ワンオペ家事・育児が原因で2年間の険悪モード…離婚危機に『名もなき家事妖怪』の著者・カワグチマサミさんにインタビュー
10歳の男の子の母であるイラストレーター・カワグチマサミさんの書籍『名もなき家事妖怪』が発売されました。気付きにくいがその数は無限にある“名もなき家事”が妖怪になり、ある家族が倒していくストーリーなのですが、カワグチさん自身の壮絶な体験がもとになっているそうです。
カワグチさんに書籍を描いたきっかけや、家事シェアが原因で離婚危機になった話、家事シェアをするコツなどを教えてもらいました!
ワンオペ育児&大黒柱を経験。家事・仕事『どっちも大変で、どっちも必要』
――カワグチさんの実体験がベースになっているという『名もなき家事妖怪』。本にした理由は何ですか?
カワグチマサミ「『家事シェアができなくて、すれ違っている夫婦って、実は多いんじゃない!?』と思ったからです。
家事には名前がなかったり目に見えないものもたくさんあります。だから頑張って家事をしても、気づいてもらいにくい……。夫側も家事をしたいと思っても、何からしていいかわからない人もいると思います。
夫婦のことは他の人には言いにくいので、家事シェアで悩んでいる人は孤独になりやすく、向き合うために激しくぶつかってしまう……。わが家もボロボロになるまでぶつかりました。その体験から、『家族が優しく向き合えるような本を作りたい』と思いました」
名もなき家事が見える化!
<とある家族が“名もなき家事妖怪”を倒していくストーリー>
“洗濯物”にも目に見えない家事がたくさん
――カワグチさんが1人で家事をしなきゃいけないと思っていた大きな理由はなんでしたか?
カワグチマサミ「『夫より稼ぎが少ないから、家事・育児は1人でやらなきゃいけない』と、思い込んでいた時期がありました。お金は、家事や育児と違って、目に見えるもの。わかりやすい価値観です。当時は、自分の中で、『働く(お金)>家事』という価値観があったのだと思います。
確かに働くことは大変です。夫が会社を辞めたときがあったのですが、その時、一時的に大黒柱になったことがありました。家族を養うというプレッシャーを重く感じました。
ワンオペ家事と大黒柱、どちらも経験して気づいたことは、家事と仕事の大変さは違うということ。家事は終わりがない。報酬もない。育児はこどもの将来や命がかかわることもあります。『家事も仕事も、どちらも大変!どちらも必要!』それに気づいてからは、自分や夫を責めることをやめました」
名もなき家事がどっさり……
<疲れでイライラがピークに>
感情が溢れ出して止まらない!
<互いにイライラが溜まってぶつかり合ってしまう>
家事・育児に仕事が加わりキャパオーバー…2年間の険悪ムード
――カワグチさん自身、名もなき家事のせいで離婚危機になったことがあるそうですが、そのときの話を聞かせてください。
カワグチマサミ「私自身『家事・育児は働くより楽だろな〜』と大きな勘違いをしていたのですが、いざ育児が始まると、授乳をしたり夜泣きをしたり、ぐっすり寝れない……。子どもは寝返りをうったり、ハイハイをしたり、目が離せない……。ゴミを食べないように掃除をしたり、離乳食を作ったり、家事もサボれない……。産後の家事・育児って『めちゃくちゃ大変やん!!』となりました。
さらに、産後半年後に仕事復帰をしたため、家事・育児を1人でこなしていたところに仕事が加わりました。私はキャパオーバーでパニックになっているのに、夫も忙しく働いていて気づいてくれない、話し合う時間もない、寝ていないから頭も回らない……ただただ、イライラが募る日々でした。
そのイライラは夫にも広がって、ある日ドッカーーーン!!とぶつかりました。お互いイライラしているので、話し合うほど険悪なムードになるという時期が2年ほどありました。今思い返しても胸が苦しくなります。結局、私が疲労で倒れてしまったんですが、そのおかげで周りの人が助けてくれて、しっかり寝れて、夫とようやく冷静に話し合うことができました。
そのとき夫が言った言葉は今でも忘れません。『仕事が大変そうやから、俺がもっと働いて、休ませてあげたいと思ってた』と。私は『そうじゃない!!!私は働きたくて働いてたの!!働くよりも家事してほしいんですけど!?』って、そのとき初めて言葉で素直な気持ちを伝えたんです。
互いに相手への思いやりをもっていたのに、見事にすれ違っていました。もし話し合う機会がなかったらと思うとゾッとします……」
押し込めていた気持ち
<我慢していた方がマシだと思っていたけれど……>
無理が続いて気持ちが爆発!
――カワグチさんがもっとも嫌いな家事妖怪とその理由は?
カワグチマサミ「たくさんありすぎて、迷いますね……。うーーーん。トイレ掃除も、お風呂掃除も、憎いけど、やっぱり鍋のこびりついた汚れを洗うのが一番大嫌いです!その名も、名もなき家事妖怪「ナベドロリ」!カレーを食べるのは大好きなのに、そのあとの、ドロドロこびりついた鍋を洗うのは、超めんどくさい!少しでも楽をして洗えるように、うちは鍋に重曹を入れて沸かしてから、流して洗っています」
家事シェアがうまくいく呪文は「ありがとう」
――今家事シェアで悩んでる方に伝えたいことはありますか?
カワグチマサミ「①まず寝て……家事は後回しでいいから、とにかく寝てください。こどもが小さいなら一緒に昼寝したり。冷静に考えたり話し合ったりするためにも睡眠は大事です。
②子どもを預けることに罪悪感を持たないで……「子どもを託児所に預けたらかわいそう」なんてこと思わないでください。1番悲しいのは、お母さんがイライラして家族にも影響を与えてしまうこと。少しの間でも施設や親戚に頼って、自分の時間を満たしてほしい。そしたら自然とイライラすることも減ります。
③夫と2人の時間を大切にして……家事シェアで大切なことはコミュニケーション。コミュニケーションをするためにはパートナーシップが大事。子どもが寝た後に、一緒に動画を見たり、子どもが習い事のときにおでかけしたりしてみてください。
④素直になって……意地を張っても損しかないです!素直に気持ちを伝えることは怖いかもしれないけれど、意地を張って取り返しがつかない関係になる方が辛いと思います。素直に話したら相手も素直になりやすいです。
⑤テキトーになって……真面目な人ほど、つい家事を頑張ってしまうかもしれません。家事は家族や自分が快適に過ごすためのものなのに、無理するまで家事をしてイライラしていたら元も子もありません。ほどよくテキトーに力を抜いた方がうまく付き合えます」
――現在、夫との“家事シェア”でカワグチさんが気をつけていることは?
カワグチマサミ「頑張ってくれたことに、感謝の気持ちを伝えること。
夫は、結婚当初は料理がまったくできませんでした。私の体調が悪いときに初めて料理をしてくれたけど、お世辞でもおいしいとは言えない出来でした。でもそこで『まずい!』と言って、私が作り直したら夫はきっと2度と料理をしなかったと思います。『慣れないことなのに頑張ってくれてありがとう』と伝えました。そうやって感謝し続けていたら夫の腕はどんどん上達して、今では家事全般が私より上手くなりました。『ありがとう』は家事シェアがうまくいく呪文ですね」
パパが作った料理
<子どもは「まずい」とズバッと言ってしまう>
ママも食べてみると……
<美味しくなくてもまずいはNG!>
「もっとズボラになって」家事シェアが家族の自立を促す
――子どもに手伝ってもらっている“名もなき家事”はありますか?
カワグチマサミ「息子は10歳ですが、最近は積極的に家事をしてくれますね。例えば、宅配ボックスを取りに行く、ダンボールを解体する、料理を手伝う、スーパーで買ってきた中身を冷蔵庫に入れる、洗濯機から洗濯物を取り出す、など。
簡単なものからお願いして、成功したらめちゃくちゃ感謝をします。すると、自己肯定感が満たされるのか、自然と家事をしてくれるようになりました。あと、『名もなき家事妖怪』を2人で読んで、家事に興味を持ってくれたのもあります。ぜひ親子で読んでほしいです」
子どもたちも名もなき家事を撃退!
――最後にたまひよの読者のみなさんとこれから出産・育児を経験するパパ・ママたちにひと言お願いします。
カワグチマサミ「お母さんは、子どものために、家族のために、ついだれかのために頑張りすぎて、自分のことは後回しにしてしまいがち。それは優しさでもあるけど、やりすぎると自己犠牲になってしまいます。子どもは、お母さんが大好きです。お母さんが幸せでいてくれることが、子どもにとっても、家族にとっても幸せです。だから、ときにはズボラになってください。少し手を抜いたり、お願いしたりするくらいの方が、家族も自立してくれます。自分のためにも家族のためにも、ズボラになってくださいね」
家事・育児のイライラが募り、夫婦で長い間すれ違ってしまったというつらい経験を話してくれました。お互いにイライラしていて余裕がなくなると話し合いもうまくいかないし、歯車が噛み合わなくなって悪循環になってしまうこともありますよね。家事シェアをする前にまずは自分の心のケアから。落ち着いた気持ちで家族に素直な気持ちを打ち明けることからスタートするのがいいかもしれません。家族の気持ちをひとつにして“名もなき家事妖怪”を撃退できますように!(文・清川優美)
『名もなき家事妖怪』
プロフィール /カワグチマサミ
2010年から漫画家・イラストレーターとして活動。その後、結婚し、2012年に男の子を出産。現在は育児をしながら、エッセイ漫画を描いている。Twitter(@kawaguchi_game)
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。