3歳で睡眠時無呼吸症候群と診断され、手術をすることになった娘。「病気のことを少しでもわかりやすく伝えたい!」自ら絵本を作った母【体験談】
生後まもないころから睡眠時に大きないびきをかいていたというこころちゃん(仮名・4歳)。受診すると睡眠時無呼吸症候群と診断され、2023年7月に扁桃腺などの切除手術を受けました。イラストレーターでもあるママのABEKAさん(35歳)は、こころちゃんに病気や手術のことを説明するために絵本を制作したのだそうです。こころちゃんの手術後、退院の数日前に、ABEKAさんに子どもへのプレパレーションの大切さについて話を聞きました。
病気の子どもの心をサポートするプレパレーションとは
睡眠時無呼吸症候群の治療のため入院・手術をすることが決まったこころちゃん。手術前にこころちゃんが自分の治療の内容を理解するために、どんな伝え方をすればいいだろう、と悩んだABEKAさんは、病気や手術のことを伝えるための絵本を作ることにしました。
「絵本を作ると決めて、その制作のために、入院や手術、病院をテーマに描いているた絵本などを調べていたら、『プレパレーション』という考え方に出会いました。プレパレーションとは、子どもが病気の治療のための検査や処置、手術などを受ける前に、子どもの年齢や発達段階に合わせた方法でわかりやすく説明し、子どもの心の準備をサポートすることだそうです。子どもも、自分の身に行われる医療について納得できる説明を受ける権利がある、という考えです。
治療や手術でどんなことをするのかを、子どもに正しく伝えることは、子どもの基本的人権を尊重することにもつながる、と初めて知りました。
今回の手術が決まったとき、娘に何をどこまで伝えるべきなのか、実は少し迷ったんです。麻酔や手術のことを話したらこわがってしまうんじゃないか、伝えないほうがいいという選択肢もあるのかな・・・と。でも、自分が何をされるかわからないままに手術を受けたら、麻酔から覚めたときに裏切られた気持ちというか、つらい気持ちになるだろうと想像すると、やっぱり子どもに事実を伝えるのは必要なことだと考えました。そこで、絵本を描くことでしっかり伝えてあげたいと思いました」(ABEKAさん)
絵本を読んで、「手術する!」とわくわくしていた娘
ABEKAさんはこころちゃんを主人公に、病気のことや病室の様子、手術・治療のこと、元気になるまでのことを物語にして絵本にまとめました。
「実際の入院や手術やスタッフについてインターネットで調べたり、娘の診察のときに看護師さんにヒアリングしたりして間違った情報がないように制作を進め、完成までは約3カ月ほどかかりました。絵本のタイトルは『こころちゃんのにゅういん』。絵本ができあがって読み聞かせると、娘は自分が主人公の物語を特別なものと感じてくれたようです。家族やお友だちも登場するので、指をさして『これはばあば、これは〇〇ちゃん!』と楽しそうに読んでくれています。何度も読んだので内容も暗記するほどお気に入りです。
娘に面と向かって病気のことを話すよ、と言ってもあまり興味を持ってもらえないので、毎日この絵本の読み聞かせながら、『こころちゃんもこんなふうにするんだよ』と話しました。どこまで理解しているかはわかりませんが、娘は『手術頑張るね!』とわくわくしている様子でした」(ABEKAさん)
こころちゃんは2023年2月に大学病院の初診を受け6月に手術をする予定でしたが、保育園で流行していたヘルパンギーナや胃腸炎などの感染症に次々にかかってしまったため2回ほど延期となり、結局、7月末に手術が決定しました。
生まれて初めて両親と離れ離れで過ごす寂しさ
7月末に入院・手術が決まったこころちゃん。入院予定期間は10日間で、小児は完全看護だったため付き添い入院は不要でした。ただ、新型コロナ対策のために厳しい面会制限があり、親子が会える時間が限られてしまったそうです。
「娘が手術をした大学病院は、新型コロナ対策のために、面会時間は1日おき30分で両親のどちらか1名だけでした。病院全体でも面会できる人数が限定され、予約が埋まっていたら面会はできない、という状況でした。入院の日は私が娘を連れて行き、娘は入院直前まで楽しそうにしていましたが、実際に入院してみるとやっぱり寂しかったようです。後に看護師さんから、娘は寂しがって夜になってもなかなか寝られなかったと聞きました。
手術の日は両親どちらか1名のみ付き添えたので、仕事の都合で平日にはなかなか面会できない夫に付き添ってもらうことにしました。手術室に入る前には私もテレビ電話で娘と会話できたんですが、2日ぶりに娘に会えたうれしさで私のほうが涙してしまいました。娘が生まれてからこんなに長い時間離れ離れになったことがなかったから、私もとても寂しかったです。娘はそんな私にはお構いなしに、夫がつけていた入館証が気になったらしくその話ばかりしていましたが、やっぱりそわそわしている感じでした。
病院に付き添った夫の話では、手術時間になるとパパとバイバイするのが嫌で泣いて大騒ぎをしたそうです。手術は2時間ほどで無事に終わり、夫は手術後にすぐ娘を抱っこできたそうですが、娘は麻酔から覚めたばかりで混乱していたのか、ずっと泣いていたそうです」(ABEKAさん)
こころちゃんの入院から4日、手術から2日経過した日、ABEKAさんはやっとこころちゃんと面会することができました。
「私は娘に会えることがうれしくてたまりませんでしたが、娘は会った瞬間から下を向いてしょんぼりして『おうちに帰りたい、もう治ったよ、入院おしまい!』と言って、胸が苦しくなりました。面会の30分間、抱っこして娘をなだめ続けていました。ただ、傷の痛みはあまりなかったようなので、それは安心しました。
先生からは、退院後1週間は自宅安静にして、診察を受けてからは普段どおりの生活に戻っていいと言われています。ただ、のどにかさぶたができている状態なので、しばらくはやわらかい食事にする必要があるようです」(ABEKAさん)
シンプルに優しく事実を伝えることが大切
こころちゃんが入院・手術することが決まったとき、保育園で仲よしのお友だちのママから「子どもにこころちゃんの病気のことをどう説明したらいいかな」と相談されたことをきっかけに、ABEKAさんはお友だちと保育園に絵本をプレゼントしました。
「保育園で子どもたちに読み聞かせをしてもらったら、お友だちは娘のことをすごく応援してくれたそうです。看護師をしているママからは、『入院が必要な子どもたちとそのファミリーに読んでほしい!』とうれしい言葉をもらいました」(ABEKAさん)
子どもへのプレパレーションの大切さについて、ABEKAさんは「知ることは大事だけれど、知り方を間違えないことがとても重要だと思う」と言います。
「病気や治療の事実を伝えることが大切だとしても、子どもがこわがるような伝え方は極力避けて、シンプルに優しく伝える必要があると思います。事実とともに、周囲に味方がたくさんいることを伝えることで、子どもが必要以上に恐怖におびえずに未来を予測する力を身につけられるといいなと思います。また、子どもにわかりやすく伝えることで、子どもだけでなく大人も心の準備ができる面もあると思います。
わが家では夫がいちばんそわそわしていました。その夫が、絵本を読んで安心できたと言っていました(笑)。子どもは親の様子をよく見ていますから、親が不安そうだときっと不安になってしまいますよね。親も子も、病気や治療について正しく理解して、少しでも不安がない状態で医療を受けられるといいと思います」(ABEKAさん)
お話・イラスト/ABEKAさん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
手術後の入院期間を経て、こころちゃんは無事に退院。退院後しばらくは手術をしたところが痛んで食事中などに痛いと泣いてしまうこともあったのだとか。でも、睡眠時のいびきはまったくしなくなったそうです。「ぐっすり眠ってすくすく成長してほしいです」とABEKAさんは話してくれました。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年8月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
ABEKAさん(あべか)
PROFILE
イラストレーター。1988年宮城県生まれ。東京在住、1児の母。子ども、ファミリーに向けたイラスト制作・マンガ制作・キャラクター制作を行う。