ステロイド外用薬は怖い?子どもに使って大丈夫?不安に回答【小児科医】
アトピー性皮膚炎の治療に重要なステロイド外用薬。赤ちゃんにステロイド外用薬を初めて使う際、不安を感じるママやパパも多いかもしれません。しかし、怖いからと使用を控えることで重症化するケースも見られます。ステロイド外用薬について子どものアレルギーに詳しい東京慈恵会医科大学葛飾医療センター助教・小児科医の堀向健太先生に聞きました。
「ステロイドが怖い」と思うよりも「根拠のある情報を知ったうえで適切に使う」ことが大切
身近な人や自身の経験で「ステロイドを使うことでアトピー性皮膚炎の症状がよくなった」ということはあるかもしれません。「確かにそんなケースに触れると‟ステロイドはまったく怖くない“と考えるでしょう。しかし一方で、ステロイドを使うには、その先の知識もまた重要なのです」と堀向先生は言います。
「確かに、ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎治療の第一選択の薬であり、効果が高いです。しかし一方で、副作用というリスクもありますから、怖がること自体は悪いことではないのです。メリットとデメリット両方を考えて使う薬なので、治療に習熟した医師とともに適切に使うことがとても大切です」(堀向先生)
そもそもアトピー性皮膚炎にステロイド外用薬が使われるのはどうしてでしょう。
「皮膚には真皮と表皮があり、表皮のいちばん表側には皮膚のバリアー機能を担う角層があります。乾燥などで角層が傷つくと、体内では体を守るための免疫細胞が働きます。この免疫細胞が行き渡りやすいように、血管をふくらませて血流を多くします。そして免疫細胞は情報伝達物質を出して外敵を押し出そうとするのです。ステロイド外用薬は、この行き過ぎた免疫反応を収めるために使います。太くなった血管を縮め、情報伝達物質の量を減らす効果があるのです」(堀向先生)
1970年代には副作用によるトラブルが発生
育児中のママ・パパ世代だけでなく幅広い世代にまで広げて考えれば、「ステロイドは怖いからとにかく使わないほうがいい」という考え方があるのも事実です。
それは、副作用や使用方法の習熟度が深まっていない1970年代にステロイドの市販薬が販売されるようになったことが一因にあるようだ(※1)と堀向先生は話します。
「1970年代に、たとえば市販薬を長く使用し続けた方から顔が赤くただれる『赤ら顔』の症状が出てきたのです。市販薬だけでなく、不適切な医療者による指導もあったかもしれません。ステロイド外用薬は血管を収縮させることで、一時的に炎症のない色白肌を作り出す効果があるために化粧品のように使う人も出てきていました。しかし、ステロイド外用薬は毎日同じ場所に塗ると副作用が起きやすく、かつ、顔の皮膚は吸収がいいために副作用が出やすいのです。当時は、ステロイド外用薬の使い方や副作用の情報がよくわかっていなかったのだと思われます」(堀向先生)
現在はステロイドによる治療の習熟度は上がり、同じ場所に長期間使うと、皮膚が薄くなる、毛が濃くなる、にきびができやすくなる、といった副作用がわかっています。つまり、適切に使えば、そのような副作用は大幅に抑えられるとわかっています。
「2000年には『日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン』が策定され、定期的に改定されています。ステロイド治療の正しい方法については専門の医師の間では広く定着してきています」(堀向先生)
ステロイドへの不信感は医師への不信感であることも
1970年代の出来事で現在育児中のママ・パパたちの親世代が、「ステロイドは怖いから使わないほうがいい」と助言するのは、ある意味当然のことなのかもしれません。しかし、原因はこれだけではないと堀向先生は言います。
「父親がアトピー性皮膚炎であるとわが子に使わせない傾向があったり、患者が医療機関を渡り歩いたりしていると、ステロイドによる治療を嫌うケースが多いという研究結果があります(※2)。もちろん、医療者が十分な情報提供ができていない場合ももちろんあるでしょう。しかし、もしかすると、保護者自身がアトピー性皮膚炎の治療がうまくいかなかった経験があり、医療者とのコミュニケーションが十分でないまま医療機関を変えているのかもしれませんね。」(堀向先生)
つまり、ステロイドへの不信感は、医師と患者の信頼関係の問題が根底にあるのかもしれないと言うのです。
医師との信頼関係を大切にして定期受診を
医師との信頼関係を築くためには患者側の前向きな気持ちもまた大切と言います。
「医師の指導を守れば、100%大丈夫という意味ではありません。しかし、ステロイドの副作用を減らしながら治療の効果をあげることはできるのです。そして、たとえば医師からまた2週間後に受診してくださいなどと指導されることも多いと思うのですが、そこで受診をしない患者さんがいらっしゃるのも現状です。アトピー性皮膚炎は一見よくなっているように見えても皮膚の下に炎症があると繰り返してしまう病気です。治療を中断したあとに悪化することも多いのです。また、指導通りに行っていても想定外のことが起きて悪化することもあります。そんなときも定期受診していれば、迅速な対応を受けられる、専門医を紹介されるなど適切な処置をしてもらえると思います。そして、コミュニケーションをとることを嫌がらない医師であれば、より適切な医療を行っているはずなのです」(堀向先生)
ステロイドの副作用を防ぐためにも、アトピー性皮膚炎を悪化させないためにも、まずは医師を信頼して指導を守り治療を開始することが大切ということです。
取材・文/岩崎緑、ひよこクラブ編集部
※1)五十嵐 敦之. 診断と治療 2011; 99:383-91
※2)Kojima R, et al. Pediatr Dermatol 2013; 30:29-35.
「アトピー性皮膚炎の治療に習熟した医師なら、具体的なスキンケア指導をしてくれるはず」と堀向先生は言います。医師を信頼して定期受診を心がけることが、ステロイド治療を含めた最適な医療を受けられる第一歩のようです。
『ほむほむ先生の小児アレルギー教室』(丸善出版)
アレルギーのしくみや治療法、薬のことなどを漫画やイラストを交えた授業形式で堀向先生がわかりやすく解説。