完治まで5年も…?! 気づきにくい耳の病気。難聴による言葉の遅れの影響も【体験談】
滲出(しんしゅつ)性中耳炎は就学前の子どもがかかることが多い耳の病気です。痛みや炎症がなく、子どもが自覚したり訴えたりすることが難しいため、親も気づきにくいのだとか。しかし、ほうっておくと難聴による言葉の発達に影響することも。実際に子どもが滲出性中耳炎になった2人のママに、症状や治療のこと、自宅ケアの方法などの話を聞きました。
滲出性中耳炎の症状と治療方法は?
滲出性中耳炎は、鼓膜(こまく)の内側の中耳(ちゅうじ)と呼ばれるところに、感染などにより炎症が起こり、滲出液という液体がたまる病気です。そのため耳がつまったような感じがしたり、聞こえが悪くなったりします。
痛みや発熱などの急性の炎症がないため、無症状で気づかれないことも多く、子どもの難聴の原因になることも。
滲出性中耳炎は自然に治ることもあるため、2015年に作成された診療ガイドラインでは、発症して3カ月は経過観察となっています。鼻水などの症状がある場合は、鼻を治療する薬を処方します。長期間治らない、風邪を繰り返して悪化するなどの場合には、滲出液を出すために鼓膜切開を行うことや、鼓膜に小さなチューブを入れる手術を行うこともあります。
そのほかに定期的に耳鼻科に通院する場合、子どもに「ハック」「ガッコ」などと大きな声を出してもらいながら鼻から耳に空気を送る「通気療法」を行うこともあります。また、「自己耳管通気法」(耳抜き)ができれば自宅でのケアも可能です。1日3回ほど耳抜きをすると、症状が早く改善することがあります。
どうやって気づく?自宅でできることはあるの?ママたちの体験談
子どもが滲出性中耳炎になったことがあるママ2人に、当時の症状や治療の様子を聞きました。
元気で明るい子だったのに、おとなしくなってしまい心配だった
千葉県に住む小山陽子さん(デザイナー・34才)は、夫の雄介さん(公務員・38才)と子ども3人(葵ちゃん・9才、希ちゃん・8才、蓮くん・5才)の5人家族。長女の葵ちゃんが6才(小学校1年生)の春に滲出性中耳炎と診断されました。
「そのころ鼻水が3週間近く続いていましたが、ひどくはなく熱もなかったので様子を見ていました。そのうち会話の中で聞き返しが多いことに気づき、名前を呼んでも気づかないことも増え、おかしいなと思い耳鼻科に連れて行きました」(小山さん)
耳鼻科で葵ちゃんの耳を診察した医師から「滲出性中耳炎」という病名と伝えられ、鼻から耳へ空気を通す通気治療と、鼻の症状をよくする投薬を行うと説明があったそうです。通気治療は鼻の穴に当てた器具で空気を送り込む処置です。最初の1カ月ころは週2回、鼻水の症状が落ち着いたあとは週1回の通院が3カ月ほど続きました。
「長女は、通気治療の、鼻から耳の奥に空気が通る感覚がとても苦手だったようで、耳鼻科に行くのも毎回嫌がるし、処置のたびに大泣きしてとても大変でした。小学校入学直後だったので、聞こえが悪いことでお友だち作りに影響があってはいけないという心配と、本来は元気で明るい子なのに、滲出性中耳炎になってからおとなしくなり、このまま性格も変わってしまうのでは…というのも心配で、早く治してあげたかったので、なんとか通院を続けました」(小山さん)
通院に加え、自宅でできる自己耳管通気器具“オトヴェント”も取り入れていたそうです。これは、鼻の穴に専用の器具をセットし、器具の先に取り付けた風船を鼻息でふくらませる方法です。これを使うことで、耳と鼻の奥をつなぐ耳管が開き、中耳にたまった滲出液の排出が促され、また鼓膜の内圧と外圧を同じにすることができ、耳がつまった感じが解消されます。
「滲出性中耳炎と診断された日に耳鼻科の先生にすすめられ、インターネットで購入しました。初めはうまく使えませんでしたが、数回練習したら風船をふくらませられるようになったので、1日2〜3回、3カ月ほど使いました」(小山さん)
滲出性中耳炎にかかっている間、葵ちゃんは「ずっと水の中にいる様な変な感じがする」と訴え、「先生や友だちに話しかけられた時にわからなくて緊張してしまう」と困っていたそうです。小山さんは、そんな葵ちゃんを気持ちの面でも支えるように気をつけていたと言います。
「話しかける時はゆっくりはっきりと話すこと、聞き返されても嫌な顔をしないことを家族、とくに当時幼稚園児だった妹に伝えて、なるべく本人が不安を感じないように心がけました。もともと長女はアレルギー性鼻炎で、鼻水をすすってしまうくせがあるのが大きな原因だと思うので『鼻をすすらないように』だけはしつこく伝えていました」(小山さん)
葵ちゃんの治療は順調に進み3カ月ほどで完治しました。その後もアレルギー性鼻炎で定期的に通院はしていましたが、成長によって鼻をすするくせがなくなったこともあってか、それ以来滲出性中耳炎にはかかっていないそうです。
「滲出性中耳炎の治療は長引くので、本当に治るのかな、と不安になってしまいますが、鼻水はすすらない、少しでも風邪症状があったら早めに病院に行くようにするほうがいいと思います」(小山さん)
発音や言葉の覚え間違いが今も残っている
千葉県に住む木村孝子さん(事務パート・37才)は、夫の洋平さん(会社員・37才)と子ども2人(和樹くん・9才、春樹くん・4才)の4人家族です。長男の和樹くんが滲出性中耳炎だとわかったきっかけは、自治体の3才児健診だったと言います。
「市の健診の聴力検査で、耳のそばで指を鳴らしても反応しないことや言葉の発達が少し遅かったこともあり、市の保健師さんに耳鼻科の受診をすすめられました。家の中での会話は困らなかったので、指摘されるまで気がつきませんでした」(木村さん)
すぐに耳鼻科を受診すると、和樹くんは両耳の滲出性中耳炎と診断されました。
「長男はそれまでもよく鼻水がズルズルしていたのですが、おそらくハウスダストとダニのアレルギー性鼻炎によって滲出性中耳炎が起こっているのだろうと言われました。鼻水がよくなれば聴力もよくなっていくだろう、とのことで、アレルギー性鼻炎の薬を処方され、月1回の通院を続けました。
診察時の耳掃除と鼻水の吸い取りが息子には怖かったようで、毎回泣いて大騒ぎで…。ひざに座らせてはがいじめにして支えるのが大変でしたし、かわいそうで私自身もつらかったです。
通院も仕事の都合をつけての通院や、長い待ち時間がかかるのは負担でしたし、下の子が生まれてからは一緒に連れて行くのも大変でしたね」(木村さん)
通院して治療や投薬を続けるものの、右耳には滲出液がたまった状態が続き、左耳はたまっていたりなかったり、という状況で、治療は長引きました。やがて和樹くんが小学校入学のころになると、診察時に自己耳管通気の方法を教えてもらうようになったそうです。
「6才くらいになったころ、先生が通院のたびに耳抜きの練習方法を教えてくれました。耳抜きができると、耳管に空気が通って中耳内にたまった滲出液が抜けることがあるらしいです。『鼻をつまんで“ふんっ”とやるんだよ』と教えてくれました」(木村さん)
こまめに鼻をかむこと、自宅で耳抜きをすること、また上述の自己耳管通気器具“オトヴェント”をインターネットで購入し、自宅でのケアを続けていたそうです。和樹くんの滲出性中耳炎は、完治までには約5年間もかかりました。
「成長とともに8才ころにはよくなると聞いたけれど、8才を過ぎてもなかなか治らないので、このまま治らないのかな…大丈夫かな…というあせりはありました」(木村さん)
和樹くんが8才を過ぎた小学3年生の春ごろに、ようやく滲出液がなくなり、完治となったそう。ただ、気になるのは発音と聴力のこと、と木村さんは言います。
「小さいころから聞こえづらかった影響なのか、今でも発音のイントネーションが少し違ったり、言葉を間違えて覚えていることがあります。マイペースな子なので本人は気にしている様子はありませんが、私は滲出性中耳炎が原因だったのかな、と思ってしまいます。
また、滲出性中耳炎は完治しましたが、アレルギーの薬をもらうための通院は続けています。そのついでに細かな聴力検査もしてもらったら、どうやら大人の男性の声くらいの音域を聞き分けるのが少し苦手なようだとわかりました。こちらも検査をしつつ経過観察を続けています」(木村さん)
【仲野先生より】聞こえにくい場合は早めに受診し相談を
多くの滲出性中耳炎は自然に治りますが、治りにくいお子さんもいます。子どもも親も気づきにくい滲出性中耳炎ですが、言葉の発達にも影響することがあるので、聞こえにくい場合は早めに対応してあげたいものです。鼻水をすすらずにきちんとかむこと、自分でかめなければ鼻すい器などでママやパパがとってあげること、きちんと耳鼻咽喉科で治療することが大切です。自宅での自己通気も効果がありますので、かかりつけの先生に相談してみてください。
監修/仲野敦子先生 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
これから寒くなり風邪が流行する時期になります。鼻水が長引くと気づかないうちに滲出性中耳炎の症状が悪化することも。鼻水がズルズルしていると気づいたら、早めに受診することが、難聴などの予防につながります。
仲野敦子先生(なかのあつこ)
PROFILE
千葉県こども病院耳鼻咽喉科 診療部長。
1990年千葉大学医学部卒業後、千葉大学などで研修。2006年から千葉県こども病院耳鼻咽喉科に勤務。耳鼻咽喉科専門医、臨床遺伝専門医。