2025年9月、日本の「風疹排除」が認定!感染症対策上、10年ぶりの快挙!その背景は?【小児科医】
2025年9月26日、世界保健機関(WHO)の西太平洋地域事務局によって、日本は「風疹の排除状態」にあると認定されました。「2015年3月に麻疹が排除状態にあると認定されたと同じく、感染症対策上10年ぶりの快挙です。今後日本国内では土着ウイルスによる風疹の流行は起きないということです」と小児科医の太田文夫先生は話します。
「小児科医・太田先生からママ・パパへ、今伝えたいこと」連載の#53は、風疹の排除認定についてです。
麻疹排除に遅れること10年、風疹排除が認定された
麻疹は空気感染でとても感染力が強く、症状も重く、命定め(かかったらあっけなく命を落とすことがある)と恐れられている病気です。
それに引き換え風疹は、症状は麻疹に似ているが、飛沫感染で感染力は強くなく、罹患しても大半の患者は軽症で治ってしまうので、軽んじた感じに「三日はしか」とも言われています。
そのため麻疹の排除計画は綿密に組まれました。ワクチン未接種時代には、大半は青年に至るまでに自然罹患して免疫を持っており、2回の定期接種の接種率を上げれば排除が可能と想定され、2006年から始まったMRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)2回接種制度(※1)の普及により、約10年前、2015年3月に麻疹排除が達成されました。
※1:1歳になったときと、小学校入学の前年の2回が定期接種になっています
軽く考えられていた!?風疹
風疹は麻疹に比べて感染力が強くないとはいえ、脳炎になって命を落とすこともあるし、妊婦がかかると生まれた子が目や耳や心臓に病気を持って生まれる先天性風疹症候群(以下、CRS)になることもわかってきていました。
風疹は、同じMRワクチン接種をしているにもかかわらず、2012〜2013年に大流行し、その関連で45例ものCRS患者が生まれてしまいました。なぜ麻疹と風疹の排除時期がずれたのでしょうか。
時代や性別によって接種機会が異なっていた風疹ワクチン
少し時代をさかのぼって解説します。風疹ワクチンが完成し、日本で予防接種に組み入れられたのは1977年のことでした。しかし対象は中学生の女子だけの集団接種でした。妊婦がかからなければCRSの子は生まれないという発想だったのでしょう。
しかし、いったん流行すれば妊婦がかかることもあるため、CRS予防対策として、性別を問うことなくワクチンも早めの接種に変更。1989年~1993年にかけて麻疹の定期の予防接種として男女の幼児の希望者に対してMMRワクチン(麻疹・風疹・おたふくかぜ混合ワクチン)の使用が可能になりました。
1995年4月に男女幼児に接種対象者が変更されると同時に、1995年4月~2003年9月にかけて中学生男女を対象に接種が行われました。
その後、2006年4月から前述したMRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)の使用が開始され、同年6月から1歳児と小学校入学前の1年間の幼児への2回接種に変更されました。
2008年~2012年までの5年間は、中学1年生と高校3年生相当の年齢にも接種されました。
しかしそれだけでは、CRS排除対策としては不十分でした。1度もワクチン接種対象になっていなかった上の世代の男性への対策が必要だったのです。
成人男性への定期接種を
風疹が流行したときのCRS児誕生の報に意を決して、自分たちと同じ体験をさせてはいけないと活動を始めた女性たちがいます。CRS児を出産した母親たちが立ち上げた「風疹をなくそうの会 “hand in hand”」です。彼女たちの必死の訴えも届いて、2019年、ついに成人男性風疹排除対策の風疹第5期定期接種(昭和37年度~昭和53年度生まれの男性が対象)の実施が決定。
国の目標は、2020年の東京オリンピックまでに排除達成と意気込んでいましたが、突然降ってわいた新型コロナウイルス感染症流行により思うように対策が進まず、ついにはオリンピックが1年延期になるなど、苦しい時期がありましたが、制度を利用した男性の接種率が上がった効果がやっと出てきたのです。
2020年3月以降、日本国内の土着風疹ウイルスによる感染例がないことが確認され、やっと排除状態の認定(※2)をもらえました。
今回の風疹排除認定は、麻疹・風疹排除を願っていた人たちにとっては、願望達成ということです。とくに、風疹をなくそうの会“hand in hand”メンバーは、CRS児出生リスクが大幅に下がる日が来たと安堵しておられました。
※2:風疹排除の認定基準は、土着株による感染が3年以上確認されていないこと、質の高い感染動向調査があること、遺伝子型の解析によって感染伝播が断ち切られたと示せること
これからもワクチン接種による予防は大切
しかし、排除認定がされても、麻疹も風疹が完全になくなったわけではありません。その証拠に今年、2025年の麻疹患者数は例年より報告数が増えています。日本周辺にはまだ麻疹排除が達成できていない国々があります。未排除国で流行が起きれば、日本に持ち込まれます。今年の患者発生もそのためです。
風疹についても同様のことが起きます。そういう状況でも発症者を出さないようにすることが肝要です。そのためには、いつも高いワクチン接種率を保っておかねばいけません。現に、コロナ禍以降、世界中で、麻疹・風疹を防ぐワクチンの接種率が下がる傾向があり、うかうかしていると排除達成の認定取り消しになる地域も出るかもとも言われています。そうならないためにもMRワクチンの2回接種を受けて、排除認定維持に努めましょう。
初回接種のタイミングは、かつてのキャンペーンロゴの「1歳のお誕生日を迎えたらMRワクチンを打ちましょう!」です。これは、今でも大事な合言葉です。2回目の接種は就学前の1年間です。接種期限は、4月1日から、3月31日までですが、早めに接種を済ませておくと安心です。
ワクチン接種が普及すると、その地域での対象の疾患は影を潜めますが、ウイルスや菌の完全排除には至りません。最近流行しているって聞かないから「もうワクチンは不要だ」と思ってはいけません。ワクチン接種を受ける人が多いから疾患が抑えられているだけだ、ということを忘れないでください。
文・監修/太田文夫先生 構成/たまひよONLINE編集部
「排除」は、地球上からウイルスが根絶した「撲滅」とは異なります。日本のおける排除認定ですので、海外からウイルスが持ち込まれるリスクは存在します。集団免疫への意識を忘れないようにしましょう。
●記事の内容は2025年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。


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