換気が重要!新型コロナウイルス「一斉休校と学童のリスク」元WHO村中璃子医師が特別寄稿
感染が広まりつつある新型コロナウイルス。共働きのママ・パパたちからは「学童が不安……」という声が聞かれるようになりました。ママやパパになにかできることはあるのでしょうか? 公園で遊ばせてもいいの? 子どもが風邪っぽい時はPCR検査を受けさせたほうがいいの? さまざまな疑問があると思います。
そこでWHOの新興・再興感染症チームの勤務を経て、現在は医業の傍ら執筆活動を続けている村中璃子医師に、一斉休校の始まった3月2日時点でいえることを寄稿してもらいました。2回にわけてお届けします。
新型コロナウイルス緊急寄稿1 一斉休校と学童のリスク
3月2日から始まった、全国一斉学校閉鎖。学校は休みになったけど、お子さんを学童にあずけるという方もいるでしょう。教室よりも狭い空間で過ごす学童は「かえってリスクが上がるかも」という心配の声も。学校や学童での新型コロナウイルス集団感染のリスクについて解説します。
インフルエンザとは違う
学校閉鎖や学級閉鎖と聞いて、真っ先に思い浮かぶのがインフルエンザです。今回の一斉休校も、インフルエンザをイメージしての判断かもしれません。しかし、新型コロナはインフルエンザではありません。WHOはこのところ特に、新型コロナの子どもへの感染率は低く、「インフルエンザのように学校での集団感染を起こすようなウイルスではない」というメッセージをくり返し発表しています。
新しいウイルスだけに断定はできないのですが、少なくとも一斉休校の決まった2月27日現在、ウイルスの性質から考えると、新型コロナによって学校でも学童でもクラスの子が一度に何人も感染してしまうような、いわゆる「集団感染」が起きるリスクは低いと考えられていました。
実際、日本でも子どもの感染者が何人か報告されていますが、その子たちのいた学校で集団感染が起きていたという報告はありません。また、私の知る限り、中国を含む海外でも集団感染が起きているといった報告はなく、感染した子どものいる学校を一時的に閉鎖したり消毒したりするだけで、その後、学校で集団感染が起きているという報告もないようです。
子どもたちの集団生活を厳密に制限するよりもずっと大切なのは、たとえ軽くても、熱や風邪の症状があれば、学校や学童はお休みにしてもらうことです。普段なら、ちょっとしたのどの痛みや軽い咳であれば無理して学校に行かせることがあるかもしれませんが、今はがまん。集団感染防止の基本は、「うつらない」ことではなく「うつさない」ことです。
また、子どもたちが集団生活を行う場に、大人がウイルスを持ち込まないことも大切ですので、学校や学童の職員の方、休みで時間を持て余した子どもたちの面倒を交替でみあうといった親御さんたちにも注意が必要です。
集団感染のリスクを減らすコツ
とはいっても、やはり心配はありますよね。
しかし、学校でも学童でも、子どもたちが自宅で集まって遊ぶようなシチュエーションでも、集団感染のリスクは工夫次第でかなり減らすことができます。
ポイントは「換気」。同じコロナウイルスの仲間のSARS(重症呼吸器感染症)が流行した時も、エレベーターや窓のない隔離病棟など「閉鎖空間」を通じて感染が拡大しました。病棟の窓を開け放って治療にあたったベトナムの病院では院内感染を予防できたことは有名です。
日本でも2月26日までに発生した、10のクラスター(集団発生)に関する感染者110人について分析したところ、「換気していても空気がよどみがちな屋内の狭いスペース」で集団感染が起きていることが明らかになっています。
学校の教室のような窓のある空間は「換気していても空気がよどみがちな屋内の狭いスペース」にはあたりません。定期的に窓を開けて換気を行えば、空気がよどんだ状態を十分に避けることができるからです。政府は1時間に1回は窓を開けて換気を行うことを推奨していますが、お天気のいい日にはできるだけ屋外で遊ばせる、同じ部屋にいるお子さんが多い時はもっと頻繁に換気するなどを心がけてもよいと思います。
新型インフルエンザの患者さんを治療または看病する場合には、1時間に4回、15分おきの換気が推奨されました。
もちろん、これは症状がありウイルスをたくさん持っている患者さんがいる部屋での話ですので、症状のない子どもたちが元気に過ごしているような部屋ではそこまで神経質になる必要はありません。
教室やトイレのドアノブや階段の手すりなど、子どもたちがよく触る場所のアルコール消毒も有効です。アルコールの消毒剤が手に入らないという声や、アルコール濃度が低い消毒剤しかないといった声も上がっていますが、60%以上のアルコールであれば効果がありますし、薄めた台所用漂白剤や食器用洗剤で掃除しても効果があることを覚えておいてください。
「念のため」なら受診はNG、「いつもと違う」ならすぐ受診を!
はじめに学校や学童は「ちょっとした症状でもお休みさせてください」という話をしましたが、軽症なのに病院に行って、新型コロナかどうかを検査してもらうのはNGです。現段階では、日本におけるかぜ症状の患者さんの9割以上が新型コロナ以外の病気でしょう。子どもが集団生活を行う学校や学童に不安を感じられている方もいるかもしれませんが、病院は、学校や学童とは比べ物にならないほど、新型コロナの感染者がいる可能性の高い場所です。
3月6日からPCR検査が保険適応になり、どこの病院でも検査できるようになりましたが、普通のクリニックや病院では、手袋や特別なマスク、ゴーグルやフェイスシールドなど検査をする医師のための防護服がないため検査は実施できません。検査ができるのは今までどおり指定病院だけ。一般の病院でできるのは「入院が必要な状態かどうか」の判断だけです。
無理して検査のできる病院まで行けば、別の病気なのに逆に新型コロナに感染してしまう可能性もあります。軽症での受診は避け、4日待っても熱が下がらないなど体調がよくならないときは保健所や相談センターに電話をまず相談を。検査が必要だと判断されたら受診しましょう。
とはいえ、4日待たなくても「いつもとは違う」と思ったら、迷わず受診してください!新型コロナでも他の病気であっても、治療が必要な可能性が高いでしょう。
ちなみに、PCR検査の結果が新型コロナ陽性でも陰性でも、治療は同じです。軽症であればいつもの解熱剤や風邪薬が出るだけだし、重症であれば入院です。現在は軽症でも新型コロナであれば入院させていますが、今後は軽症であれば自宅隔離になる方針です。
PCR検査は「念のため」に調べて安心するためのものではありません。政府の方で流行の広がりを確認し、入院治療が必要かどうかを判断するためのものであることを理解して、病院に押しかけないようにしましょう。限られた医療の席は、本当に治療や検査が必要な人に譲り、自分や自分の家族がそうなったときにもちゃんとその席があるようにみんなで協力しあいましょう。
文/村中璃子
村中璃子先生
PROFILE
医師・ジャーナリスト。一橋大学社会学部出身、北海道大学医学部卒。京都大学医学研究科非常勤講師。WHOの新興・再興感染症チームの勤務を経て、現在は医業の傍ら、執筆や講演活動を行っている。2017年、科学誌『ネイチャー』等主催のジョン・マドックス賞を、日本人として初めて受賞。海外メディアにもたびたび取り上げられ、世界からも注目を集める。著書に、『10万個の子宮 あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか』 (2018年、平凡社刊)。