【小児科医リレーエッセイ 13】 困ったときには頼ってみて!子どもに優しい病児保育
皆さんは病児保育を知っていますか?利用したことがありますか?「日本外来小児科学会リーフレット検討会」の先生方から子育てに向き合っているお母さん・お父さんへのメッセージをお届けしている連載です。第13回は千葉県・まなこどもクリニックの原木真名先生から「病児保育」についてのお話です。
「病児保育」は保育士・看護師が、専門性をもって、病気の子どもを預かる施設
皆さんは病児保育をご存じでしょうか?病児保育は、子どもが熱を出すなど、病気になって通常の保育園などを利用できなくなったときに、保育士・看護師が常駐する保育室でお預かりするシステムです。現在、全国で1000施設以上が稼働しています。
病児保育施設には、医療機関併設型、保育所型、単独型があります。医療機関併設型は、小児科・内科クリニックや総合病院などの医療機関に併設して作られています。保育所型は、保育所の1部を病児保育室にしていることが多いです。単独型は、病児保育施設が独立していて、自治体などが運営していることが多く、周囲の医療機関と連携しています。
子育て世代をささえることが社会へのご恩返しと考えて、病児保育を始めました
私は、平成10年に千葉市に小児科クリニックを開業し、ほぼ同時に病児保育室を開室しました。当時、私が開業している千葉市内には病児保育室がありませんでした。千葉市にお住まいのお子さんは、病児保育利用のため、車で1時間以上かかる病児保育室まで行っていたのです。
私には、病児保育をどうしても開設したいという強い思いがありました。私は、息子が生後7カ月の時、白血病になりました。骨髄バンクを通して、まったく見知らぬドナーの方から骨髄を提供していただいて骨髄移植をうけることができ、命を救っていただきました。私に命がけで骨髄提供をしてくださった見知らぬドナーの方や、寝食削って治療をしてくれた医療スタッフなど、周囲のたくさんの方々のおかげで九死に一生を得たという経験は、私の中でとても重く大きいものです。何か社会にご恩返しをしなければ、という思いが募りました。
また、病気になって最もつらかったことは、なんといっても乳児だった息子と別れて闘病生活をしなければならないことでした。子どもと離れていなければならないとき、子どもを安心して預けられる場所があるということは、本当に救いになることを痛感しました。
開業が決まったとき、子育て真っただ中で頑張っている若いお母さん・お父さんへの支援をしていきたいと思いました。安心して大切なお子さんを預けられる保育室を作ることで、社会へのご恩返しにもなるかもしれない、という思いで、病児保育室を始動しました。
開室当時は、このような強い思いにつき動かされていましたから、補助金などの行政的なバックアップを受けられるというようなことはまったく考えていませんでした。
しかし、ちょうどそのころ、「千葉市に病児保育室を作る親の会」という会が活動を始めていて、私の施設を見学にきてくださったりして、行政と結びつきを作ってくれました。平成12年には、千葉市のモデル事業となり、その後、小児科・内科の先生の中で趣旨に賛同してくださる方が次々と名乗りをあげてくださり、現在、千葉市では、9か所の医療機関併設型病児保育室が稼働しています。
病児保育室は子どものための施設。めざすところは、子どもたちとお母さん・お父さんの絆づくりです
病児保育の話題になると、病気の時くらいは保護者が仕事を休むなどして世話をすべきだ、という反対意見が必ずでてきます。でも、病児保育に子どもを預けることは、決して悪いことではないのです。病児保育室は、子どものための施設です。お母さん・お父さんの就労支援だけを考えた施設ではありません。「病児保育室は、医療と保育が連携して、子どもが病気になった時に、その子に必要なケアや発達のニーズをしっかり満たしてあげるように世話をするところ」です。つまり、子どもにとって、病気の時に、快適に楽しく過ごせる場所なのです。
子どもへの支援が、お母さん・お父さんの就労支援にも結びつくと考えています。仕事を気にしながら、時には在宅で仕事をしながら、家で病気の子どものケアをするのはしんどい時もあるでしょう。また、病気の時に、病児保育室でケアしてもらえば、有給休暇などは元気な子どもたちと楽しい時間を過ごすことに使えるかもしれません。結果的には、子どもたちとお母さん・お父さんの絆(きずな)を強めることになると思います。
病気の子どもを手厚くケアするのはもちろん、子育て支援も行います
病児保育室では、子ども2~3人に保育士1人という手厚い体制で保育を行います。病状や年齢によっては1対1での保育になることも少なくありません。子どもの病気のケア、子どもの発達や遊びについて精通した保育士・看護師が、子どもの病状や発達段階に合わせて、手厚く子どもたちの世話をします。毎日利用する保育室ではありませんので、子どもたちは預けられる最初は泣いてしまうこともありますが、大切にケアされることによってすぐに環境になじみ、楽しく1日を過ごすことができます。病児保育室はリピーターが多く、みんな、来るのを楽しみにしてくれているようです。「お熱が出てしまったら行く、楽しい場所」と思ってくれているのだと思います。
病児保育室のスタッフは感染防御についてもしっかり勉強していますので、室内の感染リスクも最低限におさえることができています。
病児保育室のもう一つの役割は、子育て支援です。病児保育室では、お預かりする人数が少なくスタッフが多いアットホームな施設なので、お子さんについての相談をしやすい雰囲気ができています。病気のケアについてはもちろん、普段の子育てで不安に感じていることや聞きたいことなど、何でも相談できます。お子さんが病気のときには、お母さんたちの不安が強くなることもあるのでしょうか、お迎えのときに病児保育スタッフとお母さんが話し込んでいる姿をよく見かけます。
病児保育室を開設している小児科医や病児保育を担当しているスタッフは、みな、子どもの育ちやお母さん・お父さんの子育てを応援していきたいと考えている、優しくて熱い心の人たちばかりです。困ったときには、ぜひ頼ってみてください。
文/原木真名先生
(まなこどもクリニック・院長)
東京都大田区に生まれる。1989年千葉大学医学部卒業。千葉大学病院、都立墨東病院、帝京大学市原病院勤務を経て、1998年に千葉市緑区おゆみ野にまなこどもクリニックを開業。自らの闘病経験や、思い通りにならなかった子育て経験を原動力に、子育て支援を行っている。「子どものためならなんでもしよう」というフレーズが座右の銘。