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「これは神様からの宿題」出産後に左手足がまひ、自力で歩けない生活に。障害を負ったから感じていることを次につなげたい【体験談】

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写真は、稟ちゃんが2歳のときの家族写真。

第1子の稟(りん)ちゃんを出産後、数日で大静脈血栓症と脳内出血を併発し、左手足にまひが残った布施田祥子さん。(以下祥子さん)。手足の麻痺から4年後には、持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、大腸全摘し人工肛門に。一時は、人生に絶望を感じていたという祥子さんでしたが、家族の支えで第二の人生を歩み始めます。

稟ちゃんが3歳のころから、潰瘍性大腸炎が徐々に悪化。大腸全摘へ

稟ちゃんが3歳のときの七五三の身支度をする祥子さん。体調は悪かったのですが、着付け師の実母に手伝ってもらいながらしたくを。

祥子さんは、2011年8月に第1子となる稟ちゃんを予定帝王切開で出産しましたが、出産から8日目、産後の入院中に突然、足がもつれるなどの異変が。大静脈血栓症と脳内出血を併発し、一時は集中治療室に入院。左手足にまひが残りました。
それから3年ほどたったころ、長年患っていた潰瘍性大腸炎が悪化し始めます。潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる、慢性的な炎症性の疾患です。主な症状は腹痛、下痢、血便などで難病に指定されています。

「私は19歳のころから潰瘍性大腸炎を患っていて、激しい腹痛などに襲われて何回も入院しています。
産後すぐ、入院中に大静脈血栓症と脳内出血を併発し、12日間集中治療室にいて、その後、脳外科に2カ月入院。脳外科を退院したあとは、リハビリができる病院に転院し、5カ月間入院しました。退院して自宅で、稟とゆっくり過ごせたのは稟が生後7カ月になってからです。

夫婦で稟を育てる毎日で、つかまり立ちをしたり、歩き始めたり、「ママ」と呼んでくれたりする、稟の成長がうれしくてしかたありませんでした。
でも稟が3歳になったころから、私の潰瘍性大腸炎が徐々に悪化し始めます。私は“もう家族と離れて入院したくない! 稟の成長をそばで見守りたい!”という一心で、薬と食事療法で、どうにか改善させようと頑張っていました。
しかし痛みは増していきます。24時間、昼夜問わず20~30分おきにトイレに駆け込むような日々が続き、眠れず、体重も激減。1年半で12kg減り、寝たきりのような生活で、気持ち的にもふさぎ込んでうつのような状態でした。
病院に入院し検査をした結果“大腸がほぼ機能しておらず、いつがんになってもおかしくない状態です。このままだと命も危ないから、すぐ全摘したほうがいい”と告げられました」(祥子さん)

私が抱える困難は、自分自身が成長するために、神様が与えた宿題

医師からは「人工肛門が必要となる」とも言われました。病院のベッドで祥子さんは「なぜ私ばかり」と考え、先が見えない不安に押しつぶされそうになったと言います。しかし実母からの言葉で、気持ちが少しずつ前向きに。

「母から“つらいのは自分だけじゃないよ。物事は変えられないけど、とらえ方次第で気持ちは変わるし、気持ちが変われば、その先の未来も変わってくるから・・・”“稟ちゃんとも一緒に過ごせるようになるから”と励まされて手術を決意しました。母の前向きな言葉には、これまで何度も救われています。
時間の経過とともに私が抱える困難は、自分自身が成長するために、神様が与えた宿題のようなものでないかと考えるようになりました」(祥子さん)

「機能性ばかりが重視されて、はきたい靴がない」という自身の思いをかたちに

祥子さんがプロデュースするスタイリッシュな靴。写真は第1弾モデル。

祥子さんは、神様からの宿題を事業を起こしてかたちにしていきます。祥子さんは、学生時代からおしゃれが大好きで、結婚する前からファッションにかかわる仕事をしていて、とくに靴が大好き! 一時は100足近く持っていたこともあります。

「産後の大静脈血栓症と脳内出血の併発で、左足にまひが残り、私も下肢装具を着けないと歩けなくなっていました。しかし下肢装具を着けてもはける靴って、機能性重視のデザインばかりで“はきたい!”と思える靴がなかったんです。だったら私が作ろう!と思って、2017年に起業しました。
2019年に株式会社LUYL(ライル)を設立し、車椅子を利用していたり、下肢装具を着けていてもおしゃれにはける靴などを扱うセレクトショップ“Mana'olana”(マナオラナ)を立ち上げました。

Mana'olanaの意味は、ハワイ語で“自信・希望”です。下肢装具を着けていたりすると、外出するのを躊躇(ちゅうちょ)するようになる人もいます。でも好きな靴をはくと気持ちが明るくなるし、好きな場所にも出かけたくなる! 1足の靴との出会いが、外に出かけるきっかけなればと思いました」(祥子さん)

Mana'olanaの靴を見て、うれしくて泣き出す人も

メーカーとデザインの打ち合わせをしているところ。「協力してくれるメーカーさんに出合えなければ、今の私はありません」と祥子さん。

Mana'olanaの靴は、セミオーダーで、試着やカウンセリングが必要です。カウンセリングやデザインなどはすべて祥子さんが担当しています。

「私は、デザイン性にこだわりたいので、最初は健常者用のおしゃれな靴を作っているメーカーさんに協力を依頼したのですが“障害者用の靴は作ったことがない”と言われ、すべて断られました。

そんな中、1社だけ受けてくれたところがありました。家族経営をされている会社でお母さまが“うちにも昔、下肢装具を着けていた子がいたから、一緒にやってみたら?”と言ってくれたことがきっかけとなり、念願の靴づくりが始まりました。
一つ一つ積み重ねていった実績が評価されて、現在は4社の靴メーカーさんに協力をいただいています」(祥子さん)

おしゃれなデザインで、街に出かけたくなる靴を!

Mana'olanaの靴は、試着会やオンラインのカウンセリングで、購入希望者の声を聞きながら作ります。
「市販されているおしゃれ靴と変わらないデザインを見て“こういう靴がはきたかったの!”と泣き出したり、“私は、この先徐々に歩けなくなるけれど、その前に、どうしてもこの靴がはきたい!”と言われたこともあります。

私も、これまで靴にたくさん幸せや元気をもらってきましたが、靴がもつ力は偉大です」(祥子さん)

障害を負ったからわかったこと・感じていることを、次につなげる!

ハンディキャップがある人が「カッコイイ」「カワイイ」と憧れられるような未来をめざす、超福祉展などにも積極的に参加。写真は、超福祉展で稟ちゃんが車椅子を体験しているところ。

祥子さんには、セレクトショップ“Mana'olana”のオーナー以外にも、起業家としての一面があります。
「私は、もともと起業家を目指していた訳ではなく、素人のようなものです。事業計画書の作り方などセミナーに通い、講師の先生に教わってやっと理解したという感じです」という祥子さんですが数々のビジネスプランが評価されています。
個性あふれる女性起業家を表彰する「J300 in TOKYO 2017」(内閣府共催)で特別賞を。また「地域未来投資コンテスト」(公益社団法人日本青年会議所事業創造会議主催)でグランプリの内閣総理大臣賞を受賞するなど、輝かしい結果を残しています。

「アイデアの土台となっているのは、すべて私が障害を負ってからの経験です。日本は健常者と障害者を分けて考えることが多いのですが、私はそれを変えていきたいと思って!障害を負うということは、すべての人に可能性があることです。障害というマイナスなイメージを、あらゆるカタチでプラスに転じていけたらと考えています。
また私は、デザインすることがやっぱり好きなので、インクルーシブデザインの可能性も広げていきたいですね」(祥子さん)

お話・写真提供/布施田祥子さん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部

祥子さんが代表を務める、株式会社LUYLは“Lights Up Your Life”の頭文字をとったものです。「障害の有無に関係なく、誰もが自分らしく輝ける生き方を自ら選択し、人生を光り輝かせていく。そして、その光がまた誰かの道しるべになるように」――そうした願いが込められているそうです。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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