5才過ぎの「夜尿症」対応は、起こさない・怒らない・あせらない・ほめる・比べない5原則で【専門家】

昼のおむつははずれたけれど、まだ夜はおむつ。この状態はいつまで続くのかな…と心配になっていませんか。そこで、おねしょと夜尿症の違いや治療法のこと、また、同じような悩みを持つママの気がかりに対して、「おねしょ卒業!プロジェクト委員会」委員長を務める兵庫県・医療福祉センターさくら・院長の服部益治先生にアドバイスをもらいました。
おねしょは病気?
昔、おねしょはよくあること、時がたてば治るものとして扱われてきました。しかし今ではおねしょは一定の条件がそろうと「夜尿症」という症状とされていると服部先生は言います。
「5才を過ぎて週に3回以上おねしょをし、それが1カ月以上続く場合は受診すると安心です。診察や検査で『夜尿症』と診断されることがあります」(服部先生)。
夜尿症の原因は大きく3つ
それでは、なぜ夜尿症にかかるのでしょうか。
「おねしょの原因は大きく3つあり、いろいろな状況が重なりあって起こります。
まずひとつは、夜寝ている間に作られている尿の量と、尿をためる膀胱(ぼうこう)の大きさとのバランスがうまくとれていない、ということ。
ふたつめは、抗利尿ホルモンの分泌量。寝ているときおしっこが出ないよう、尿を濃縮して量を減らすホルモンなのですが、この分泌がなんらかの理由で少ないとおねしょをしやすくなります。
3つめは睡眠。睡眠の質と抗利尿ホルモンの分泌には関係があることがわかっています。
これら3つはすべて生活スタイルとかかわっています。たとえば、膀胱がまだ成長していないのに、寝る前に大量に水分をとってトイレに行かないとおねしょしやすくなるのです」(服部先生)
夜尿症の治療ってどんなもの?
夜尿症治療の基本は生活スタイルの見直しにある、と服部先生は言います。
「まずは、夕食後の水分を控える、寝る前に必ずトイレに行くなど生活指導から行います。生活指導のみで6カ月以内に治る場合もあります。
生活指導のみでは改善がなく、さらなる対応を同意できれば、薬物療法またはアラーム療法どちらかを追加します。アラーム療法は保険適用がないうえ、夜中に保護者が起きなくてはいけません。まずは保険適用の薬物療法を選ぶケースが多いです。この2本立ての治療を続け、長くとも1年半後くらいには改善するのが一般的です。ただ、最近では長引くケースも少なくありません」(服部先生)
治療が長引く原因は子どもを取り巻く現代生活の環境にあると服部先生は言います。
「塾や習い事などによる遅い時間の夕食、テレビ、スマホ、ゲームなど光を浴び続けるといった生活は睡眠の質を下げ、治癒を遅らせます。また、家庭内、学校、社会でのストレスも影響します。先日もコロナウイルス拡大による夜尿症再発例を2名診察したばかりです」(服部先生)
起こさない、怒らない、あせらない、ほめる、比べない
「夜尿症と向き合う保護者に提言しているのが【起こさない、怒らない、あせらない、ほめる、比べない】の5原則です。
まず、起こさない。夜中に起こすと睡眠リズムが乱れて抗利尿ホルモンに影響を与えます。
次に怒らない、あせらない、ほめる。病気はしかって治るものではありません。おねしょをしなかった朝にほめることで減少効果があることもわかっています。
そして比べない。きょうだいやお友だちと比べることが子どものストレスになり、抗利尿ホルモンに影響を与えます。
あの坂本龍馬も13才ごろまでおねしょをしていました。おねしょで人生は決まらない、と私はお話しています」(服部先生)
ママ・パパの気がかりQ&A
おねしょや夜尿症に悩むママ・パパの気がかりに、服部先生が答えてくれました。
【1】5才を過ぎました。受診したほうがいい?
【ママ・パパの気がかり】
先日、5才になった女の子です。寝る前は水分をとらず、トイレもなるべく行っていますが週に5日は、朝にはおむつがパンパンです。受診すべきか迷っています。
【服部先生のアドバイス】
5才を過ぎてもひんぱんにおねしょするなら医療機関を受診、というのがひとつの目安になっています。(表1参照)
月に1回以上、3カ月以上おねしょが続いている場合は「夜尿症」と診断されることもあります。ただ、夜尿症は命にかかわるものではありません。小学校入学までに、など受診のタイミングは保護者の考えでいいと思います。
注)※1~2カ月間、生活習慣の見直しに取り組んでも改善が見られない場合は医療機関の受診を検討。※※受診を推奨。
【2】6才で受診。様子を見ようと言われましたが大丈夫?
【ママ・パパの気がかり】
体格は大きいほうですが、6才になっても夜のおむつがとれません。週に5回はおねしょしています。最近泌尿器科を受診しましたが、異常なしという診断。「まだ幼稚園児なら大丈夫」と言われました。このまま様子を見てよいのでしょうか。
【服部先生アドバイス】
心配なら、小児科の受診をおすすめします。夜尿症は身体だけでなく心や生活習慣とも大きく関係しています。小児科医は子どものこと、子どもを取り巻く環境を踏まえて診察をします。また違ったアドバイスがもらえると思いますよ。
【3】夜尿症には育て方やストレスが関係しているのでしょうか
【ママ・パパの気がかり】
6才で、夜尿症で通院しています。服薬もしていますがなかなかよくなりません。昨日の受診で「原因のほとんどはストレスだから」と医師に言われ、落ち込んでしまいました。育て方に問題があり、ストレスになっているのでしょうか。
【服部先生アドバイス】
夜尿症は育て方やしつけには関係がありません。ただ、ストレスとは関係があります。夜尿症の子は、自分のおねしょをとても気にしています。そのストレスが睡眠を妨げ、抗利尿ホルモンに関係することがあります。また、夜寝る前に怒ったり、「今夜は失敗しないでね」と脅したりするのもよくありません。
薬が効くようになると子どもに自信がついていきます。最終的には自分で自分の夜尿症をなおす、というのが治療の目的です。あせらず、薬が効くのをもう少し待ってみてはいかがでしょうか。
お話・監修/服部益治先生 取材・文/岩崎緑、ひよこクラブ編集部
心配なら、まずは小児科医に相談してみてはいかがでしょうか。ママが安心できて笑顔になることが子どもにとってもプラスになるはずです。
服部益治先生(はっとりますじ)
Profile
医療福祉センターさくら・院長。兵庫医科大学特別招聘教授(小児科学)。
日本小児科学会専門医、日本腎臓学会専門医、兵庫県小児科医会顧問ほか、専門は小児科全般、腎臓病、夜尿症、予防接種、子どもの傷害(事故)予防など。次世代を託す子どもたちに夢大きく心豊かに育ってもらうため、そして素敵な地球を手渡すため活動中。