彼氏とも別れ、イケメン鬼上司にも妊娠を告げられず…【小説「ご懐妊!!」Vol.6】
『ご懐妊!!』Vol.6
スターツ出版文庫の大人気小説『ご懐妊!!』が、たまひよWEBにて連載中。「たまごクラブ」でもおなじみの産科医・大浦訓章先生のひと言解説もお見逃しなく。
●これまでのあらすじ
広告代理店で仕事に打ち込む佐波。悩みといえば、上司のイケメン鬼部長・一色が苦手なことくらい。それなのに、お酒の勢いで彼と一夜を共にしてしまい、後日、妊娠が判明!彼氏に何と言おうと悩む佐波に…。
二ヵ月④
「人工妊娠中絶は本院でも扱っています。母体保護法に基づいて処置します。妊娠二十二週未満までに処置しますが、早めをお勧めしています」
「早め……」
「十二週以降では、人工的に陣痛を起こして胎内から出すかたちになりますからね」
まだ外で生きていけない赤ちゃんを、無理やり身体から出す。私がしようとしているのはそういうこと。大丈夫、子どもじゃないんだからわかっている。
「じゃ、診てみましょう」
私は、三度目の嫌な内診台に座った。
私が不安そうな顔をしていたからか、看護師さんがひとり、こちら側についてくれた。先生はいつもカーテンの向こうだから、今日はちょっと心強い。
台が上がり、足が開いていく。
「見えた見えた。梅原さん、モニター見て」
そう言われて、天井にくっついたモニターに目をやった。
例の黒い画面が、今日は動いている。扇状に白くぼやけた画面の右サイドに丸。これが胎嚢ってやつだ。
そして、その丸にそってチカチカ点滅しているあれは、なに?
「このチカチカ、なんだと思います?」
先生がカーテンの向こうで言った。
「なんですか?」
「赤ちゃんの心臓です」
「え!?」
「今、ドプラーで音にしてあげますからね」
おじさん先生がなにか作業をしたら、カーテンの向こうから音がし始める。
――ドッドッドッドッ。
思ったより速い。
「これが……」
「赤ちゃんの心音です。心拍が確認できましたね」
赤ちゃんの鼓動が聞こえる。
力強い音。画面で星のように瞬く命の輝き。
生きているんだ。私の中で間違いなく、生きようとしているんだ。
「梅原さんの中で動きだしたこの子の心臓はね、この子の人生が終わるそのときまで動き続けるんだよ」
先生が言った。
その言葉で、私の両目から堰(せき)を切ったように涙が溢れだした。
生きている。この子は生きている。
ダメだ。私にこの子は殺せない。
私の勝手でできたのに、この子はきちんと自分の人生を生きようとしている。
殺せないよ。
泣きじゃくる私に、看護師さんがティッシュを渡してくれる。
「まだ時間があるから、もう少し考えたらどうかしら?」
彼女の言葉に、私は頷いた。
頭の中でいつまでも赤ちゃんの心音が鳴り響いていた。
つづく
【小説「ご懐妊!!】次回をお楽しみに
大浦先生アドバイス
【大浦先生アドバイス】
心拍は経腟エコーによりだいたい妊娠6週以降から確認できます。心音はだいたい妊娠12週以降から聴くことができます。それまでは胎児が小さすぎて聴くことができません。また、機械の種類や個人差で必ず健診時に聴けるというわけでもありません。
妊娠を続けて赤ちゃんを産みたいと女性が思ったら、母親である女性ひとりで決められます。が、中絶はパートナーの同意が必要となります。
著者/砂川雨路 イラスト/くにみつ 監修/大浦訓章先生
この小説はスターツ出版文庫から刊行されている『ご懐妊!!』より掲載しています。たまひよWEB版は産婦人科医大浦訓章先生の監修のもと一部改訂しております。
砂川雨路
Profile
群馬県出身。東京都在住。著書に、『愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~』『クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした』(ベリーズ文庫)、『僕らの空は群青色』(スターツ出版文庫)などがある。現在、小説サイト「Berry's Cafe」「ノベマ!」にて執筆活動中。『ご懐妊!!』(スターツ出版文庫)は現在3巻まで発売中。テキストリンクなどもはれる。
大浦 訓章先生
Profile
南流山レディスクリニック院長 慈恵医大卒。産婦人科准教授、同大付属病院総合母子健康センター産科部門長、東京母性衛生学会理事、日本周産期新生児学会評議員・副幹事長、日本周産期新生児学会新生児蘇生法委員などを歴任。現在、周産期メンタルヘルス学会評議員、女性スポーツ研究会理事、2020年産科婦人科学会、医会産科診療ガイドライン作成委員、2023年同評価委員。「たまごクラブ」でも監修をつとめる。
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