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血のつながらない子を、本当に愛せるのか…。不安と葛藤。【特別養子縁組で子どもを迎えた家族の体験談】

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10年以上にわたる長い不妊治療の中で、2度の流産と死産を経験した池田麻里奈さん。持病である子宮腺筋症の悪化から子宮全摘出の手術をしたことを機に、生まれたばかりの赤ちゃんを特別養子縁組で迎えることに。周囲の人や子ども自身に生い立ちを伝えるなど、特別養子縁組で子どもを育てることについて話を聞きました。
(上の写真は、1歳の誕生日。子どもの成長の早さに驚く日々)

生後5日の赤ちゃんを迎え入れた途端、自然に母性があふれ出た

池田さんが特別養子縁組で、生まれたばかりの生後5日の赤ちゃんを迎えたのは2019年のこと。登録していた民間の養子縁組のあっせん団体からある日、「紹介したい子がいる」との電話があり、その6日後に池田さんのおうちに赤ちゃんがやってきました。

――特別養子縁組で、赤ちゃんが池田さんのおうちに来た日のことを教えてください。名前は、だれが決めましたか。

池田さん(以下敬称略) 養子縁組のあっせん団体のスタッフさんと待ち合わせをして夫婦で病院に迎えに行きました。看護師さんが赤ちゃんを連れて来てくれたのですが、ふにゃふにゃの新生児の男の子でした。
名前は、生みの親からの依頼があり、私たち夫婦で決めました。特別養子縁組の場合は、名実ともに親子になるまでには裁判所の手続きなどを経て時間がかかります。うちの場合は、9カ月のときに認められました。私の依頼した団体では、名づけなども生みの親の希望が尊重されます。

――実際に赤ちゃんを迎え入れて不安はありませんでしたか。責任の重さから「血のつながらない子を、本当に愛し続けられるのか…」などの不安が頭をよぎることはなかったのでしょうか。

池田 赤ちゃんを迎えるための勉強は、あっせん団体の研修などでしていましたが、実際、赤ちゃんを迎え入れると決まったのは急なことでした。でも迎え入れたと同時にミルクをあげたり、おむつを替えたり、抱っこしてあやしたりと、赤ちゃんのお世話が始まるので、不安に陥る余裕すらなかったというのが本音です。
「血のつながらない子を本当に愛し続けられるのか…」という不安は、特別養子縁組を決める前までは、夫婦ともに抱いていました。でも今、振り返ると養子を迎えると決めてから、あっせん団体の研修などに参加することでしだいに覚悟が決まったと思います。また赤ちゃんを迎え入れたら、自分でも不思議なぐらい、自然に母性があふれ出しました。

写真は、家の庭でのはいはいの様子。7カ月になり、外の世界に興味津々。

養子を迎え入れたら、だれに本当のことを伝えるかというのも気になるところです。でも池田さんは迎えてすぐにオープンにしました。

――赤ちゃんを迎え入れたとき、まわりの人にはどのように伝えましたか。

池田 まず近所の人には隠さずに「養子を迎えたんです」と伝えました。だって妊娠していないのに、急に赤ちゃんを抱っこして歩いていたり、うちから赤ちゃんの泣き声が聞こえたり、赤ちゃんの洗濯物が干されていたら、みなさん「あれ?」と思いますよね。

今、保育園に通っているのですが、入園のときの面談でも、先生に養子であることは伝えています。面談では発育・発達の気がかりやアレルギーの有無などを伝えるため、そのとき一緒に伝えました。この先、たとえばアレルギーなど遺伝性の病気があって「お母さんは、どうですか?」など聞かれたら困ってしまうので…。

また仲がいいママ友だちにも言いました。たわいもない会話から「どこの産院で産んだの?」という話になり、口ごもるものヘンだし、ウソをつくのもヘンだし…。「実はね、私、産んでなくて。うちの子は特別養子縁組なの」と言ったら、驚くほど柔軟に受け入れてくれました。多様化する家族のカタチが浸透しているんだなと思いました。

子どもには出自を知る権利がある!0歳のときから真実告知を

写真は、「あなたが来てから、いろんなことがあったね」とわが子に語りかける池田さん。

国連の「子どもの権利条約」の中には、出自を知る権利が記されています。池田さんもわが子には、0歳のときから出生について伝えていると言います。

――息子さんには、養子ということをどのように伝えていますか。

池田 息子は今2歳ですが、0歳のときから「ここに来てくれてありがとう」と伝えています。また息子が「ママ~」と言ったとき、「あなたには、ママがもう1人いるんだよ」と伝えることもあります。養子という事実だけを伝えればいいのではなく、ここに来たストーリーを伝えるようにしています。私がお世話になった養子縁組のあっせん団体では、真実告知の研修も行っていて、そこでの体験者の話も参考にしています。

――親やきょうだい、親族には、特別養子縁組のことをどのように伝えましたか。

池田 親族のなかには、難色を示した人もいました。多分、どんな制度か詳しく知らないので不安に思っていたのでしょう。しかし赤ちゃんを見ると、みんな笑顔になって「抱っこさせて」「やっぱりかわいいわね」と言うんですよね。みんなに受け入れてもらえることが息子の幸せだと思うので、そこは頑張って、赤ちゃんのときから会わせる努力をしました。

不妊治療の末の流産、死産。つらい経験があったからこそ、何気ない日常が輝いて見える

子どもは今、2歳。イヤイヤ期、真っ盛りだそうです

――子育てはいかがですか。

池田 楽しくてしかたないです。「牛乳飲む?」と聞くと「イヤー!」と言われ、「お茶は?」と聞くと「イヤー!」と言われることもありますが、それすら面白いし、かわいいです。

最近は、よく私のマネもします。私がうがいをすると「ママ、上手~」って、私のマネをしてほめてくれたり、ちょっとぶつけると「痛い?」と心配して聞いてくれたりします。私にエールを送る、小さな応援団みたいです。長い不妊治療の間は、夫婦2人の時間を楽しもうと思った時期もあるのですが、子どもがいる生活はやっぱり格別。朝起きてから、眠るまで幸せが隣にいる感じです。つらい不妊治療や2度の流産、死産を経験したからこそ、今があるのだと思います。

お話・写真提供/池田麻里奈さん 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部

新型コロナウイルスの流行前に、池田さんたちは特別養子縁組をした20組ぐらいのファミリーで大きな公園に集まり遊んだことがあるそうです。みんな、どこから見ても幸せな普通の家族。特別養子縁組は、全国で年間711件(2019年)にのぼり、多様化する家族のカタチの1つになっています。


池田麻里奈さん(いけだ まりな)

Profile
不妊ピア・カウンセラー。「コウノトリこころの相談室」(http://kounotori.me/)主宰。NPO法人日本不妊カウンセリング学会認定 不妊カウンセラー、一般社団法人 家族心理士・家族相談士資格認定機構認定 家族相談士などの資格を持つ。

産めないけれど育てたい。不妊からの特別養子縁組へ

2度の流産、死産を経て、それでも子どもをあきらめなかった夫婦のエッセイ。発行/KADOKAWA

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