考える力の土台になるのは言葉!子どもの語彙を増やす方法
子どもが新しく言葉を覚えたとき、親もうれしい気持ちになりますよね。一方で、同年齢の子ども同士を比較して「うちの子、言葉が少ないけど大丈夫かな?」と心配になることもあるかもしれません。言葉の数、すなわち語彙力は、考える力の土台となる大事な力。伸ばせるものなら伸ばしてあげたいけれど、いったいどのようにすれば語彙が増えるのでしょうか。また、語彙が少ないことを心配する必要はないのでしょうか。子どもの社会性の発達に詳しい白百合女子大学人間総合学部の秦野悦子先生(発達心理学)に、語彙が増えることのメリットや、語彙を増やす方法を教えてもらいました。
生活経験が豊かなほど語彙が増えていく
――同じ年齢の幼児でも、語彙の多い子、少ない子がいます。どうして差がつくのでしょうか?
秦野先生:幼児期の子どもに、課題学習的に頑張って言葉を覚えさせようとしても、それはなかなか難しいことです。子どもたちは生活経験から言葉を覚えているので、生活にかかわりのない言葉には興味や関心を示さず、覚えようとしません。たとえば小さい子どもにとっては、川も海も水たまりも一緒です。海に行ったり、水たまりに足をつけたりして、「これが海なんだ」「水たまりなんだ」ということがわかります違いがわかるようになります。保育園や幼稚園でも、入園したばかりの子どもは「遠足」という言葉を知りません。行ったことがないので想像もつきません。しかし一度経験すれば、「これが遠足なのか」とイメージを持つことができます。子どもは経験によって言葉を覚えていくので、「語彙が多い子どもは、生活経験が豊かである可能性が高い」という想定はできます。
――子どもにとって、語彙が多いことにはどんなメリットがありますか?
秦野先生:語彙が多いと、表現できる可能性が高くなるので、自分の思っていることを相手に伝えやすくなります。そのため、子どもは「自分の思っていることが伝わった」という、喜びを感じやすくなるでしょう。言葉が伝わることにより、体験を共有したり、相手に共感したりできます。人と同じ気持ちになれることも、子どもにとって大事な成功体験の一つです。転んで痛い思いをしたときも、大きなけがでなければ、「痛かったね」「痛いの痛いの飛んでけー」のひと言で子どもの気持ちは立ち直ります。初めて行く場所で子どもが不安を高めているときでも、「大丈夫だよ」のひと言で勇気がわきます。言葉を通じたさまざまなかかわりが、子どもの語彙理解を広げ、表現力を高めていく基盤となります。
――子どもの語彙が少ないことに、心配するママ・パパも多いと思います。
秦野先生:表現できる語彙が少なくても、子どもにはいろいろな感情や気持ちがあります。そのため、気持ちがうまく伝えられない場合、伝わらないイライラや葛藤がもととなって、物を投げたりお友だちをたたいたりという行動が見られることがあるかもしれません。でもそれは、生活の広がり、人とのかかわりの中で語彙が広がるまでの発達過程途上の一時的なことなので、心配しすぎることはありません。また逆に、たくさんしゃべる社交的な子どもほど人間力が優れているというわけでもありません。しゃべるかしゃべらないかは個人差があるので、その子なりに語彙が増えていくことを見守りましょう。
子どもの語彙を増やす3つの方法
生活経験が豊かなほど語彙が増え、相手に共感しやすくなる――。では具体的に、どのような方法が子どもの語彙を増やすのでしょうか。今日から始められる「子どもの語彙を増やす方法」を、秦野先生に教えてもらいました。
①動作と言葉をセットで覚えてもらう
「あいさつはこういうふうに言うんだよ」と理屈や知識を教えるだけでは、子どもはなかなか覚えてくれません。生活の中で、人にぶつかったら「ごめん」と言う、何かをもらったら「ありがとう」と言う。動作と言葉のタイミングを覚えてもらうことが大切です。秦野先生によると、このとき、気持ちを込めて言わなくてもいいとのこと。大事なのは、生活習慣としてその言葉が出てくるかどうかなんだそうです。
②目に見えないことを言葉にする
「このお花、きれいだね」「今日はぽかぽかして気持ちいいね」といったように、親が感じたこと、思ったことを言葉にしてみましょう。目に見えないことを言葉にすることで、子どもは「こういうのが『きれい』っていうんだ」「こういうのが『ぽかぽか』っていうのか」とわかるようになるそうです。子どもと一緒にいろいろなことを感じて、それを言葉にしてあげましょう。
③好きな本を繰り返し読む
秦野先生によると子どもが好きな本を繰り返し読むことも、語彙を増やすための効果的な方法の一つ。この際、本の種類や適正年齢は気にしなくてもいいとのこと。「こういう本はあまりよくないんじゃ?」と思わずに、子どもが好きな作品を繰り返し読むことで、言葉の心地よさが伝わり、語彙が増えていくのだそうです。
子どもは普段、親の姿をよく見ています。「きちんとあいさつしようね」と言っても、親自身ができていないと、子どももなかなかあいさつを覚えてくれないかもしれません。また、「疲れたー」「だるいー」が口癖になっていると、子どもも同じようにそれが口癖になってしまうかもしれません…。あまり神経質になる必要はありませんが、自分の行動や言動が子どもにも影響を与えているという自覚は持っておいたほうがよさそうです。親も豊かな言葉を用いて、子どもに接したいですね。(取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部)
監修/秦野悦子先生
白百合女子大学大学院文学研究科発達心理学専攻、人間総合学部発達心理学科教授(学科長)、発達語用論、障害児のコンサルテーション、子育て支援が専門。『子どもの気になる性格はお母さん次第でみるみる変わる』(PHP研究所)など著書多数。