2度の流産、出産直前での娘の死。赤ちゃんを亡くした一人のママが、心のよりどころを見つけるまで

2度の流産のあと、妊娠8カ月で女の子を死産した押尾亜哉さん。赤ちゃんを亡くした人にしかわからないつらく、苦しい経験から、自助グループ「アンズスマイル」を立ち上げることに。赤ちゃんを亡くした悲しみは、ママ1人で乗りきれるものではありません。心のよりどころを見つける大切さを押尾さんと、周産期の死別のケアに詳しい、静岡県立大学 看護学部教授 太田尚子先生に聞きました。
自身の経験から、流産、死産で赤ちゃんを亡くしたママを救う自助グループを発足
押尾さんが静岡を拠点に、流産、死産、乳児死で赤ちゃんを亡くした家族の心をサポートする「アンズスマイル」の前進となる、自助グループを立ち上げたのは2012年のこと。
「当時は、静岡に流産、死産を経験したママたちが集まる自助グループがありませんでした。私も妊娠8カ月で娘を亡くしたとき“同じ経験をしているママと話したい”と思ったのですが、交流できる場がなくていろいろ探しました。私のように行き場がなく悩んでいるママは、きっと多いと思って自助グループを立ち上げました」(押尾さん)
自助グループとは、同じ経験をした人たちが集まり、気持ちや体験を分かち合い、自らの課題に向き合う方法を見つけたりすることを支援し合うグループです。
「流産・死産で赤ちゃんを亡くしたママたちが集う自助グループの活動は、自分の気持ちを仲間に聞いてもらう座談会が多いです。つらい気持ちを吐き出したり、自分と同じ経験をしているママの言葉に耳を傾けているうちに、だんだん心が洗われていきます。
最初は、知らない人の輪に入っていくことに抵抗を覚えるママもいるでしょうが、コロナ禍の今はオンライン開催が多いので、比較的参加しやすいと思います」(押尾さん)
つらい気持ちを無理に抑え込むとうつになったりするママも
流産や死産などで赤ちゃんを亡くしたつらい気持ちを無理に抑え込み、立ち直ったように振る舞っていると、心のバランスを崩してしまうママもいるようです。
「とくに死産は“もっと早く病院に行っていれば、赤ちゃんを助けることができたのではないか!?”などと自分を責めてしまいがちです。その結果、うつになるママもいます。死産後、パパと温度差が生じるケースもあり、孤立するママもいます。私も、そうでした。
また中絶したことに悩むママもいます。中絶というと“自分の意思で行った”と思われがちですが、実際はさまざまな事情によりパパや親などから説得され、最善の道を探る時間がないままに手術を受けるママもいます。そのため、赤ちゃんに対して “ごめんね”という気持ちをいつまでも抱きやすいです」(押尾さん)
亡くなった娘は、お空で赤ちゃんたちのお世話を。私は、地上でママたちのお世話を
押尾さんは自助グループ「アンズスマイル」でカウンセリングも行っています。カウンセリングで心がけているのは、ママの気持ちを「ごめんね」から「ありがとう」に変えることです。
「なかには赤ちゃんを亡くしたことで“私は、もう幸せになってはいけない”と思いつめているママもいますが、私は違うと思います。
赤ちゃんは亡くなってしまいましたが、たくさんのことをママに教えてくれたはずです。
私自身もアンズスマイルを立ち上げて、グリーフケアアドバイザーとしてママたちの力になれているのは、妊娠8カ月で亡くなった娘がいたからです。
私はアンズスマイルでママたちのお世話をし、娘はお空で亡くなった赤ちゃんたちのお世話をしているのではないかと思うこともあります。娘と共同作業をしているように感じます。
適切な心のケアを受けると“ごめんね”から“ありがとう”と言える日がきっと来るはずです」(押尾さん)
自分を責めず、亡くなった赤ちゃんが傍らにいるような穏やかな気持ちになることが理想
押尾さん自身は、死産のあと聖路加国際大学で行っていたサポートグループ“天使の保護者ルカの会”に参加しています。当時“天使の保護者ルカの会”の代表をしていたのが、現・静岡県立大学看護学部教授 太田先生です。
太田先生によると自助グループのメリットは、同じ経験をした人と出会い、共感し合えることだと言います。
「自助グループには、さまざまな特徴があるので居心地がいいと思ったところを選ぶといいでしょう。ママのタイプにもよりますが、同じ経験をした人たちに話を聞いてもらい、つらい気持ちに寄り添ってもらえることで、新たな自分や新たな生き方を見つけたりすることもあります。
天使の保護者ルカの会では、ママ1人で悲しみに耐えていたのでしょう、赤ちゃんを亡くしてから10年後に“心の整理がつかない”と初めて訪れた人もいました。また押尾さんのように、赤ちゃんを亡くしてから時間が経過し、自らの気持ちに向き合ってきた体験者が、自助グループのメンバーにいるというのも選ぶポイントです。そうした人は冷静に、広い視野で見る力があります」(太田先生)
赤ちゃんを亡くした悲しい出来事は、いつか忘れられるのでしょうか。
「流産や死産、乳児死は忘れることはけしてないです。つらいと思ったときは、自分の気持ちをノートにつづったり、赤ちゃんのためにお花を添えたり、プレゼントを作ったりするのもいいでしょう。自分を責める気持ちが少し和らぎ、亡くなった赤ちゃんが傍らにいるような穏やかな気持ちに、少しずつ変化していきます」(太田先生)
お話/押尾亜哉さん 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
流産、死産、乳児死を経験したママの心のケアをしてくれる専門機関はまだ少ないそうです。そのため死産、乳児死の場合は、産後1カ月健診のときに産婦人科で心のケアについて相談してみましょう。自助グループ選びに悩んだときは、まずは公式ホームページなどを見て、活動内容や発信されている情報をチェックしたほうがいいと押尾さんは言います。継続して活動しているグループを選ぶことが大切です。
押尾亜哉さん(おすおあや)
Profile
グリーフケアアドバイザー。自身の流産、死産の経験を活かし2012年から、流産、死産、乳児死などで赤ちゃんを亡くした家族の心のサポート活動を行う。静岡を活動拠点にする自助グループ「アンズスマイル」を立ち上げ、代表を務める。日本グリーフケア協会が認定する「グリーフケアアドバイザー1級」、天使力認定コーチの資格を持つ。著書に「やくそく」(アルゴーブックス)。