妻の先輩から小説を読んだという連絡をもらったらしいのです。その先輩から「とてつもなく泣いた、ありがとう。と僕に伝えて欲しい」と言われたらしく、それで妻は僕の小説を読んだようです。読んだ感想は、「本当によかったよ」のひと言で多くは語りませんが、それが全てだと思います。
子育ては仕事に生かせることしかない!
―――1年間の育休や、日々の子育ての経験が仕事に生かされたことはありますか。
鈴木: 20、30代で子どもができていたら違うと思うのですが、僕は43歳で父親になったので、息子は感覚的には孫に近い存在です。
僕は人生の酸いも甘いもかなり経験してきてから子どもができているので、ちょっと達観して子どもを見ているところがあるのかもしれませんね。子どもができて、子育て自体が自分の人生になっていくので、子育てが仕事に生きたといえば全てでしょうね。子どもができなければ、今回の小説もできなかったと思います。
僕は人生をよく色で例えるのですが、生まれた時は12色ですが、いろいろな経験して色がだんだんと増えていくものだと思っています。例えば、子どもが生まれたことによっても色は増えますし、父親が亡くなったことで色が増えるように。年齢を重ねるごとに使える色とか、見え方とか全く変わってしまいますよね。
―――今年6歳を迎える息子笑福くんの子育てで、どんなことを大切にされているのでしょう。
鈴木:子どもの成長の「スピード」ですね。子どもが「ママ」と少しずつ言葉を言い始める時期になると、親はほかの子どもの成長と比較しがちです。
実は、自分の姉の子どもは障がいがあるのですが、ある時姉が「うちの子が一人でトイレでウンチができた」と、ラインしてきたんです。うれしすぎて泣いてしまったことを伝えるのが弟である僕しかいなかったという文面を見て、自分を恥じました。
姉にとって、15歳で一人でウンチができるようになったことが、その子にとっての成長のスピードなんです。息子の成長速度を周りの子と比べていたことを反省しました。
子どもは親のために生きているわけではないし、子ども一人ひとりによって成長のスピードは違うのだから、親は子どもにあったスピードの選択肢を与えるべきなんだということに、その時気づかされました。子どもが何歳だから何ができなければいけないというのは、ダメだと思ってすごく意識しています。
―――息子さんはアニメ「進撃の巨人」に夢中になっているそうですが、アニメやYouTubeなどの視聴で気をつけていることはありますか。
鈴木:僕は、子どものやりたいことや、意見など話を聞くということを大切にしています。もちろん暴力的なものはダメだけど、YouTubeに興味を持ったら、とことん見ればいいと思っています。
「進撃の巨人」は暴力的な表現もありますが、見てからこれはいい、これはダメだということを感じることも大切だと思っています。夢中になるほど好きになっているわけですから、子どもっていろいろなことを覚えようとしますよね。
今、息子は自分でYouTubeを検索したがっているので、自分で検索したいならひらがなを覚えた方がいいじゃないと言っています。面白いもので、理由が見つかると子どもって自分から覚えようとするものです。最近は、「ピグミン」というゲームを息子と一緒にしているのですが、ゲームをするにはピグミンは100匹必要なんです。そうすると今度は数字に対して興味を持ち出すんですよ。数字に興味を持ち出したので、今度は数字を覚えようかといって数字を教えています。
数字が好きであれば、足し算だったり、掛け算だったり、覚えられるのなら一気に教えたほうが楽しいと僕は思っています。文字に興味があるのなら漢字まで覚えれば、読める漫画が増えますよね。文字や数字は、何かを楽しむために覚えるほうがいいと思っています。
夫婦で話し合うことはパワーがいるけれど大事なこと
―――子育て中は育児や家事で忙しく揉め事に発展しがちですが、鈴木さんはどのように夫婦として向き合っているのでしょう。
鈴木:不満を溜め込まないということです。僕も妻からよく怒られますよ。僕は普段は仕事中心で、部屋の掃除がきちんとできないこととかよく妻から怒られます。僕は仕事以外ほとんど何もできないんです。でも妻に怒られたり、喧嘩したりした時は、話し合ってその都度、軌道修正をしています。
夫婦喧嘩は時として、一方的になることがありますよね。例えば、喧嘩して自分が納得できない時は、自分がなぜ悪くないかを時間をおいてから冷静に話し合うんです。話し合うことは、すごくパワーがいることなのでみんなやりたがらないけれど、これはすごく大事なことだと思います。
話す時は、感情的になるのではなく、仕事の会議くらい論理的にきちんと話したほうがいいですね。なぜダメだったのか、なぜ相手が怒ったのか、自分がどう思ったかということを自分なりに分析して、ちゃんと話すことが大事だと思います。
―――最後に子育て中のママに向けてメッセージをお願いします。
鈴木:先ほどもお話しましたが、子どもの成長のスピードは人それぞれなので、親はそこに対して焦らない方がいいし、ほかの子と違っても決して親のせいではないということです。子どもの成長に合わせていけば、子育ては楽しめるのではないかなと思います。
(文・酒井範子)
まとめ
イラスト小説「ハルカと月の王子さま」はママたちにぜひ読んでいただきたい1冊です。小説を読むと、懐かしい気持ちとともに心が温かくなるはずです。ぜひ、コラボ曲「ハルカ」とともに楽しんでみてはいかがでしょう。
鈴木おさむさん profile
1972年4月25日生まれ 千葉県 千倉町出身 O型
高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。バラエティーを中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆等さまざまなジャンルで活躍。著書に育児エッセイ『ママにはなれないパパ』(マガジンハウス)、『芸人交換日記〜イエローハーツの物語〜』(太田出版)などほか多数。