【専門医に聞く】新型コロナは母子感染する?感染した新生児は重症化する?
2021年3月に、「新型コロナの母子感染が国内で初めて確認された」と報道されました。ニュースなどで知った方も多いでしょう。この報道は、日本小児科学会新生児委員会がまとめた「新型コロナウイルス感染(疑い)の妊婦から出生した新生児の診察・管理体制に関する調査」が元になっています。そこで同委員会の担当理事である日本大学医学部小児科主任教授の森岡一朗先生に、新型コロナの母子感染について21年4月25日時点でわかっていることを聞きました。
新型コロナの母子感染はレアケースで、重症化する可能性は非常に低い
「新型コロナウイルス感染(疑い)の妊婦から出生した新生児の診察・管理体制に関する調査」は、2020年9月1日~10月8日に実施したもの。1124施設からの回答によると、8月31日までに31施設で、52人の新型コロナウイルスに感染した妊婦から52人の新生児が誕生。そのうち1人の新生児が、出生直後に行った新型コロナウイルスの検査で陽性だったことがわかりました。
――この新生児は、新型コロナウイルスを母子感染(垂直感染)したということでしょうか。母子感染にはおなかの中にいるときに感染する「胎内感染」、分娩が始まってから産道を通るときに感染する「産道感染」、母乳から感染する「母乳感染」がありますが、今回の調査でわかった感染は胎内感染ですか。
森岡先生(以下、敬称略) 出生直後に陽性判定が出ているので、母乳感染はあり得ません。産道感染だとしたら、感染からウイルスの検出までの時間が短すぎるので、胎内感染したと考えるのが妥当でしょう。
――今回の調査では、新型コロナウイルスに感染したママから生まれた新生児が陽性になったのは52人中1人で、確率では1.9%とのこと。母子感染した確率はかなり低かったようです。この調査以降、出生時に陽性となったケースは報告されていますか。
森岡 別の調査で、もう1人確認されています。しかし、いずれにしろ、国内ではレアケースで、重症化はしていません。
――日本では新型コロナが母子感染するケースはかなり少ないんですね。ほかの国ではいかがでしょうか。
森岡 アメリカでは2~3%という報告があります。出産間際に新型コロナに感染した妊婦が100人いたら2~3人の新生児が母子感染したという計算になりますが、これも多い数字ではありません。
――万一母子感染しても、新生児が重症化するリスクは低いと考えていいですか。
森岡 基本的にはそう考えていいと思います。ただ、4月にインドで、新生児がコロナに感染して「小児多系統炎症性症候群(MIS-C)」を発症したという報告が出されました。
――MIS-Cは新型コロナに感染した子どもが重症化したときに起こしやすいといわれる症状ですよね。熱のほかに下痢、発疹などが見られ、心臓の動きが悪くなることがあるとか。発症は年齢が高めの子どもが多いと考えられていましたが、新生児でも発症する可能性があるということですか。
森岡 インドの報告例よって、その可能性がないと言えなくなりました。とはいえ、インドの報告が世界的にも初めての例だと私は認識しています。非常に珍しいケースです。
ママが妊娠31週で新型コロナに感染し、治癒後、ママのPCR検査は陰性で満期に3750gで出生しました。そのため、この新生児は出生直後にはPCR検査などはしていませんでした。退院後、生後22日目に発症したという経過です。
陽性時の出産は帝王切開で、陰性になるまでの授乳は人工乳か搾母乳が一般的
――母子感染で新生児が新型コロナを発症する確率はかなり低く、重症化する可能性はさらに低いことがわかったのは、現在妊娠中のママや、妊娠を考えている夫婦にとって安心できる話です。とはいえ、新型コロナの感染拡大が止まらない今、出産間際に感染した場合の対応を知っておいたほうが、いざというとき冷静に行動できるかもしれません。まず、出産方法はどうなりますか。
森岡 感染対策を万全に整えて出産を迎える必要があるため、帝王切開にしている場合が多いです。そして、感染者であるママは個室や感染症病棟に入院となりますので、出産後は新生児への感染リスクを防ぐために、母子別室になる場合が多いでしょう。
また、新生児は出生後のPCR検査が陰性とわかるまで、あるいは濃厚接触者と考えて、出生直後の検査で陰性になっても14日間は個室で過ごして経過観察を行うこともあります。
――入院中の授乳についてはいかがですか。
森岡 新型コロナにかかって治ったママの母乳には、感染に対していい物質が含まれているのですが、直接母乳を飲ませるには新生児ヘの接触や飛沫による感染リスクを伴います。そのため、ママが陽性の間は搾母乳や人工乳を飲ませることになるでしょう。ママと赤ちゃんは別の場所にいるので、母乳をしぼった際のウイルス混入や、病院内スタッフへの感染のリスクもありますので、現在は搾母乳を与えることもしていない病院が多いのが現状です。
もちろん、陰性になったら母乳を飲ませることができますから、人工乳を飲ませている間もできる範囲で、母乳が止まらないようにしてほしいです。とはいえ、つらいときは無理しないでください。
――経過観察中の新生児のケアは、ほかの新生児と異なりますか。
森岡 個室や保育器に入りますが、基本的には同じです。そして、PCR検査陰性の確認や観察期間が終了して感染していないことが判明したら退院となります。
ただし、病院によって対応が異なる場合もあるので、出産予定の病院の対応を確認しておくといいと思います。
新型コロナの収束はまだ見えない。妊娠の時期は夫婦でよく話し合って決めよう
――新型コロナの流行によって、世界的に出生率が低下しています。新型コロナの母子感染を考える場合、出産は控えるべきなのでしょうか。
森岡 コロナ禍での妊娠・出産を控えたくなる気持ちはよくわかります。でも、新型コロナの母子感染はレアケース。しかも、国内で感染が確認されて陽性になった新生児は重症化していません。そのため、母子感染はそこまで恐れる必要はないと私は考えています。それに、新型コロナの流行はまだ当分続きます。「子どもを作るのはコロナが収束してから」と待っていると、思い描くような生活設計ができなくなるかもしれません。
同年代の女性より妊婦の感染リスクが高くなることはないので、密を避ける、手指消毒を徹底するなどの感染対策をしっかりと行えば、コロナに感染せずに無事出産の日を迎えられる人のほうが多いでしょう。
その点を夫婦でよく話し合い、妊娠・出産について決めてほしいと思います。
お話・監修/森岡一朗先生 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
新型コロナが母子感染する可能性はかなり低いので、その点はあまり恐れなくてもいいようです。ただし、出産間際にコロナに感染すると、ママは隔離されますし、生まれたとたんに新生児も隔離の対応になり、会えなくなってしまいます。一緒に過ごせる時間が先送りになってしまうのは寂しいので、感染予防は徹底するようにしましょう。
森岡一朗先生(もりおかいちろう)
Profile
日本大学医学部小児科主任教授。日本大学医学部卒業、神戸大学大学院医学研究科博士課程内科学系専攻修了。小児科学会専門医・指導医。周産期(新生児)専門医・指導医。臨床遺伝専門医、小児感染症認定医・暫定指導医。専門分野は新生児・小児感染症。