犯人は親も見ている…?子どもを性被害から守るために、親が知っておいてほしい大切なこと【専門家】
子どもが被害者となる性犯罪が、後を絶ちません。自己防衛ができない幼い子どもを守るために、親がするべきこととはどのようなことでしょうか。子どもをねらった犯罪に詳しい、立正大学文学部社会学科教授 小宮信夫先生に話を聞きました。
子どもにディープキスをした犯人の余罪は50件以上。性被害の実態は不明
警視庁では、平成29年9月「子ども・女性の安全対策に関する有識者研究会提言書」を発表しました。それによると平成24年から平成28年までに警視庁が認知した未就学児の性犯罪は、34件です。
――未就学児の性被害は、もう少し多い印象を受けるのですが。
小宮先生(以下敬称略) このデータは、警察に被害届が出された件数です。この数字は氷山の一角でしかなく、実際の被害件数は何十倍もあると考えています。
法務省では、4年ごとに犯罪被害実態調査をしています。全国の16歳以上の男女6000人(男女各3000人)を無作為に抽出して調査(調査期間/平成31年1月26日から同年2月末日)した結果では、性被害にあったことがあると答えた35人に対して「あなたまたは誰かが、捜査機関に被害届を出しましたか」と質問したところ、「はい」が5人、「いいえ」が28人、無回答が2人 でした。
大人でも被害届を出さない人が8割もいるのです。子どもは被害を受けたという認識すらないことも多く、親にも話さない場合、だれも被害に気づきません。実際に性被害にあっている子どもの数は推測さえつきません。
――子どもが被害を受けている認識すらないというのは、どういうことでしょうか。
小宮 子どもをねらう犯人は、言葉巧みに子どもに近づき、子どもをだまします。
実際にあった事件をお伝えします。犯人は「お口の中のむし歯を見てあげるよ。口開けて」「あれ?これ、すぐに治さないと歯が痛くなっちゃうよ」と言って子どもにディープキスをしました。この犯人は逮捕されましたが、自供によって50件以上の余罪があることがわかりました。ずっと通報されずに、50回以上も犯行を続けていたのです。本当にむし歯の治療をしてもらったと思い込んでいる子が多くいたのでしょう。
――性被害にあったとわかっても、親が警察に被害届を出さないこともあるのでしょうか。
小宮 あります。世間体を気にしたり、子どもが深く傷ついていたりすると、子どもに思い出させるのもかわいそうと考えて、警察に被害届を出さない親もいます。また「親がしっかり見ていないから!」と、家族やまわりから親自身が責められるため、被害届を出せない場合もあります。
私は、できることならば被害届を出してほしいと考えています。
――それはなぜでしょうか。
小宮 被害届を出さなかったために、同じような犯罪者から再び被害にあったりするからです。
また被害届を出すことには、わが子を守る意味と、社会全体で子どもを守る意味があります。被害届を出すことで犯人はもちろんですが、同じような犯罪者が、別の子どもに手を出さないことにもつながります。
公園のトイレは親がつき添うなど、幼児期はとくに目を離さないで!
2016年9月、当時7歳から15歳の男児や少年にいたずらをして動画撮影をした犯人グループ5人が逮捕されました。被害にあった男の子は100人以上ともいわれています。
――男の子でも、性被害にあうことはあるのでしょうか。
小宮 男の子でも、女の子でも性被害にあいます。そのため「男の子だから大丈夫」とは思わないでください。
――子どもを性被害から守るためには、どんなことが必要でしょうか。
小宮 まずは人を見た目で判断しないことです。「若い人や高齢者だから大丈夫」「女性だから大丈夫」ということはありません。また「知り合いや親せきだから安心」と考えるのも危険です。子どもの性被害は、親せきや知人から被害を受けることもあります。
アメリカやヨーロッパなどは、見た目では判断しませんし、近親者だから安心とは考えません。また幼児期は、危ない場所では、子どもを1人にせずに、親が目を離さないことが子どもを性被害から守る基本です。
――公園やレストラン、ショッピングモールなどのトイレは、何歳ぐらいまで親がつき添ったほうがいいのでしょうか。
小宮 小学校の低学年ぐらいまでは、親がつき添ったほうがいいでしょう。そのときも単につき添うだけでなく「怖い人がいるかもしれないから、ママ(パパ)と一緒にトイレに行こうね」と声をかけて、公園のトイレなどは怖いということを教えてください。怖いということがわかり、子ども自身で警戒できるようになることが大切です。
――親がいつまでもトイレなどにつき添うと、子どもが自立しないのでは? と心配するママやパパもいると思います。
小宮 日本人は、子どもの自立というと1人でトイレに行ったり、1人でおつかいをしたり、1人で留守番ができたりすることと考えがちのようですが、それは「物理的な自立」です。本当の自立とは、自分の意見をしっかり言うことができる「精神的な自立」です。精神的な自立ができると、万一、性被害にあったときも、親に相談できるようになります。
保育園などでの性被害を防ぐには、子どもから日々、園の様子を聞くことが大事
2020年2月、千葉県野田市の保育園で、男性保育士が女児にわいせつ行為をして逮捕されました。悲しいことに、保育園などでの性犯罪も時折、起きています。
――保育園内などで、子どもがいたずらをされる事件もあります。子どもの性被害を防ぐには、親が目を離さないことが基本とのことですが、保育園などに預けているときなどはどうしたらいいのでしょうか。
小宮 園の出入り口だけでなく、教室や廊下などに防犯カメラがしっかり設置されている園は、性犯罪が起きにくいです。しかしプライバシー保護の観点から、防犯カメラの設置に消極的な園もあります。
そのためママやパパに心がけてほしいのは、子どもから日々、園の様子をよく聞くことです。
――たとえば、どんなふうに園の様子を聞くといいでしょうか。
小宮 まずは普段から、なんでも親子で話し合える関係性を作っておくことが大切です。
千葉県野田市の保育園で起きたわいせつ事件は、犯人の保育士はダンスの練習中に女児と2人きりになって犯行におよんでいます。犯行後、犯人の保育士は「内緒にしてね。ダンスの練習をしていたと言ってね」と口止めしています。子どもをねらう犯人は、よく口止めします。
そのためなんでも親子で話せる関係を作っておかないと、子どもは言いません。
「こんなこと言ったら、ママやパパにしかられる」と思えば、ますます言わないでしょう。
――子どもが親に言わないのは、犯人の思うツボですよね。
小宮 そうです。犯人は、2つの点からねらう子どもを見定めています。1つ目は「自分の好みのタイプ」であること。2つ目は「親や先生などに言わない子」です。親や先生などに報告されれば、逮捕されるからです。
そのため、子どもの様子がおかしいと思ったときほど、優しい口調で話を聞いてあげてください。「〇〇ちゃん、先生と2人でダンスの練習したの?」「ほかのお友だちも、先生と2人で練習しているのかな?」などと聞いて、まずは状況を確認しましょう。不審な点があるときは、すぐに園長先生に相談してください。
子どもが親に報告していることがわかると、犯人は手を出しにくくなります。
取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
小宮先生によると、犯人は子どもに目星をつけると、陰で親のこともよく観察していると言います。そして犯行におよんでも、すぐに親が探しに来ないか判断するそうです。親も犯人から見られているという意識を持つことが大切です。