【0~5歳】アドラー流子育てで子どもを「しからない」「比べない」
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親が子どもをほめたりしかったりするのは当たり前――。これまでの常識ではそう思われてきましたが、オーストリア出身の心理学者、アルフレッド・アドラー(1870~1937)を創始者とする「アドラー心理学」をベースに開発された「アドラー流子育て」は、ほめることもしかることも、比べることも怒ることもしなくていいのだとか。アドラー心理学は近年、ビジネスパーソンの間でもブームとなっていますが、育児にはどんな効果をもたらすのでしょうか。『幸せ親子になれる 0歳からのアドラー流怒らない子育て』(秀和システム)の著者、三宅美絵子さんにお話を聞きました。
「アドラー流子育て」の神髄とは?
――今のママ・パパ世代は、しかられながら育った人が多いと思います。そして最近は、「ほめて伸ばそう」という子育ても注目されています。だから親の育児方針は、しかるかほめるか、大きく2択だと思っていたのですが、「アドラー流子育て」は、ほめることもしかることもしないそうですね。そんな子育て方法があるとはにわかに信じがたいのですが、いったいどんなものなのでしょう?
三宅さん:アドラー流子育ては、子どもの好奇心の芽をつぶさず、子どもが自分の能力を信じて行動できるようになるための子育て方法です。親のかかわり方のポイントは、操作や支配をしないということ。「ほめる」と「しかる」は、いわばアメとムチで子どもの行動をコントロールしているようなものです。子どもに「ほめられるからやろう」「しかられるからやめよう」と発想させるのではなく、自分でやりたいと思ったことに対して、自信を持って行動できることを重視しています。
――それは、「放任主義」とはどう違うのですか?
三宅さん:放任主義だと、子どもが間違ったことをしたときに何もしませんよね。アドラー流子育ては、それとは違います。親が子どもをコントロールしようとしてしかるのではなく、「これはいけないこと」ということを、決して感情的にならずに、短い言葉で伝えます。「放任」と「見守る」ことは違います。
――それだけでいいんですか?
三宅さん:悪いことだとわかっている年齢なら、それだけで十分です。わからない年齢ならわかりやすく説明すればいいでしょう。いずれも「わかってくれる(ときがくる)」という子どもへの信頼がもとになっています。
――三宅さんは「怒らない子育て」という表現もされています。
三宅さん:「怒る」と「しかる」は混同されがちですが、「怒る」というのは自分の感情を表に出すという点で「しかる」とは異なります。子どもは怒られて何かを学ぶわけではありません。だから「親は決して怒る必要はない」というのが、アドラー流子育てのメッセージでもあります。ただし、決して「怒ってはいけない」と言っているのではありません。怒るというのは愛情があることの裏返しですし、感情を無理に抑えていると子どもも「感情を抑えなきゃ」と思ってしまいます。大切なのは、先ほども言ったように、感情を使って子どもを操作しようとせずに、「これはやってはいけないこと」ということを簡潔な言葉で伝えることです。「あれダメ、これダメ」と限定するのではなく、自分で決めたことに責任を持たせていろいろな経験をさせてあげることが、アドラー流子育てのいちばんの目的なのです。
――アドラー流子育てにおける「比べない」は、どういう意味があるのでしょう?
三宅さん:赤ちゃんを育てているママ同士というのは、互いの成長を喜び合うことができます。たとえ自分の子どもより月齢の小さい子が先にはいはいしていても、素直に「すごいね~」と言える。逆に成長の早い子どものママも、成長の遅い子のいいところを見つけて「かわいいね~」と言える。でもだんだんと「子どもの成長は親の成果である」と考えるようになっていき、比べるようになってしまうんです。本当は比べるのではなく、その子の成長に合わせたサポートをすることが大事。たとえば、子どもがはいはいでボールを取ろうとしているときに、ボールを親が取ってきて子どもの目の前に置いてしまったら、それは「サポート」ではなく、「ヘルプ」になってしまいます。それでは子どものチャレンジしようと思う気持ちや、やる気の芽をつんでしまいます。長い距離の移動がまだ難しいなら、ボールを目の前に置くのではなく、少し移動させて近づけてあげる。チャレンジしやすいサポートをすることが大切なのです。
年齢別アドラー流子育てのポイント
まだ言葉をしゃべれない0~1歳、イヤイヤ期も始まる2~3歳、活発な4~5歳。年齢別に「子どもに自信を持たせる!」アドラー流子育てのポイントを、三宅さんに聞きました。
【0~1歳】
まだ言葉は話せませんが、見たり聞いたり感じたりして、まわりの状況を把握しています。受け取る力は十分備わっていると考えたほうがいいでしょう。ニコニコと話しかけるだけでも効果あり。6ケ月ごろからは、「いつもニコニコ話してくれる人だ」と認識して、ママやパパがいるだけで安心できようになります。また、「自分が働きかけると、ママやパパがニコニコする」と、自己を肯定的にとらえるようにもなっていきます。
【2~3歳】
イヤイヤ期の始まるこの時期に大切なのは、好奇心を満たしてあげることです。「これはダメ」と言うのを減らして、「これならいいよ」と言うことを増やしていきましょう。また、子どもに共感することも大切。たとえば、出かける時間になっても遊びをやめないときに、「こんな忙しいときに何言ってるの!」と怒るのではなく、「まだ遊びたいんだね。でも今から○○にお出かけするお約束していたじゃない? 終わりにすることできる?」と気持ちに寄り添ってみましょう。この年齢になるとトイレトレーニングも始まりますが、子どもにとっては、自分をコントロールしなくてはいけない初めての挑戦です。「何でできないの?」とため息をつくと、子どもは傷つきます。子どもの立場になってみて、「パンツ変えて気持ちよくなろうね」などとプラスの声かけをしましょう。
【4~5歳】
共同生活の中で競争心が生まれているので、頑張りたい気持ちをつぶさないように、その子の中で0.1歩でも進歩していたらそのことをほめてあげるといいでしょう。ここでの「ほめる」は、子どもの感情をコントロールする目的ではなく、応援することが目的です。その子なりの頑張りを見つけてあげることが大事です。また、このころの子どもは自分から「やってみたい」と言うことも多くなりますが、親が「失敗したら大変だからやらせないようにしよう」という考えでは子どもは経験ができません。失敗も含めて親子で一緒に経験をすることが大切です。
わかっていても、子どもについしかったり、比べてしまったりすることってありますよね。三宅さんによると、そんなときに形だけで「ごめんね」と謝っていると、子どもは親がイライラするような行動を繰り返しとって、親の本心を見極めようとするのだそうです。何のためにしかったのか、自分の感情や機嫌に流されていなかったか、親自身が自分と向き合ってみることが大切なのかもしれません。(取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部)
監修/三宅美絵子さん
アドラーカウンセラー、ベビーサイン講師。笑顔の子育て教室「blue bird」を主宰し、アドラー心理学の勇気づけなどによりママと子どもの笑顔を増やすお手伝いをしている。著書に『幸せ親子になれる 0歳からのアドラー流怒らない子育て』(秀和システム)。2児の母。