添い乳って危ないの?安全に行う方法は?医師に聞く
「ラクそうだから添い乳をしてみたいけど、危なくないの?」と疑問に思っているママは少なくありません。
添い寝のメリット・デメリットや、ラク&安全にできる添い乳の正しい方法などを、日本赤十字社医療センター第二産婦人科部長の笠井靖代先生に教えてもらいました。
添い乳ってどんなこと?
そもそも添い乳とはどのような授乳方法なのでしょうか。
添い寝の定義、メリット・デメリット、いつから始めていいのかなど、添い乳の基本について解説します。
添い乳は横になって授乳すること
添い乳とは、ママと赤ちゃんが横になって授乳すること。「授乳しながらママも眠るもの」ではありません。眠っていいのは赤ちゃんだけです。
でも、横になることでママも体を休めることができます。とくに低月齢期は授乳回数が多く、授乳の間隔もまちまちなので、添い乳で体を休めながら授乳できるのはうれしいものです。
添い乳のメリット・デメリット
横になった姿勢で授乳する添い乳には、メリットもデメリットもあります。その両方をきちんと理解したうえで添い乳を行うことが重要です。
●メリット
・赤ちゃんもママもリラックスできる
・ママの肩や腕、腰に負担がかからずラクなので、母乳育児が軌道に乗りやすい
・赤ちゃんは基本そのまま眠れる
●デメリット
・ママが赤ちゃんの様子を見えない環境で行うと危険
・ママがうっかり寝てしまうと、おっぱいで赤ちゃんの鼻や口をふさいでしまうリスクがある
・吸わせ方に問題があると、おっぱいに傷がつき悪化しやすい
赤ちゃんが安全でママがラクな添い乳の方法
添い寝を安全に行うためには気をつけるべきことがあります。ママが知っておきたいポイントをまとめました。添い寝にトライする前に確認してください。
正しい添い乳のチェックポイント
●ママの頭を高くして視線は赤ちゃんに向ける
ママと赤ちゃんの頭の高さが同じだと、赤ちゃんの顔色や様子がよく見えません。枕に頭を乗せただけだと、思ったほど高さが出ないことがあります。添い乳をしている間は枕を2つ重ねたり、たたんだバスタオルを枕の上にのせたりして、赤ちゃんの顔がよく見える高さに調節してください。
そして添い乳をしている最中は視線を赤ちゃんに向けましょう。
※部屋の照明は、赤ちゃんの様子がよく見えるくらいの明るさにしておきます。
●クッションなどを挟んでママの姿勢を保つ
横向きの姿勢になったら、ママの太ももからひざあたりでクッションや丸めたバスタオルなどを挟むと、ママの姿勢が安定します。
●おっぱいは乳輪まで深くくわえさせる
抱っこで授乳するときと同様、おっぱいのくわえ方が浅いと上手に飲めず、ママの乳首を痛める原因になります。赤ちゃんが下あごを使って乳輪までしっかりくわえているか、必ず確認してください。
●バスタオルを敷いておく
赤ちゃんの下にバスタオルを1枚敷いておくと、授乳後、抱き上げずにバスタオルごと位置調整ができます。また、吐いたときにシーツまで取り替える必要がないので便利です。
●赤ちゃんのおなかとピッタリ密着
ママと赤ちゃんのおなかが密着していると、赤ちゃんが飲みやすく、ママも授乳がしやすくなります。赤ちゃんの姿勢は、背中からおしりまで一直線に。クッションや丸めたバスタオルなどで赤ちゃんの背中を支えるといいでしょう。苦しいときなどに、赤ちゃんが自分でおっぱいから顔を離す動作を妨げないように、支えるものの位置は、赤ちゃんの後頭部より下にします。授乳が終わったらはずして。
※赤ちゃんの足が帝王切開の傷にあたって痛い場合は、ママのおなかにバスタオルを当ててガードしましょう。
●吐きもどしが多い子はげっぷが必要
胃の中の空気はげっぷだけでなくおならでも出るので、赤ちゃんを抱き起こしてげっぷさせることは必須ではありません。ただし、普段から授乳後の吐きもどしが多い子は、月齢に関係なく、抱っこしてげっぷをさせてから寝かせましょう。
※赤ちゃんが吐きもどしたときすぐに対処できるよう、授乳後は赤ちゃんの様子をよく見ていて。
やりがちだけどNGなこと
【×】授乳に慣れていないのに添い乳をする
赤ちゃんがおっぱいに吸いつくのに慣れていないうちは、添い乳はおすすめできません。
【×】やわらかい敷布団を使う
赤ちゃんの体が沈みやすくなり、授乳の体勢がうまくとれません。また、顔が埋まって窒息する心配もあります。
【×】腕枕をして添い乳をする
赤ちゃんの首に負担がかかるし、ママの腕や肩にも力が入ってしまうので、お互いにリラックスできず疲れてしまいます。
【×】真っ暗な中で添い乳する
どんな授乳方法でも、赤ちゃんの様子を見ながら授乳することが重要。夜間に暗い部屋で照明をつけずに添い乳をするのは危険です。必ず、赤ちゃんの口元や表情がわかる程度の照明をつけて授乳しましょう。
【×】ママがひどく疲れていたり、眠ったりしそうなときに添い乳をする
赤ちゃんの泣き声に気づかないくらい深く眠ってしまいそうなときは、添い乳をするのはやめましょう。眠けを誘う薬を使っているときも避けて。
【×】おっぱいの傷がひどくなっていくのに添い乳を続ける
おっぱいに傷ができて、それが悪化していくということは、授乳がうまくいっていないサインです。くわえさせ方などを見直してみる必要があります。
【×】哺乳びんを使って添い乳をする
哺乳びんの乳首はママのおっぱいよりも出口が広いため、むせる原因に。ミルクは座って飲ませてください。
添い乳っていつからいつまでやっていいの?
<添い乳の始めどき>
添い乳は生後0ヶ月からでも可能ですが、赤ちゃんがおっぱいを深くくわえられないと、赤ちゃん・ママともに負担が大きくなります。おたがいが授乳に慣れたところで、まずは日中にトライしてみるといいでしょう。
首すわり以降は赤ちゃんの飲み方が決まり、授乳スタイルを変えると嫌がることがあります。そうなる前にいろいろ試してみて、快適な添い乳の方法を見つけておくのがおすすめです。
<添い乳のやめどき>
やめる時期の決まりはとくにありません。赤ちゃんが添い乳以外で眠れる入眠儀式を探しながら、自然と添い乳を卒業できるのがベストです。
世界保健機関(WHO)では「授乳期間は2歳あるいはそれ以上を推奨する」としています。無理やり添い乳をやめるのではなく、赤ちゃんが泣いたときに、おっぱい以外で満足できるようなことをしてあげるようにしましょう。抱っこや絵本の読み聞かせをしたり、子守歌を歌うなど、いろいろ試してみてください。
添い乳以外に楽しいこと・安心できることがあるとわかれば、いつかは必ず卒業していくものですよ。
添い乳をするとSIDS(乳児突然死症候群)のリスクが高まる?
SIDS(乳児突然死症候群)とは、それまで元気だった赤ちゃんが、窒息や事故によってではなく、眠っている間に突然死亡してしまう病気で、原因は明らかになっていません。
原因がわからないだけに、添い乳をするとSIDSのリスクが高くなるのではないか…と心配するママは多いようです。
まず、理解してほしいのは、窒息による事故死とSIDS(乳児突然死症候群)は別物だということ。
添い乳中にうっかりママが寝てしまい、おっぱいが赤ちゃんの顔に覆いかぶさって赤ちゃんが窒息死することは実際に起きています。しかし、これはSIDS(乳児突然死症候群)ではなく事故死です。
米国小児科学会が公表した「SIDS(乳幼児突然死症候群)などによる睡眠中の乳児死亡を予防するための安全な睡眠環境に関するガイドライン」でも、添い乳は禁止されていません。
SIDS(乳幼児突然死症候群)の予防法は確立していませんが
(1)1歳になるまでは寝かせるときはあお向けにする
(2)できるだけ母乳で育てる
(3)ママだけでなくパパや家族がたばこを吸わない
この3つのポイントを守ることにより、発症率が低下するというデータがあります。
添い乳の正しいやり方を理解し、適切に行うのであれば、母乳育児を続けるために添い乳を活用してもいいでしょう。
そして、ママだけでなくパパや周囲の家族も添い乳の知識を身につけ、周囲の人も添い乳中の様子を気にかけるなど、サポートをしてあげることが大切です。
添い乳の疑問や気がかりを解消しよう
添い乳について、多くのママが感じる疑問や気がかりについてまとめました。
また、先輩ママの添い寝に関するエピソードも紹介します。参考にしてみてください。
添い乳、みんなが気になるQ&A
Q. 添い乳は卒乳が遅れる原因になる?
A. ママが添い乳に頼りすぎると遅れることがあります
卒乳する時期は赤ちゃんによっていろいろ。それはどの授乳方法でも同じです。ただ、添い乳は夜中も起き上がらずに授乳と寝かしつけができるため、体を休ませる暇がないママには快適でラクな授乳方法と言えます。そのため、赤ちゃんよりママが添い乳に頼ってしまい、やめにくくなることはあるでしょう。
Q. 添い乳をすると中耳炎になりやすくなるの?
A. 飲んだ母乳が中耳に流れないように注意しましょう
赤ちゃんの耳管は短くて太いので、寝かせたままだと飲んだ母乳が簡単に中耳に移行します。夜間の授乳もできるだけ抱っこして飲ませる方が中耳への移行はないので、最初は添い乳ではなく縦抱きで授乳し、途中でゲップをさせたりして、うとうとしてきたところで添い乳にするといいでしょう。なお、一度中耳炎を起こした場合は、添い乳は避けたほうが安心です。
ちなみに、母乳を少しでも与えることで、ミルクのみの赤ちゃんより中耳炎が23%減少し、3ヶ月以上母乳のみで育てることで、中耳炎罹患(りかん)率が50%低下することが報告されています。
Q. 添い乳をするとむし歯になる?
A. 歯のケアをしっかり行えばむし歯は防げます
母乳のみが原因でむし歯になることはほとんどありません。乳幼児期のむし歯の原因は、主に離乳食やおやつの残りかすや、親のむし歯からのミュータンス菌の移行。これらに母乳の口腔内停滞が重なると、むし歯リスクが高まります。歯につきやすいおやつを食べたり、ダラダラ食べをしたりしないように注意し、上の歯が生えたら1日1回の歯磨きを習慣にすれば、添い乳をしてもむし歯を防ぐことができます。
そして、赤ちゃんや子どもを診てくれる小児歯科のかかりつけ医を持つようにして、乳歯が生えてくる6ヶ月ごろから、定期的に歯科でチェックしてもらえば安心です。
Q. 添い乳をするとおっぱいが詰まりやすくなるって本当?
A. 日中の授乳で気をつければ大丈夫
添い乳は乳頭の上下を刺激して吸うだけなので、添い乳のあとに若干の飲み残しを感じることはあるかもしれません。その分、日中の授乳を「横抱き」だけでなく、小わきに抱えて飲ませる「ラグビーボール抱き」にするなど、添い乳とは違う方向からも飲ませるように意識すれば、乳腺が詰まるのを予防できます。
先輩ママたちの「添い乳」にまつわる体験談を紹介します
「上の子2人、2歳くらいまで添い乳で寝かしつけしていました。歯が生えてくる時期は痛いですが、それを越えると子どものほうが飲み方を工夫してくれて、痛くなくなりました。深くくわえてもらうと私は楽でしたよ。」
「わが家は子どもが生後5ヶ月ごろから、寝かしつけの時は添い乳していました。抱っこして授乳→寝かしつけ→下ろすを何回も繰り返し、失敗したもので…。ちなみに上の子は1歳半で卒乳し、下の子は2歳0ヶ月で卒乳しましたが、それからはトントンで寝かしつけしています。」
「2人子どもがおりますが、添い乳からの寝落ち、からの夜泣きで添い乳と何とも母乳依存な育て方をしましたが、どちらも断乳に困ることなく今は勝手に寝ます。」
「夜に寝られないのがつらくなって、座って授乳していたのを一緒に横になって授乳するスタイルに変更しました。添い乳というやつです。ふにゃふにゃの赤ちゃんだったころは怖くてできませんでしたが、しっかりしてきたから大丈夫かな?と思ってやってみたら、子どもも安心するようすだったし自分も楽でした。」
添い乳は、赤ちゃんとたっぷりスキンシップをとることができるし、ママの体への負担も少なくできる授乳方法。
その一方、ルールを守らないと赤ちゃんを危険な目に合わせる可能性がある方法でもあります。安全かつ快適に行える方法で行うことが大切です。
(取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部)
※文中のママたちのエピソードはすべて、口コミサイト「ウイメンズパーク」の投稿からの抜粋です