「なんでうちの子ばかり?」 2歳までに何度も手術を受け、ようやく安定した矢先に…、判明した息子の障がいと向き合う日々
神奈川県の匠馬くん(5歳)は、重度の※純型肺動脈閉鎖症(じゅんけいはいどうみゃくへいさしょう)という先天性心疾患に加え、成長とともに判明した疾患や障がいを抱えています。
前編では、2歳までに受けた手術や入院・治療のこと、ママの香織さんが医療的なケアが必要な子の為の前開き子供服ブランド『mae-a-key(マエ・ア・キ-)』を立ち上げた経緯などについてお伝えしました。
後編は、その後の匠馬くんの様子や、『mae-a-key』に込める香織さんの想いなどを聞きます。
※https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/ppc/pediatric_cardiovascular/tr18_pa-ivs/
~特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探していきます。
「3歳過ぎてもほかの子と何か違う…」わが子の発育発達への違和感は消えず
「息子は2歳ごろまで治療中心の生活を送っていたし、小さめに生まれたから、発育や発達がゆっくりめなんだろうなと思っていました」とママの香織さん。
「心臓病の治療が落ち着いて3歳ごろになれば、きっと体は大きくなるだろう、発語も増えるだろう、人とのかかわりにも慣れるだろう、感覚過敏も落ち着いてくるだろうと思っていたんです。
でも、“3歳過ぎても何か違う…”という違和感が消えなくて。気になって発達検査を受けたら、ほかの子と比べて発達速度が半分程度と言われたんです」(香織さん)
匠馬くんが3歳で受けた検査はK式発達検査。結果は1歳9ヶ月程度の発達具合だったと言います。
「2歳で歩けるようになり、3歳で小走りができるようになりました。
知っている言葉は増えても、発語がはっきりしなくて…。たとえば、ドキンちゃんみたいな“ちゃん”がつくものはすべて“ちゃん”と言っていましたね。
同年代の子や赤ちゃんが苦手で、急接近されると泣きそうになるんです。
いちばん心配だったのは、聴覚と触覚が過敏なことでした。大きな声や物音を怖がるんです。人混みなどに行くと耳を押さえることもありました」(香織さん)
『軽度知的障がい』と『自閉スペクトラム症』の診断を受け、落胆した日も
匠馬くんは3歳9ヶ月で『軽度知的障がい』、5歳5ヶ月で『自閉スペクトラム症』の診断を受けます。
「息子と同じように、心臓病の治療をしていても、普通に幼稚園や小学校に通うお子さんもたくさんいるんです。
息子の特性とはいえ、心臓病の治療以外に、さらに障がいとも向き合っていくんだなぁと、気が滅入ったこともありました。“なんでうちだけ?”って。
でも、幼稚園や療育施設のサポートを受けて、徐々に気持ちを立て直すことができました」
新型コロナウィルス感染予防のため、3歳9ヶ月ごろから幼稚園に通園し始めた匠馬くん。でも、新しい環境に慣れず、泣いてばかりの日々が続いたと言います。
「年少のころは、療育施設に通わなくても、幼稚園だけで大丈夫かなと思ってたんです。通っているうちに園の雰囲気に慣れてくるだろうと。
でも、私がそばにいても息子は登園のたびにギャン泣き。幼稚園に行くと興奮してしまうみたいで、夜の寝かしつけにかかる時間が長くなったんです。
まだおむつが取れていないのに“トイレ行く、トイレ行く”などと、過剰に緊張感を持つようにもなってしまって…。
それでも頑張って、週3回のペースで約1ヶ月間通ったんです。そうしたら母子ともに体調を崩してしまって…。落ち着くまでしばらくお休みしました」(香織さん)
幼稚園は一定期間お休みした匠馬くんですが、発達具合を見てサポートしてくれる集まりには月1回参加していたそうです。
「療育施設の通園が必要かどうか、息子の様子を見てもらっていました。療育施設に通園の相談に行ったのは、年少の秋ごろでしたね」
体が小さめの気がかりは『SGA低身長症』と診断
匠馬くんには発育に関する気がかりもあります。
4歳6ヶ月で身長83㎝・体重9.1kgと小柄で、医師からは1歳6ヶ月の平均的な体格に該当すると告げられたそうです。
「息子は私のおなかにいるときから小さめでした。とはいえ、胎児のときに小さめでも、3歳を過ぎるころにはほかの子に追いつくと言われているんです。
心臓病を抱えている子は、体が小さめの傾向はあるんですが、3回目の手術後は発育もよくなると聞いていました。
それなのに、息子は3歳くらいになっても変化が見られなくて…。ずっと気がかりだったので、4歳6ヶ月ごろに内分泌科を受診しました。心臓病の経過観察との兼ね合いで、5歳からホルモン治療を受けています」
ホルモン治療はどのように進めるのか、香織さんに聞くと、
「自宅でおしりに注射するんです。週6回、就寝30分くらい前に保冷剤でおしりを冷やして私が打つ感じです。
大変そうに思うかもしれませんが、意外と本人はケロッとしているんです。
むしろ、歯磨きのほうが嫌がって大変です(笑)」(香織さん)
前開き服の考案から約2年。あせらず準備を進め、いよいよ商品化へ!
匠馬くんのケアやサポートを優先しながら、医療ケア児向けの立ち上げ準備を進めてきた香織さん。
「息子の3度目の手術が終わってひと段落したころ、パタンナーさんの発案がきっかけで『mae-a-key(マエ・ア・キー)』と決まったんです。
前開きの服が病気治療中のお子さんやママやパパの笑顔の扉を開ける、鍵(key)になって欲しいという願いが込められています」(香織さん)
その後、試作品も出来上がって最終調整に入りますが、難航したこともあったと言います。
「もともと服好きではあったんですが、パターンのこととか縫製のこととか、専門的な知識がたりていなかったんです。
縫製工場などとのやりとりで、私の勘違いが原因でご迷惑をかけたこともありました」
点滴や酸素チューブをつけていても脱ぎ着がラク!
「2020年7月にネットショップを開設して、第一弾となる前開きのカットソーやパンツなどを展開しました。より使いやすくて便利な仕様に改良して、現在は第二弾を出しています」と香織さん。
「カットソーは、肩や前だけでなく腕回りも開くので、点滴や酸素チューブをつけていてもラクに着替えさせられるんです。診察やレントゲン検査のときの脱ぎ着もスムーズにできるのが特徴です。
とくに第二弾で出した3Wayで着られるカットソーは、ボタン付きの身ごろを前にすればヘンリーネック風の前開きトップスに、後ろにすればかぶり風のトップスに、前ボタンを開ければカーディガンにもなるので使いやすいかなと思います。もちろん、袖も全開しますよ」
急いで着替えさせても留め外しがしやすい色違いのスナップボタン、前身ごろや袖の開閉部分は肌当たりのいい柔らかな面ファスナーを採用するなど、細部にママのやさしさを感じる仕様。お出かけ着としても使える、おしゃれで合わせやすいデザインも魅力です。
「『mae-a-key』の服を着ることで、気持ちが落ち込みやすい看病中のママやパパに少しでも笑顔になってもらえたらうれしいです」と香織さんは話します。
もっといいもの、新しいものをつくっていきたい
「“かわいい服を子どもに着せたら元気が出ました”などとメッセージをいただくと、服作りしてよかったなと実感します」と香織さん。
これから挑戦したいことを尋ねると、
「新しいものを作りたいなと思います。たとえば、今扱っているパンツは小さいサイズしかないので、今後はサイズ幅を増やしていきたいです。使った方のご意見を参考にして、より使いやすく喜ばれるものを作っていけたらなと思います。
育児や家事に協力的な夫に感謝しつつ、自分のペースで頑張っていきたいです」
年長になってうれしい変化が! 「幼稚園でお弁当が食べられるように」
現在、年長さんになった匠馬くん。幼稚園は週3回、療育施設には週2回のペースで通っています。
「幼稚園の園長先生のご配慮で、息子に担当の先生をつけてくださったんです。息子のペースで安心して過ごせるようになりました」と香織さん。
幼稚園通園を再開したころの匠馬くんは、不安そうな様子だったと言いますが、最近はだいぶ園生活に慣れてきたようです。
「息子は、1度嫌な思いするとどんどん嫌になる特性があるので、通園再開の初日は私と一緒に教室に入り、2日目は窓を隔てて私は教室の外にいて様子を見ていました。
そんな感じで1週間通ったら、私とバイバイできるようになったんです。
担当の先生がいてくださると安心して過ごせるみたいです。
休日明けは少し戻りますが、最近は幼稚園でお弁当が食べられるようになりました」(香織さん)
一方、療育施設で過ごす時間は、香織さんにも学びがあると言います。
「息子の特性などを把握してくれた上で支援してもらえるのがありがたいです。人数も少なく、私も息子とのかかわり方などが学べるので助かっています。
みんなで一緒に遊んだりすることもあるんですが、子ども一人一人の特性に合わせて、どうしたらその子が安心して過ごせるか、自分でやることをしっかりできるようになるかなどを、先生も親も一緒に考えながら進めていくんです」(香織さん)
お友だちの話しをしてくれたり、前より食欲が出てきてうれしい
最近の匠馬くんには、ほかにも微笑ましい成長の様子があるそうです。
「息子だけが知っていることを、私にポツッポツッと話してくれるようになりました。
たとえば、私が知らない幼稚園のお友だちの名前を言ったり、“●●ちゃん、いるかなぁ”などと私に話しかけてきたり。
そういう息子の様子を見ると、私がいないところで楽しく過ごせているんだなあとうれしくなります。いろいろ大変だけど、育児してきてよかったなと。
あと、ホルモン治療を始めてから前よりも食欲が出てきた気がします。
息子が食べられるもの限定ではあるんですけどね。ずっと小食で悩んできたので、食べる量が増えてきてよかったなと思います」
取材・文/茶畑美治子
「3度目の大きな手術から約4年。経過は安定しているとはいえ、息子の心臓病のことは常に気がかりです。でも、今はそれ以上に、物事の捉え方がほかの子と違う息子へのサポートのほうが苦労しているかもしれません」と香織さん。
匠馬くんが抱える疾患や障がいとしっかり向き合いながら、ポジティブな姿勢で『mae-a-key』の運営もこなす香織さん。そんな香織さんの想いがつまった前開き服が、一枚でも多く、必要なお子さんの元に届くといいなと思いました。