【小児科医リレーエッセイ 1】早生まれの子どもの発達のマイルストーンとは?
新学期の時期になると聞こえてくるのが「早生まれ」の子どもをもつお母さん・お父さんの心配の声。「お友だちと仲よくできるだろうか」「クラスのみんなと同じことができるだろうか?」などまわりの子どもとの発達の差を気にすることがあるようです。
「日本外来小児科学会リーフレット検討会」の先生たちから子育てに向き合っているお母さん・お父さんへのメッセージをお届けします。第1回は富山・八木小児科の八木信一先生です。
新学期、子どもがまた大きく育つタイミングです
子をもつ親としてはわが子の健やかな育ちをいろいろな形で応援したいですよね。
【這えば立て、立ててば歩めの親心】の原文は【はへばたて 立てば歩めと思うにぞ 我身につもる 老をわするる】というらしく、1707年に井上河州という方が詠んだものだそうです。親というものは子どもの成長過程の節目ごとに一喜一憂しながらそばで見守り、自分の老いることもつい忘れてしまうほど子育てに夢中になる様子を表現しているのだと思います。
さて、桜の開花が待ち遠しいのと同じくらいにわくわくする子育て世代のイベントの一つに、入園・入学、新学期スタートがあります。新しい世界へ小鳥が巣から飛び立つような第一歩ですね。小鳥にたとえると巣立ちというのですが、巣立つ(すだつ)を読み替えて育つ(そだつ)と考えてみるといいかもしれません。
早生まれと遅生まれで損・得はあるのか!?
小学校入学の時期になると必ず、子どもの早生まれや遅生まれという概念が話題になります。中にはどちらが得か損かなど、生まれた年月日で損・得はあるの?といった話がネットで取り上げられたりもします。
小学校の入学については、学校教育法で「満6歳に達した日の翌日以降における最初の学年の初めから」就学することになっていて、カレンダーでの入学年度における1月1日から4月1日までに生まれた人は(4月1日生まれの場合は前日の3月31日の24時をもって満6歳となります)「早生まれ」となります。4月1日生まれのお子さんの場合は前年度の4月2日以後に生まれたお子さんと入学することになり、7歳で入学式を迎える子どもたちと6歳で入学式を迎える子どもたちの中で1年近くも誕生日に差があることになります。
「早生まれ」の子どもにこそ「ほめ育て」がいいかもしれません
S君というある1人の少年の話をしたいと思います。S君は4月1日生まれだったので、同級生とはおおむね1年の生活歴の差がありました。体格はよかったので見た目は比較されることがありませんでした。小学校は2年ごとに転校を繰り返して3つの小学校を渡りあるいたので、それぞれの地域でたくさんのお友だちができました。しかし、転校を繰り返しているうちにいつしか授業に集中できなくなり宿題もしなくなっていきました。
そのころ、周囲の大人は、早生まれだからいずれ大器晩成として芽が出る時期もくるであろうと見守り、気がつけば中学2年生も終わろうかという時期になっていました。S君は早生まれということをなんとなく自分の言い訳にして過ごしていたので、相変わらず宿題もせずのんびりしていました。いつしか学校もつまらなくなり遅刻や不登校気味にもなりました。
宿題や課題に取り組んでもいつも半分しか達成できずにいたのですが、逆に考えると半分程度はこなせていたのですね。それを見た祖父母はできた半分をほめることを繰り返し、
励ましながら接することを心がけたといいます。また、中学2年生であっても1年生の課題からやり直すことを親せきのお兄さんの助言で始めることにしたのです。もちろんほめる言葉を添えながら・・・。
子どもには自尊感情というのがあります。ささいなことでも誰かに認められるとか、頼りにされている、認められることで達成感を味わい言い訳をやめて、自己肯定感を高める意欲がわいてくることがあるのです。できないことをやるのではなく、できることを積み重ねていくことを支えてくれる環境が大事なのですね。
発達のマイルストーンを参考にしながら、見守り育てることが大切
われわれ小児科医は子どもの発達を観察するときに、発達のマイルストーンという指標を参考にします。たとえば子どもたちは歩き出しでいきなりケンケンをするわけではなく、ケンケンができるようになるためには、三輪車がこげるようになるとか片足立てができるようになるなど段階的に指標になる機能が育っていることが大切です。マイルストーンとは、子どもの年齢ごとに精神や運動機能など発達段階でどのようなことができるようになっているかの見るためのものです。
しかし、これには個々の個性や経験スキルなども影響するものですので、小児科医のマイルストーンだけでなく、お母さん・お父さんが自分の子どものマイルストーンを見つけて、示して、寄り添うことが大切です。見守り育て、巣立ちをうまくサポートできることが重要だと思われます。それこそが【這えば立て、立ててば歩めの親心】ではないでしょうか。
話を戻しますが、ささいなことをほめられたS君は、コツコツ宿題をこなしていくうちに目標を見つけることができたようです。小児科医になって子どもたちの発達にかかわる仕事をしたいと思うようになりました。そんな彼は小児科医になって現在、この原稿を書いています。
文/八木信一先生
(八木小児科・副院長)
八木信一先生
1958年4月1日 石川県金沢市生まれ。その後、札幌や杉並区高円寺で一時期を過ごし、富山市で小学・中学時代を送る。高校から大学2年まで倉敷市で全寮制の学生生活を経験。社会性を学ぶ体験に。社会活動としては知的障害のある子どもたちの「スペシャルオリンピックス富山」のスキープログラムのコーチや日本自閉症協会富山県支部長なども務める。趣味は、空手、サーフィン、スキーなど。
(構成/ひよこクラブ編集部)