忘れないで! 1歳はワクチン接種の第2の山場と心得て 【小児科医】
「小児科医・太田先生からママ・パパへ、今伝えたいこと」連載の#44は、1歳の予防接種についてです。予防接種は、赤ちゃんやママ・パパ、周囲の人々を感染症から守る大切なもの。接種は生後2カ月から始まりますが、太田文夫先生は「1歳はワクチン接種の第2の山場。忘れないで、今一度確認を」と強調します。
VPDにかかるリスクを下げる予防接種は、開始時期が大切
この連載で2019年11月に「忘れがち!1歳での予防接種、今一度確認を」を掲載しました。そのときのサブタイトルは、「1歳はワクチン接種の第2の山場と心得るべし!」というものでした。前回の記事からほぼ5年が経過しましたが、その思いは今も変わりません。
子どものワクチン接種時期でいちばん大切なのは、乳児期早期にり患すると一生を棒に振る可能性のあるVPD(※)にかかるリスクを下げるために、生後2カ月になったら早急に接種を進めること。
その次に大切なのは、1歳になったときの接種です。1歳は、かつて命定めと言われて恐れられた麻疹を始め、感染力の高い風疹、水痘、おたふくかぜのワクチンの接種が可能になり、ヒブも入っている五種混合と小児用肺炎球菌の追加接種と併せて接種することで、免疫の獲得と維持をすることです。
今回は、これから1歳を迎えるお子さんに向けて、前回の記事掲載以降5年の間に変更になっていることをお伝えします。
※VPD/Vaccine Preventable Diseases=ワクチンで防げる病気
感染症から守る予防接種の、ワクチン・受け方の変化について
ここ5年間でVPDから守られる範囲が広がりました。
1.四種混合ワクチン(ジフテリア、百日せき、破傷風、ポリオの混合)の接種開始時期が生後3カ月から2カ月に前倒しになっています。主に低月齢でかかると重症化する心配がある百日せきからできるだけ早く赤ちゃんを守るためです。
2.四種混合ワクチンは、ヒブワクチンと1本にまとまり、2024年4月からは順次五種混合ワクチンに代わっています。
3.1歳では五種混合ワクチンを接種できます。(ヒブワクチンは3回接種から1年たつと免疫が下がってきているので、適切な時期に4回目の追加が必要。そのためにヒブの成分の入った五種混合の接種は、以前の四種混合ワクチンのときに多かった1歳半過ぎの接種より早くするほうが効率的です)
4.小児用肺炎球菌ワクチンは、13価→15価と進化してきましたが、2024年10月からは20価製品に変更になります。改良が進むことで、より多くの血清型の感染を防げるようになりました。
5.筋肉注射ができるワクチン(小児用肺炎球菌、五種混合)もできました。接種部位、1歳になってすぐは大腿前外側部です。(世界では筋肉注射がスタンダードです。筋肉注射は皮下注射よりも免疫効果が高く、副反応も小さい傾向にあるなど、メリットの多い注射法です)
五種混合ワクチンが使えるようになって、接種本数が減ったことは赤ちゃんにとってもうれしいことでしょう。全体の接種回数が四回少なくなりました。
同時接種も随分定着してきました。しかし、5年間で変わっていないこともあります。
1.麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜは、1歳の誕生日から接種できます。
2.おたふくかぜワクチンはいまだに任意ワクチンのままです。(助成のある自治体は増加中)
困った現象も起こっています。
2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行や、その後起こった国家間の紛争の勃発によって、従来より行われていた定期接種などの感染症対策に悪影響が出て、全世界的にワクチンの接種率の低下が起こったことです。それにより、麻疹のアウトブレイクを招いたり、住環境の悪化により、もう一歩で排除達成と思われてポリオ患者が発生したり、困った現象が起きています。
今までの経験では、いったん下がった接種率の回復には長い年月を要します。
ワクチンの効果を期待するには、高い接種率を維持することが大切
ワクチンは高い接種率を維持することでVPDの発生やまん延を防いでいます。予期せぬトラブルで生活環境が変わり、その影響がワクチン接種率低下にまで波及すると、あっという間に姿をひそめていたVPDが顔を出し始めます。そんな病気は見たことも聞いたことがないから接種は不要だとは考えないでください。
接種率を高く維持できているから、まわりの人もかからなくなっているのです。接種したくても接種できない人もこうして守られるのです。定期接種として流通しているワクチンは、安全性が高く、効果も高い実績がある医薬品です。普段元気なお子さんだからこそ、接種できる年齢になったら、1日でも早く接種を済ませて自分もまわりの人も守れる安心安全な生活を続けましょう。
1歳になっての予防接種は忘れてはいけない大切なイベントです。くれぐれもお忘れなく。
文・監修/太田文夫先生 構成/たまひよONLINE編集部
現在紛争が起こっている地域で生活環境が悪化した結果、ポリオ患者が発生しましたが、紛争当事者間で合意が得られ、生ポリオワクチン一斉投与のために一時停戦することに。太田先生は「紛争より感染症排除を優先すべきだということは、紛争当事者間でも共通理解されてはいるようですが・・・、これがきっかけで紛争そのものも終結に結びついてほしい」と話します。
●記事の内容は2024年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。