デルタ株の流行で子どもの感染増!ママ・パパに知って欲しい最新情報 【小児科医】
新型コロナウイルスは、デルタ株が主流となり、新たな局面を迎えています。子どもたちの間でも感染が広がり、漠然とした不安を抱えているママやパパもいると思います。富山大学附属病院小児科の種市尋宙先生に、2021年8月29日現在でわかっているデルタ株の子どもへの影響などについて聞きました。種市先生は、富山市立学校新型コロナウイルス感染症対策検討会議座長を務め、富山市で子どもの感染対策に当たっています。
デルタ株に感染しても、日本では子どもの重症度は高くなっていません
新型コロナウイルスは、デルタ株が猛威を振るい、子どもたちの間でも感染が拡大しています。
――新学期が始まり、子どもたちの間でさらに感染が広がるのではないかと心配するママ・パパも多いです。子どもがいる家庭では、第5波をどのように乗りきるといいでしょうか。
種市先生(以下敬称略) 私は、以前から新型コロナウイルスは、子どもたちにとっては決して怖いウイルスではないと言っています。デルタ株も地域によっては注意が必要ですが、今のところ子どもの重症度が高くなったという根拠はありません。感染者数が増えると中等症、重症が増えてくるということだと思います。
――子どもにとって怖くないウイルスとは、どういうことでしょうか。
種市 1つは重症者数です。厚生労働省はHPで新型コロナウイルスの「性別・年代別重症者数」などを発表していますが、デルタ株がまん延中の2021年8月11~17日のデータでは、国内での10歳未満の重症者は全国でゼロです。
子どもは、新型コロナウイルスに感染してもほとんどは、無症状か風邪症状が出る程度です。デルタ株が流行して、熱が出る子も増えてきましたが、それでも重症化は極めてまれです。
今年の春ごろから全国的に子どもたちの間ではRSウイルス感染症が流行していますが、私が勤務している富山県では、2021年4月~5月RSウイルス感染症で重症化し、人工呼吸器の装着が必要な例が短期間で6例ありました。また心肺停止が2例発生し、残念ながら亡くなってしまった例が1例ありました。
今の日本では、子どもたちが新型コロナウイルスに感染しても、ここまで広く重症化することはありません。
ママやパパが本当に心配したほうがいいのは、新型コロナウイルスで子どもの重症者数が増えてきたときです。厚生労働省のHP「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報―」(データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報- (mhlw.go.jp)を見るなどして、アンテナを張ってほしいと思います。
――2020年3月、全国の小中高で一斉臨時休校がありました。それに伴い、保育園や幼稚園でも臨時休園をした園が多くあります。デルタ株の流行で、再び臨時休校・休園はあり得るのでしょうか。
種市 2020年3月に行われた臨時休校・休園は、私は振り返り反省すべき政策だったと考えています。多くのデメリットがありました。前述のとおり、子どもたちは新型コロナウイルスに感染しても風邪症状程度です。子どもたちが重症化し、死亡するケースがあるRSウイルス感染症やインフルエンザウイルス感染症では、どんなに流行しても一斉休校にはなりません。せいぜい学級閉鎖、学年閉鎖ぐらいです。
大人の感染状況や大人にとっては効果的と考えられる感染対策を、そのまま子どもの世界に当てはめると、さまざまなひずみが生じます。
子どもたちは、大人が決める対策に声をあげて反対することができません。もし今、子どもたち自身に学校のことを聞いたら「休校・休園なんて必要ない」と言うと思います。
各自治体には、今後も休校などの措置は感染状況と照らし合わせて慎重に判断してほしいと思います。子どもたちにとっての生活のリスクは、新型コロナウイルス感染症だけではないことを重視してほしいです。
ママ・パパは、自分の健康を守ることがミッション!大切なのはワクチン接種と子どもの心のケア
子どもは新型コロナに感染しても、軽症とはいうものの、大人は違います。第5波の流行から家族を守るために、今、必要なこととは!?
――デルタ株に子どもが感染し、ママ・パパにうつるケースも増えてきているようです。
種市 新型コロナウイルスは、前述のとおり子どもにとってはそこまで怖くないウイルスですが、大人にとっては怖いウイルスです。
ママやパパは、自分自身をまず守ることがミッションです。予約が取れない事情などもあるでしょうが、できる限り、新型コロナウイルスのワクチンは受けてほしいです。ワクチンの効果は、高齢者の重症化数や死亡数が抑えられたことでも明確に証明されています。
――政府は、10代、20代の若者へのワクチン接種も呼びかけていますが、副反応を警戒し、接種を見合わせる若者もいるようです。
種市 副反応のリスクもあるでしょうし、これまでのコロナ対策への反発もあると思います。若者は、学校で対面授業が受けられないなど、多くの犠牲を払ってきた一方で、行動範囲が広く活動的なためウイルスをまき散らしているようにいわれていた時期もあり、政府、自治体、マスコミなどに対する不信感や怒りをもっている人もいると思います。
しかし10代後半、20代の陽性者数は多いです。自分自身のためにも、自分より下の世代の子どもたちが安心して暮らせる社会を取り戻すためにも、私は若者の間でワクチン接種が普及してほしいと思いますし、この国の若者はそうしてくれると信じています。
――デルタ株は、従来型と比べて感染力は1.78倍ともいわれています。家庭内での感染対策で気をつけることはありますか。
種市 家族に感染者がいない場合は、帰宅時や食事の前の手洗い、定期的な換気など従来からの感染対策でいいです。というのも家庭内で過度な感染対策をして、家庭が居心地の悪い場になると、子どもの心身に影響をおよぼしやすくなるからです。
2021年6月、文部科学省の発表によると2020年の児童生徒の自殺者数は499人でした。前年比1.25倍です。新学期が始まる2020年8月の子どもの自殺者数は65名(前年比1.9倍)、9月の子どもの自殺者数は55名(前年比1.14倍)です。
また自殺に追い込まれなくても、ナイーブになっている子どもたちは多いです。先日も診察したとき「コロナだったらどうしよう…」と目を赤くしていた女の子がいました。子どもたちは、精神的にかなり追い込まれています。
子どもがいる家庭は、感染対策も大切ですが、同時に子どもの心をケアすることも大切です。感染対策と心のケアのバランスを取ることを心掛けてください。
――今年は全国的にRSウイルス感染症が大流行しました。インフルエンザも流行るのでしょうか。
種市 インフルエンザの流行は、南半球で秋から冬に流行すると、日本も流行するといわれていますが、南半球ではまだ流行の兆しはありません。しかし1歳以降は、インフルエンザの予防接種を受けたほうがいいです。ママやパパも同じです。
春のRSウイルス感染症が、ここまで感染が拡大するとは予測できませんでした。流行の原因は2020年、RSウイルス感染症が流行しなかったため、子どもたちの間で抗体が下がったというのも大きいと思います。
コロナを軽視するわけではありませんが、子どもたちにとっての脅威はRSやインフルエンザのほうが大きいと思っています。インフルエンザの流行も予測ができないので、家族で予防接種を受けて備えてください。
取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
連日、ニュースなどで新型コロナウイルスの情報が伝えられますが、種市先生は「ニュースなどで伝えられるのは大人向けの情報が多く、子どもでの解釈は少し違う」と言います。また「デルタ株が流行し、子どもの感染が〇倍に増えた!」などの報道もあり、不安になると思いますが、種市先生は「子どもはもともと感染者数が少なかったので、倍率で表示する手法は扇動的にも見えます」「第3波、第4波のときもそのような報道手法は時々見られており、子どもは危険、と当時から言っていました」とも。ママやパパが今、必要なのは冷静に情報を見ることです。子どものコロナで不安なことは、小児科医に聞くのがいいそうです。