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男性が育休を「取らない」デメリットって?男性育休について両方の立場からあらためて考える

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赤ちゃんを抱くアジアの家族
kazuma seki/gettyimages

特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

今回のテーマは、男性の育児休業取得について。
「こどもを社会全体で育てる文化を作る」ために活動を続ける『みらい子育て全国ネットワーク』代表の天野妙さんにお話を聞きました。

後編では、天野さんのご経験を基に、男性の育児休暇取得のメリットについて話を進めていきます。

育休を逃したら、パートナーの産後の大変な状況を一生理解できないまま

『みらい子育て全国ネットワーク』代表 天野妙さん

――― 天野さんは「男性が育休を取った方がいい」とおっしゃっています。それはなぜでしょうか?

天野妙さん(以下天野、敬称略):もちろん状況的に育休を取れなかったり、取る必要性が低い人もいると思います。が、それでも私は育休を取った方がいいと思っています。

まずは、メリットより「取らない」デメリットを知ってほしいです。

なぜなら、育休を逃すとパートナーの産後の大変な状況を一生理解できないままだと思うんです。自分が昇進して上司という立場になったとき、部下に「パートナーの産後の調子が悪いから育休を取りたい」と言われても、自分が体験していないから、なかなか想像できませんよね。なので、自分とは違う状況、立場に身を置く経験は、その人の知的財産になります。その機会を損失しているとしたらそれは大きなデメリットだと思うんです。

一定期間会社から離れて、平日の昼間に公園に出かける。スーパーでレタスの値段を知る。おむつ替えコーナーのないトイレ。駅の小さな段差。そんな小さな気づきは、駅まで行って、電車に乗って、会社に行って帰ってくるだけの日常では、知り得ない情報ばかりですよね。

――― 制度を知らないから、育休をとったときのデメリットが気になるのですね。

天野:「育休を取ったらお金は出るの?」「給付金はどのくらい?」「会社が負担するの?」などお金に関して気になる方は多くいらっしゃいます。でも、「毎月給与天引きされてる雇用保険から手取額のおおよそ8-9割の給付金が出ます。会社には一円も負担はありません」というと、多くの方がホッとします。

今回の「育児・介護休業法改正」では、「雇用環境整備や個別の周知・意向確認の措置が、事業主の義務」になりますから、会社は従業員に対し「育休取る?」と、声をかけるようになるでしょう。また、分割しての取得することが可能になりますから、それぞれが仕事の状況に応じて時期や期間を選べるようになります。これだけでも育休の取得率の増加は期待できます。

そして、育休を取得する人が増えるとそれがマジョリティ(多数派)になっていって、取るのが当たり前になる会社も増えていくでしょう。

マイノリティをマジョリティに変えるために

――― 制度は整っても、やはり周りを気にして「帰りづらい」という声も聞こえてきます。

天野:マイノリティ(少数派)がマイノリティでなくなると言われる「黄金の3割」を超えたら、男性が育休を取ることを誰も気にしなくなると思うんですよ。

女性管理職の問題もまた然りです。周りに管理職になったロールモデルはいないし、何か発言すると女性の代表の意見のようにとられる。マイノリティでなくなる瞬間までは、マイノリティ側にいる人は苦しい思いをするんだと思います。だからその3割の壁を越えるには、マイノリティ同士が繋がって連携していき、数を増やし、マジョリティになっていくことが必要だと思っています。

ちょっと前まで育休から復帰した女性の多くは、「マミートラック」と言われる補助的な仕事を時短勤務で働くようなキャリアに乗らざるをえませんでした。やりがいの無い仕事と、子どもの成長を見逃してしまった後悔とのバランスがとれず、「私はなぜ働いているの?」という葛藤と一人戦うこともしばしばで、私もそう思っていました。なぜならそういう人たちがマイノリティだったからです。でもそれが徐々に数が増え、横のつながりができ、キャリアアップを目指しつつ、家庭との両立ができる会社も増え、ずいぶん状況も変わってきています。

つまり、育休や時短など仕事と家庭を両立する男性が孤独なマイノリティのままだと、同じような状況を男性も経験することが予想されます。
すると、マイノリティとして孤独に働くよりも、やりがいのある仕事と子育てしやすい職場環境が整った企業に転職を考えますよね。それが提供できない会社は多少年収を釣り上げても、見向きもされなくなってしまうでしょう。何故なら、仕事と家庭の両立しやすい職場環境は「報酬の一部」だと考えられているからです。
よって、企業にはマミートラックもパピートラックも作らせない、ワーク・ライフバランスを重視した職場環境への転換が必要だと思います。

育休は会社の枠の外につながりを作るチャンス

――― 会社側が環境を整えても、「自分の代わりはいないから休めない」という人もいるようです。

天野:総理大臣ですら交代するのですから、代わりのいない仕事なんて存在しないです。「自分じゃなきゃできない」は、「自分がそう言う価値ある存在でありたい」という思いの現れではないでしょうか?「代わり」つまり、部下や後輩を育てるということは、自分と同じかそれ以上に仕事ができる人材を育てることです。大変ですが、仕事の属人化を防ぎ、サステナブルな会社の成長の為にも必要なことです。

また、育休を取ると、会社の枠の外で新しい情報やつながりを得るチャンスになり、イノベーションの種になると思います。

――― 会社の枠の外に情報やつながりを作る意味はどんなことでしょうか?

天野:私はボランティア活動を通じて、20代30代の仲間と知り合いましたが、彼らは高いITリテラシーや能力をもっています。そしてその知識や経験を惜しみなく提供してくれるんです。

例えば今、私は複数のボランティア活動に関わっていますが、Slackというコミュニケーションツールでつながっています。これも彼らから数年前に、Slackがいいよ!と教えられました。もし自分がいる世界にだけどっぷり使っていたらSlackは使っていなかったと思います。他にもTrelloやZOOM、ジャムボード、googleの新しい機能など、自分だけでは知り得ない事を教えてもらいました。おかげで、動画の編集もできるようになったり、自身のITリテラシーが大きく飛躍しました。

同じ会社で同じ仕事で同じ世界観の中では得られない情報が、育休中の新しいつながりから得ることができる。それは、自分の価値や知識を高めるためにとても有用だと思います。

男性にとっても育休は会社の外に繋がりをつくるチャンスだと思うんです。

子どもの成長の変化に合わせた対応やスキルが身につく

――― パートナーが育休をとることは、ママにとってどのような効果があると考えますか?

天野:パートナーが育児休業を取ることで得られるのは大きく2つあります。1つは、夫婦の会話が増える事で、価値観のチューニング(相互理解の調整)ができることです。育休中は一緒に居ることも増えますから、子育てはもちろん、キャリアや生活、将来のお金などの問題について、お互いの価値観をすり合わせをする絶好の機会となります。また、初めての出産は特に相談相手も少なく、ママは産後うつを発症しやすい状況になりますので、その抑止にもなります。子どもの成長ごとに夫婦の価値観のチューニングは不可欠ですので、育休は夫婦で対等に意見を交換するきっかけとなります。

2つ目は家事育児のスキルアップです。ママの復職後、仕事にどれだけ注力できるかは、パートナーの家事育児スキルが大きく影響します。パートナーが育休をとって、ワンオペで家事育児こなせるようにしてもらえれば、ママの出張や、一時的な残業も可能となり、キャリアの可能性が大きく広がります。

ただ、この「ワンオペ能力」を育成する事は非常に重要です。というのも、ちょっと家事・育児が出来る程度だと、気が付かない事が多いのです。例えば、お風呂の掃除は、湯船だけを洗うのではなくて排水溝のゴミも取らなくちゃいけないとか。子どもの爪は週1で切るとか。季節に応じて衣替えが必要とか、知らない男性もいらっしゃいます。

子どもの成長につれて生活の形や必要なものは変わってくるのですから、変化に合わせた対応やスキルをパートナーが身につけてくれれば、自分ひとりで抱え込まなくても済みますし、それこそ自分の代わりがいるということで、生活や仕事の幅が広がるのです。

2カ月間の育休をお金に換算してみましょう。育休をとると、普段のお給料の67%支給されるので、年収約600万円の人だと約18万円可処分所得が減る計算になります。でもその18万円でそれだけの一生のスキルを身につけられるとしたら、安いものだと思いませんか?

――― これまで政治って、自分とはあまり関係ない話だと思っていましたが、天野さんのお話を聞いて、市民の意見から法律は変えられるという事を知り、実はけっこう身近な気がしてきました。


天野:政治は遠い存在だと思いがちですが、実は私たちの生活の「困った」の多くは、政治で改善できます。例えば、少子化なのになぜ待機児童の問題が起きるんだろうと思いませんか?解決してこなかったのは、子育て経験のある政治家が少ないことはもちろんですが、市民が「困った」を、政治に伝え足りなかったこともあります。
だから「育児休業」の話を自分ごととして捉えて考えてみると、「給付金手取の8割じゃ足りないな」とか「主婦や休業中にも保育園を一時的に使わせてほしい」や「自分の家事スキルがないから家庭科をもう一回習いたい」など「困った」が洗い出されます。その中に政治で変えられることは、たくさんあります。そう考えると政治との距離がグンと縮まりまりませんか?

政治に働きかけることで、もっと子育てしやすい社会に、みなさんの力で変化させることができるのです。是非私たちみんなの力で「社会全体で子育てする文化」を作っていけたらと思います。


取材・文/米谷美恵

Profile【天野 妙】

合同会社Respect each other代表、みらい子育て全国ネットワーク代表。日本大学理工学部建築学科卒業。株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)等を経て、性別・役職・所属・国籍に関係なく、お互いが尊敬しあう社会づくりに貢献したいと考え、起業。ダイバーシティ/女性活躍を推進する企業の組織コンサルティングや、研修など、企業の風土変革者として活動する傍ら、待機児童問題をはじめとした子育て政策に関する提言を行う政策起業家としても活動中。

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