ワンオペ育児の始まりは明治時代!?
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父親が育児のリーダーだった江戸時代。そこから、現在のような、母親が育児の主体になっていったのはどうして? 前回の「江戸時代の子育て」に引き続き、和光大学の太田素子先生にお話を聞きました。
育児のリーダーが母親になったのは明治時代
――江戸時代のことをお聞きしたときは、「江戸時代の子育ては『家』の継承を価値と考える社会だったから、育児のリーダーは父親だった」というお話が興味深かったです。現代では、育児の主体となっているのは母親ですが、いつごろからそのようになったのでしょう。
「明治維新以降だと思います。明治維新でヨーロッパの文化が入ってくるようになり、日本はグローバル競争にさらされました。ヨーロッパに追いつけ、追い越せという雰囲気になった。さまざまな要因があるとは思いますが、1つに、男は近代国家のために働き、女は家で子育てを担うという役割が形成されやすい時代の空気があったのだと思います。育児は母乳が出る母親のほうが向いているという“育児天職論”が浸透したのもこのころです」
――なるほど。時代が後押ししたというのはありますね。
「ほかにも、日本の女子高等教育の礎を築いた鳩山春子の『我が自叙伝 鳩山春子』という育児本がベストセラーになりました。ヨーロッパの心理学に基づいた子育てや、しつけの基礎、子どものための教育など、母親主体の子育てについて書かれている本で、“良妻賢母”という言葉も登場します。江戸時代も子どもの日常のお世話は母親が担っていましたが、育児のリーダーはあくまで父親でした。明治以降、母親が父親にかわって教育面なども含む育児全般を担うという考え方が、当時は新鮮だったのだと思います」
――当時の女性は、子育ての負担が増えるというよりも、女性の新しい可能性を感じたんでしょうね。
「少し脱線しますが、江戸時代も幕末あたりになると、男が家をあけることが多くなるんです。戦時中もそうですが、世の中の動きが激しいときは、物理的に男性が家に帰ってこられなくなるんでしょうね」
――「激動の時代は男性が家をあけることが多くなる」というのは、実感としても納得です。仕事が忙しいときはパパが家に帰ってこられなくなり、ワンオペ育児になりがち…。
子育ては母親も父親も両方担うのがいい!
――母親が主体の子育てが確立されていった背景が面白かったですが、太田先生は、父親と母親、どちらが主体の子育てがいいと思いますか?
「私個人としては、どちらが主体ということではなくて、育児も仕事も両方がどちらもできるのが幸せなのかなと思います。でも、それを実現するには、男性も女性も労働時間を短くすることが不可欠。今の日本はあまりにも経済活動が最優先になってしまって、子育てが置き去りになっている印象を受けます。日本人はとてもまじめなので、明治維新でグローバル競争にさらされたとき、かなり頑張った。頑張ることは悪いことじゃないけれど、頑張りすぎて苦しくなってしまった反動が来ているのでは?
高度経済成長も終わり、ゆるやかな成長の時代になってきた今、子育てや仕事のしかたを見直す時期にきているのだと思います」
明治維新以降の子育てはいかがでしたか?ママ1人での育児が主流になったのは、ここ100年くらいのこと。“現代の常識”にとらわれず、自分らしい育児や夫婦関係、働き方を見直すきっかけにしてみてはどうでしょうか? (取材・文/ひよこクラブ編集部)
Profile●太田素子先生
和光大学現代人間学部心理教育学科 教授。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了後、湘北短期大学、埼玉県立大学などを経て現職。主な担当科目は、保育原理や幼児教育学演習など。近世日本の子育て文化研究も行う。著書に『江戸の親子 父親が子どもを育てた時代』(吉川弘文館)など。
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