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救急医療の現場から#7〜体調は悪くないのに1日中泣きやまない!~ターニケット症候群

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NiseriN/gettyimages

赤ちゃんが小さいうちはとくに、理由がよくわからないのに泣くことは、よくあります。けれども、発熱や下痢など体調が悪いわけではなく、授乳をしても気分転換をしても泣きやまない・・・それも「1日中」というときは、何かトラブルがあることを疑って受診したほうがいいようです。

今回は、理由がよくわからないけれど1日中泣きやまなかった赤ちゃんに、実はトラブルが起きていたという症例を、北九州八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長である市川光太郎先生に、ご紹介いただきました。

関連:救急医療の現場から#6〜突然の高熱とひどい嘔吐・下痢。原因は離乳食!?

赤ちゃんが朝からずーっと泣いてばかりで心配に

ホットラインの連絡が最も多い時間帯である19時台に、電話が鳴り響いた。救命士からの情報では、「5ヶ月の女児が朝から不機嫌で、だんだん手をつけられなくなったとのことです。到着したときの様子では顔色も良好ですし、哺乳力も問題なく、嘔吐(おうと)などもないし、発熱も認めていません。けれども、確かに不機嫌です。搬送OKでしょうか?」とのことであった。腸管の一部が重なって腸閉塞(ちょうへいそく)を発症する腸重積症(ちょうじゅうせきしょう)を頭に浮かべながら、「どうぞ」と搬送許可を出して、救急室で待つことにした。

ほどなくして到着した救急車から、女の子が母親に抱っこされて降りてきた。確かに顔色も良好であり、救急車に乗っていたせいか、知らない所だからか、キョロキョロして周囲への関心もあり、見た目の全身の状態は良好と判断した。しかし、診察を始めようと母親から離してベッドに寝かせると突然不機嫌に泣きだし、母親が抱っこしても、数分は泣きやむものの、抱かれたまま、また不機嫌に泣きだす状態であった。確かに、不機嫌としか言いようがなかった。

とりあえず泣くのを覚悟で診察したが、通常、乳児の不機嫌に多い、鼠径(そけい)ヘルニア嵌頓(かんとん)(腸の一部などが腹膜の間から飛び出し、足のつけ根あたりに腫れができる。嵌頓は飛び出したものが自然に戻らない状態のこと)も認めず、臍(さい)ヘルニア(へその緒が通っていた穴に腸の一部が脱出した状態)もなく、手足の動きも問題なく、腹部も腫瘤(しゅりゅう)は触れず、腹部の張りもなかった。また、のどの赤みもなく、中耳炎(ちゅうじえん)などの症状を表す鼓膜の赤みもなかった。診察しながら、母親に排便・排尿の具合も聞いたが、いつもどおりで、色も状態も変わりないとのことだった。

念のために、研修医に胸部X線検査と腹部エコー、採血・検尿を行うように指示し、母親から話を聞くことにした。

「昨日まで何もなく元気にしていましたし、夜中と早朝のおっぱいも、いつもの時間に同じように飲んでくれました。ところが、朝、9時ごろ目が覚めてから、何か不機嫌で…。泣き方もいつもと違うのですが、抱っこすれば泣きやんで、おっぱいも飲むし…。長く抱っこしていると不機嫌に泣くんです。外に出ればキョロキョロしていつものように喜ぶので、だんだん自我が出てくるのかなと思って、日中は気を紛らわす感じで過ごしていました。

けれども、夜になってもやはり不機嫌で、なんだか、朝まで待たないほうがいいのでは、と思いだしたら不安になり、救急車を呼んでしまいました」と話してくれた。

髪の毛が巻きつき足指の先が圧迫されていた!

研修医が持ってきた胸部X線検査と血液・尿検査の結果を、電子画面で見たが、まったく、どこにも異常は認めなかった。もう一度診察をし直すことにして、頭から足先までていねいに見ることにした。すると、最初は気づかなかったが、右足の人さし指と中指の先端の色が変わっているのを見つけた。

ハッと思ってよく見ると、髪の毛が強く巻きついて指を圧迫し、鬱血(うっけつ)していた。「これが痛かったんだ!」と原因がわかった。ていねいに髪の毛を切断して、治療が終了した。

一部始終を見ていた母親は「こんなことがあるんですね」と、つぶやいていた。とくに翌日以降の外来診療もいらないので、帰宅してもらうことにした。

圧迫され鬱血し痛みが起こる「ターニケット症候群」

ターニケットとは、駆血帯(くけつたい)という意味で、圧迫されて鬱血し、痛みが生じる疾患をターニケット症候群といいます。髪の毛、糸くずなどで手足の指が縛られることで、血流が滞って起こります。
赤ちゃんが寝る場所は、髪の毛などが散乱しないよう清潔にしましょう。不機嫌が続く場合は、頭から足の先まで観察することが重要です。

★赤ちゃんの不機嫌が続くときは…

1.発熱がなく不機嫌な場合は、鼠径ヘルニア・臍ヘルニアのことも。途切れ途切れに泣く場合は、腸重積症の可能性もあります。

2.乳児期以降でも男の子の場合は、おちんちんにターニケット症候群が生じることもあるので注意しましょう。

3.いつもと違う不機嫌、泣き方のときは、自己判断せずに診療時間外でも早めに受診しましょう。

市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。

■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。

※監修者情報を補足・修正しました。(2021/11/10)

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