【小児科医リレーエッセイ 18】 急な病気のときにあわてないために、知っておいてほしい小児科受診の心がまえ


「日本外来小児科学会リーフレット検討会の先生方から子育てに向き合っているお母さん・お父さんへのメッセージをお届けしている連載の第18回です。今回は、福岡県・いいづかこども診療所の院長・牟田広実先生からの「小児科を受診する際に心がけてほしいこと」についての寄稿です。
小児科に受診する時に知っておいてほしい心がまえがあります
お子さんが急に病気になったときは、心配であわててしまうのはしかたがないことです。そのため、受診した時にいろいろと話を聞いたけれど半分くらいは忘れてしまった、またはあわてていたので聞きたいことを尋ね忘れてしまったなどの理由で、受診後に電話で問い合わせがあることもしばしばです。そのようなことにならないために、小児科に受診するときに知っておいてほしい心がまえがあります。
お子さんを連れてくる人は、様子を一番よく知っている人
受診に来られたものの、お子さんの症状がいつからあるのか、食欲はあるのか、まわりで何か流行っている病気がないかなど、診断に重要な情報がほとんどわからないことがあり、こんな時は診断に苦労します。そうならないために、できるだけお子さんの様子を一番よく知っている人が連れてきてください。もし誰かに頼むときには、症状の経過や尋ねたいことを書いたメモを渡すなどして、できるだけ多くの情報を持ってきてください。せきの様子を録音したり、発疹を撮影したりして持ってきてもらうと、診断に役立ちます。便が気になるときには、その便を持ってきて見せてください。
受診のときには、診察券、健康保険証、乳幼児医療証だけでなく、母子健康手帳やお薬手帳も忘れないように持ってきてください。
お子さんが病気のときに、私たち小児科医が伝えたいこと
診察が終わり病気の診断がついたときに、私たちは主に以下の3つの内容を説明しています。1つ目は、「処方する薬について」、2つ目は、「家庭で気をつけること」、3つ目は、「治るまでの経過やもう一度受診する目安」です。もちろん、保護者が尋ねたいことがあれば、それにもお答えしています。診察を受けたあとに、これら3つの中で説明されていないことがあれば、尋ねてみてください。
処方された薬はどんな薬で、どのように使ったらいいか知ってください
薬を処方してもらったときは、どんな薬で、どのように使ったらいいかを知っておく必要があります。とくに抗菌薬が処方されたときには、その都度なぜそれが必要なのかを教えてもらい、指示通りに飲み切ってください。ふつうの「風邪」はウイルスが原因であるため、抗菌薬は効きません。また、抗菌薬を「よくなったから途中でやめる」「次のためにとっておく」ことは、治療が中途半端になったり、診断の妨げになったりするので、絶対にやめましょう。
また、解熱薬(熱さまし)は、たとえ39度を超えるような高熱であっても、機嫌がよく元気なときや、ぐっすり寝ているときなどは使わなくてかまいません。解熱薬は熱によるつらさを一時的に軽くするための薬であって、病気そのものを治す薬ではないからです。
家庭でどんなことをしてあげたらよいか知ってください
残念ながら、お子さんの受診の理由で最も多い風邪などのウイルス感染症には、いわゆる特効薬と呼ばれる原因のウイルスを抑える薬はほとんどありません。そのため、単に薬を処方してもらって飲ませておけばいいわけではなく、病気でつらい期間をうまく乗り越えていくことができるように、家庭でお子さんにどんなことをしてあげたらいいか(ホームケア)を知っていただく必要があります。たとえば、手足口病にかかって口の中が痛いときには、どんな飲み物や食事をどのようにあげたらいいかなど、具体的に説明しています。
治るまでの経過を知っておくと安心できます
病気の経過はお子さんそれぞれであるため、はっきりとは言えないことも少なくないですが、できる限りどのような経過で治っていくかを説明しています。このくらいたてばよくなるとわかると、少しは安心できますよね。病気の経過を説明していくことと合わせて、「こんな症状が出てきたら、もう一度受診してほしい」、ということも具体的に説明しています。どんな病気であっても、お子さんの見た目や様子(好きなおもちゃなどに興味を示すか、泣き声などが弱々しくないかなど)、息づかい(息をするときに変な音がしていないか、肩で息をしたり、鼻をピクピクさせたりしていないかなど)、顔色や皮膚(色が悪くないかなど)に問題があれば、すぐに受診したほうがいいです。
私たち日本外来小児科学会は、お子さんが病気のときに家庭でこれだけはしてほしい、これだけは知ってほしいという大事なポイントを書いた本(「ママ&パパにつたえたい子どもの病気ホームケアガイド」 医歯薬出版発行)を出版しました。小児科でこの本を使って説明してもらうこともあるかもしれません。保護者の方にもわかりやすく書いていますので、よろしければご一読ください。
文/牟田広実先生(いいづかこども診療所・院長)
Profile
福岡県久留米市生まれ。1997年自治医科大学卒業。卒業後は福岡県の過疎地の医療に従事し、2016年に福岡県飯塚市にいいづかこども診療所を開業。子どもたちの未来をつくるお手伝いをしたいと小児科を選んだ。目の前にいる子どもたちだけでなく、世界中の子どもたちを救えるように、研究発表も行っている。
「ママ&パパにつたえたい子どもの病気ホームケアガイド」第5版