車に子どもを置き忘れ、熱中症で死亡事故。”うっかり”はどの親でも起こりえる…対策は？【小児科医】

アジア2-3年幼児男の子は、現代の車の座席で眠っています。道路上の安全を旅行する子供 — ※写真はイメージです

子どもを車に置き忘れてしまい、熱中症になるという事故が後を絶ちません。時には重度の熱中症になり死亡するケースもあります。こうした痛ましい事故を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。子どもの事故に詳しい、小児科医　山中龍宏先生に事故を防ぐ方法などを教えてもらいました。

考えごとをしていたりすると、だれでも車に子どもを置き忘れる危険性が

2022年5月、1歳5カ月の男の子が車の中に3時間以上取り残され、熱中症の疑いで死亡する痛ましい事故が起きました。親は子どもを保育園に送るため車に乗せたものの、子どもを車に乗せていることを忘れて職場へ。親が気づいたのは、昼食を買いに行くために車に乗ったときでした。

――こうした事故は、だれでも起こす可能性があるのでしょうか。

山中先生（以下敬称略）　報道を見たとき「そんなことってあるの？　信じられない」と思ったママやパパもいると思いますが、考えごとをしていたりすると、だれでも起こす危険性がある事故です。
2020年6月も同様の事故が起きていて、約7時間、車の中に取り残された2歳の女の子が熱中症の疑いで死亡しています。
2021年7月には、保育園の送迎バスで子どもの降ろし忘れがあり、5歳の男の子が熱中症で亡くなってしまいました。この事故を記憶している人は多いのではないでしょうか。

――こうした事故は、海外でも起きているのでしょうか。

山中　子どもを車内に置き忘れる事故は、日本だけでなく海外でも起きています。
アメリカに本部があり、子どもの事故の調査や対策などに取り組むSafe Kids Worldwideでは、リーフレットを出し“ＡＣＴ”という標語で、
●数分であっても車の中に子どもを置き去りにしないこと
●車に子どもを乗せていることをぬいぐるみやママ・パパのバッグなどを利用して忘れないようにすること
●置き去りを見つけたらすぐ救急車と警察に連絡をすること
を周知しようしています。

ACTの詳細は、次の通りです。
Ａ（Avoid　Heatstroke／熱中症を予防するために）
熱中症による傷害や死亡を防ぐため、数分であっても子どもを車の中に残さないようにします。
また保護者が車外にいるときは、子どもが勝手に乗り込んでしまわないよう、車はロックしておきましょう。

Ｃ（Create　Reminders／置き去り予防のためのヒント）
子どもがチャイルドシートから降りたら、そこに子どものお気に入りのぬいぐるみを置いてお留守番をしてもらいましょう。子どもがチャイルドシートに座ったら、ぬいぐるみは助手席に置いてもいいですね。また、あなたの大切なもの、たとえばスマートフォンやお財布、バッグなどを後部座席に置いておくと、車から降りるときに子どもに気づくはずです。

Ｔ（Take　Action／車内置き去りを見かけたら）
もし車の中に子どもだけでいるのを見かけたら、それは一刻を争う事態。迷わず救急車と警察を呼んでください。救急隊員は、このような状況に対応するための訓練を重ねています。

“ACT”で子どもの車内置き忘れを防ぐリーフレット

Safe Kids Worldwideが制作したリーフレットの日本語版。山中龍宏先生が理事長を務める、NPO法人Safe Kids　Japanの公式サイトでも紹介されています。

すぐにできる事故対策は、チャイルドシートの隣に貴重品を置くこと

車内に子どもを置き忘れないようにするには、車の装備だけでなく、ちょっとした工夫が必要と山中先生は言います。

――子どもを車内に置き忘れないためには、どうしたらいいのでしょうか。

山中　2019年11月　イタリアでは、子どもが車内に取り残されていると発動する通報システムを、すべての車に搭載することを義務づける法律ができました。
日本では、そうした法律はありませんが、技術面は開発されてきています。
トヨタの一部の車種には、「リヤシートリマインダー」といって後部座席に忘れ物があると運転席のディスプレーに通知メッセージが表示される機能があります。
また三洋貿易では、子どもの車内置き忘れを探知するセンサーを納入予定という報道もあります。まずはスクールバスに後付けできるタイプから納入を始め、乗用車向けの探知センサーは2025年納入予定です。

すぐにできる事故対策としては、子どもが座っているチャイルドシートの隣にスマホや貴重品が入っているバッグなどを置くことです。車を降りたときに手元にないと、すぐに気づくものを置いておくことが有効です。

夏、エアコンを切った車内では15分で熱中症指数は危険レベルに

車はエアコンを切ると、車内の温度が急上昇し、猛暑日だと50℃以上になることもあります。

――万一、子どもが車内に取り残されると何分ぐらいで熱中症になってしまうのでしょうか。

山中　JAFが2012年8月に行ったテストでは、車内の温度は急上昇し、わずか15分後には熱中症指数が危険レベルに達することがわかりました。
気温にもよりますが、乳幼児ならエアコンを止めて10分後には意識障害やけいれんなどの症状が現れる場合もあるでしょう。

車内の熱中症危険度測定

JAFでは、コンビニやスーパーなどの駐車場に車を止めて、子どもを車内に残した状況を想定して、熱中症の危険度を測定。左下のWBGT（熱中症指数）とは人体の熱収支に影響の大きい気温、湿度、輻射熱の3つを取り入れた指標で、乾球温度、湿球温度、黒球温度の値を使って計算したもの。暑さ指数とも言います。

――また車内に子どもを置き忘れるだけでなく、子どもを車内に残したまま、誤ってキー閉じこみをすることもあるのでしょうか。

山中　報道されるのは、車内に子どもを置き忘れて熱中症で亡くなるような大きな事故です。しかし、子どもを車内に残したままのキー閉じこみの事故は多発しています。
JAFの調べでは、2019年8月1日～31日の1カ月間で出動した「キー閉じこみ」の救助のうち、子どもが車内に残されたままのケースは全国で115件でした。なかには「車内の子どもに車のキーを持たせたまま、親が車外に出たところロックボタンを押された」という人もいました。
一歩間違えれば、命にかかわる事故につながるので、キー閉じこみの危険性がある車は注意が必要です。

お話・監修・資料提供／山中龍宏先生

協力／JAF（一般社団法人日本自動車連盟）　取材・文／麻生珠恵、ひよこクラブ編集部

車内への子どもの置き忘れ事故は、最近では毎年、発生しています。山中先生は「考えごとをしていたりして、うっかりすることはだれでもあることです。ひとごととは思わずに、今日から対策をとってください」と言います。

※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。