重度のてんかんのわが子を看病する経験から生まれた、病児・障害児用のウエアブランド【体験談】
病児・障害児用のウエアブランド「medel me(メデルミー)」の代表を務める原村綾さんには、6歳の一人息子・奨(しょう)くんがいます。奨くんは、大田原症候群(おおたはらしょうこうぐん)という難病を抱えています。大田原症候群とは、新生児期から3カ月以内に発症する重度のてんかんで、日本での患者数は100人未満といわれる希少難病です。奨くんの看病を通し気づいたこと、病児・障害児用のウエアブランド「medel me」を立ち上げた経緯などについて、原村綾さんに聞きました。
生まれてすぐに重度のてんかんと診断。シングルで看病を続ける日々
原村さんは、20代のころアパレル関係の仕事をしていました。セレクトショップの責任者兼バイヤーです。20代後半で体調を崩して退職。34歳で結婚し、すぐに奨くんを授かりました。
しかし生後間もなく、奨くんは重度のてんかん「大田原症候群」と診断され、生後2カ月のときに脳の大手術を。手術前に医師から説明されたとおり、手術の後遺症で右半身がまひし、今は寝たきりの状態です。
「夫とは奨が1歳半ごろに別居し、その後離婚しているので息子の面倒を見るのは私一人です。1歳半ぐらいになると、体も大きくなってきて着替えをさせるのが本当に大変!抱き上げて服を脱がせたり、動かない右手に洋服の袖を通そうと思っても、腕が引っかかってうまく通らなかったり。“私、何やっているんだろう…”と涙が止まらなくなったこともありました。
当時は、自分自身の心のバランスが崩れていてうつ気味でした」(原村さん)
寝たきりの子の着替えの大変さを、少しでも改善したい気持ちから、新たな人生がスタート
奨くんの看病を通して、原村さんは「着替え1つでこんなに大変なのだから、きっと同じ思いをしているママたちもいるはず!」「着替えさえラクになれば、もう少しママたちの負担も減るのに…」と考えるように。
振り返れば原村さん自身も、看病に追われて自分のことは常に後回し。奨くんに笑顔で接する余裕すらなくなっていました。
「このままではいけない!息子のことも大切だけど、私自身のことも大切にしないと、いつか親子でつぶれてしまう」そうした思いが、ふさぎ込んでいた原村さんを突き動かしました。
「私は以前、セレクトショップで責任者兼バイヤーをしていましたが、型紙を作ったり、縫製はできません。そのためSNSで協力を呼びかけたところ、デザイン画から型紙を起こしてくれるパタンナーさんが何名か協力してくれることになりました。本当に感謝しています。
しかし難航したのが製造メーカーです。大量生産でないため、協力してくれる製造メーカーがなくて、20件ぐらいメールでお願いをしたのですが返信がありませんでした。あきらめかけていたとき、唯一、電話をくれたのが、私の実家がある佐賀県の縫製工場です。ここで断られたら、後がないので私も必死でした。頼み込んで、やっと直接、社長さんに会ってもらえることになりました」(原村さん)
縫製工場を訪問する日、原村さんは2歳になる奨くんを連れて行きました。
「社長さんの前で、実際に息子の着替える様子を見てもらい、どんなに寝たきりの子の着替えが大変かを伝えました。そしたら社長さんが涙を流して、共感してくれました。そこから具体的に話が進むようになりました」(原村さん)
“自分(親自身)を愛(め)でる”意味を込めて「medel me」が誕生
ブランド名「medel me」は、「medel=愛(め)でる me=自分。自分(親自身)を愛でる」という意味が込められています。
「子ども用品って、全体的に子ども目線のものが多いのですが、私は親目線のものが、もっとあっていいと思います。“ママたちに、もっと自分を大切にしてほしい!”そんな思いを込めて“medel me”と名づけました」(原村さん)
「medel me」のウエアは、大人も子どももストレスフリーなのが特徴です。主なポイントは次のとおりです。
【Point1】前開き&肩・袖部分が面ファスナーで開く
ウエアは、着替えさせやすい前開きタイプ。袖部分は、腕が通しやすく、病院での点滴などの治療も受けやすいように肩と袖部分は面ファスナーで、ワンタッチで開きます。
【Point2】オーガニックコットン100%使用
肌触りや伸縮性、通気性、吸水性に優れたオーガニックコットン100%を使用。汗をかきやすい子も快適な着心地です。
日本製。
【Point3】デザイン性へのこだわり
デザインは、すべて原村さんによるもの。「シンプル&かわいいデザインで、着替えの時間が楽しくなるように」という願いが込められています。
【Point4】110~150cmのサイズ展開
大きくなっても着替えやおむつ替えがしやすいようにサイズは110~150cmで展開しています。
お話・写真提供/原村 綾さん、取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
まとめ文
「medel me」のウエアには、ワンポイントでパイナップルのマークがあしらわれています。その理由を原村さんは「パイナップルの花言葉は、“あなたは完璧だから、そのままでいい”です。これは私から、障害や病気をもつ子どもたちや、そのママたちに贈りたいメッセージです」と言います。また障害や病気の子を看病していると、気持ちが暗くなりがちですが、ハワイの風のように軽やかに。パイナップルのマークには、そんな原村さんの願いが込められています。
原村 綾さん(はらむら あや)
Profile
セレクトショップの責任者兼バイヤー、エステサロン勤務を経て、結婚。34歳で奨くんを出産。重度のてんかん(大田原症候群)をもつわが子の看病をしながら、2018年に病児&障害児用のウエアブランド「medel me」を立ち上げる。