食べさせなくても、食卓にあるだけで食物アレルギーに?イクラは?鶏卵は?【専門医に聞く】
ママ・パパの中にも「すしネタの中でもイクラがいちばん好き」という人もいるでしょう。しかし、近年、イクラで食物アレルギーを発症する1才代・2才代が多くなっています。そこで、イクラが食物アレルギーの原因食物となっている背景について、国立成育医療研究センターアレルギーセンター センター長大矢幸弘先生に聞きました。
子どもが口に入れなくても食卓にあれば、触れていることになる
子どもの食物アレルギーの原因食物といえば鶏卵・牛乳・小麦がよく知られています。この3つは0才代の食物アレルギーの原因食物として多いものです。消費者庁の報告(※)によると、1才代、2才代の原因食物(初発集計)は鶏卵の次に魚卵の発症事例が多くなっています。
そして、魚卵の中でもイクラがいちばん多いという報告があります。
「魚卵が1才~2才代になって原因食物となるのは、このころ初めてイクラを食べる子が多いからです。症状としてはほかの食物アレルギーと変わらず、じんましんなど皮膚症状をはじめ、嘔吐など消化器症状、せきなど呼吸器症状があります。イクラは魚卵の中でも症状が強く出やすいことがありますが、それはほかの魚卵に比べてつぶが大きく、量をたくさんとってしまうからかもしれません」(大矢先生)
また、日本の食文化や最近の外食事情とも関係があると言います。
「世界的に食物アレルギーは増えていて、イクラが原因食物の上位にあがるのは日本ぐらいのようですが、ほかの国でも報告が増えつつあります。
その背景には日本ではイクラを高級食材として嗜好する大人が多くいること、そして最近では回転ずし店などで手軽に食べられるようになったこと、回転ずし店に子どもを連れて行くようになり、連れては行くものの1才代まで魚卵は食べさせないこと、があげられます。
食物アレルギーの観点から見れば、大人が近くでイクラを食べているのに、子どもは食べさせない、食べさせてこなかった、という状況がいちばんよくありません」(大矢先生)
皮膚を健康に保つことが予防の第一歩
ママやパパの感覚からすると「大人が子どもの近くでイクラを食べ、子どもが食べないというシーン」はごくふつうにありそうですが、この状況が食物アレルギーの原因となるということはどういうことでしょうか。
「アレルギーの原因となる物質をアレルゲン(抗原)といい、私たちの身のまわりには、食物、花粉、ダニなど多くのアレルゲンが存在します。このアレルゲンが体の中に入ると異物とみなして排除しようとする免疫機能がはたらき、IgE抗体という物質が作られます。この状態を“感作”といいます。いったん感作が成立したあと、再度アレルゲンが体内に入ると、IgE抗体がくっつき、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、アレルギー症状を引き起こします。
すし店や家庭でイクラを食べるとき、空気中にはイクラの抗原が漂っています。その抗原がほこりなどにつき、湿疹のある皮膚に侵入すると、免疫細胞と反応して感作を起こしてしまいます。
乳児湿疹やアトピー性皮膚炎がある場合は、なるべく早くケアすることが食物アレルギーの予防につながるのです」(大矢先生)
イクラを食べるとき、肌に問題がない場合は感作を起こしにくいのです。これはなにもイクラに限ったことではなく、たとえば鶏卵がアレルギーの原因食物として多いのは、鶏卵は家庭で食べることが多く、家庭内に抗原が多くあるからだそうです。
鶏卵と魚卵のタンパク質は別のもので関連性はない
鶏卵アレルギーがあると、同じ卵だから魚卵にもアレルギーがあるのではないか、と不安に思うママ・パパもいるでしょう。
「鶏卵と魚卵のタンパク質はまったく別のものです。鶏卵アレルギーだから魚卵アレルギーになることはないので、自己判断で除去する必要はありません。
どんな食物にも複数のアレルゲンタンパクがあり、加熱に強いタンパクと加熱変性しやすいタンパクがあります。加熱変性しやすいタンパクを多く含む食物(果物など)は加熱でアレルギー反応を和らげることができますが、加熱に強いタンパクを多く含む食物(牛乳など)は加熱してもアレルギー反応は弱くなりません。
鶏卵は両方ありますから、加熱すると少し食物アレルギーのリスクが減りますが、魚卵は生でしか食べないものもありますし、そもそもアレルゲンのタンパクが異なるので、別の食物として対策をたてる必要があります」(大矢先生)
イクラは加熱して食べるということはありませんが、たらこなど加熱して食べる魚卵も、加熱したから安心ということはないということです。ですが逆を言えば、生で食べてもアレルギーにはならない、ということになりますが、どうなのでしょうか。
「鶏卵を生で子どもに与えてはいけない、ということはないのですが、サルモネラ菌感染のリスクを減らすためには加熱したほうが無難です」(大矢先生)
そのため、離乳食ではしっかり加熱したかたゆで卵からスタートすることになっているとのことです。
取材・文/岩崎緑、ひよこクラブ編集部
大人が好きなイクラですが、赤ちゃん・子どもに食べさせるときには、空気中にいくらの抗原が漂っているため、食事の環境や赤ちゃん・子どもの皮膚を健康に保つことなどに注意しましょう。また、丸く、小さいので誤えんの危険性もあります。
※消費者庁「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書 即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査(平成30年度)」