ロタウイルスワクチン/5才ごろまでに大半の子がかかる、嘔吐下痢が激しいロタウイルス胃腸炎を予防。2020年10月から定期接種に
患者の4分の3が0~2才児で、5才までにほとんどの子がかかるといわれるロタウイルス胃腸炎。重度の下痢や嘔吐が続き、肝機能障害や脳症を起こすリスクもあります。ロタウイルスワクチンの受け方や受ける時期、副反応などについてと、ロタウイルス胃腸炎の症状や最近の患者数について、小児科医で神奈川県衛生研究所 所長多屋馨子先生に解説してもらいました。
ロタウイルスワクチンの初回接種は、14週6日までに終わらせることが重要
・定期接種(2020年10月から)
・生ワクチン
・経口接種(スポイトのようなワクチン容器から、直接口に入れて飲ませる)
ロタウイルスは感染力が強く、5才までに95%以上の乳幼児が感染し、感染すると激しい嘔吐下痢症状が現れるロタウイルス胃腸炎を引き起こします。
諸外国では、ロタウイルス胃腸炎はワクチンによって予防するのが一般的で、日本でも2011年に2回接種のワクチンが任意接種でスタート。12年に3回接種のワクチンも承認されました。
なお、重症複合型免疫不全症※1の赤ちゃん、腸重積症※2にかかったことがある赤ちゃん、先天性消化管障害(メッケル憩室※3など)を持っている赤ちゃんは接種できません(治療が完了した赤ちゃんは接種可能)。
※1重症複合型免疫不全症:先天的にT細胞の数や機能に異常があり、またB細胞の抗体産生も不十分な病気。
※2腸重積症:腸の一部が、腸の内部へ入り込んでしまうことで起こる症状。
※3メッケル憩室:小腸の中間部分にみられる袋状の突起物。
<2020年10月から定期接種に>
2020年10月から定期接種になりましたが、対象になるのは20年8月以降に生まれた赤ちゃん。7月までに生まれた赤ちゃんは、生後2ヶ月になったら任意接種でロタウイルスワクチンを受けましょう。
【予防接種の受け方と時期は?】ワクチンの種類で接種回数が変わります
現在、日本では「ロタリックス®」「ロタテック®」の2種類のロタウイルスワクチンが承認されています。
ロタウイルス胃腸炎の主な原因となるロタウイルスにはG1、G2、G3、G4と、P1A〔8〕を含むG9などの型があり、「ロタリックス®」はG1の1価ワクチンですが、ほかの型も一緒に予防します。「ロタテック®」は5つの型すべてを含む5価ワクチンです。
「ロタリックス®」は2回接種、「ロタテック®」は3回接種します。
どちらも6週から接種可能で、「ロタリックス®」は24週までに、「ロタテック®」は32週までに接種を終わらせる必要があります。どちらのワクチンも初回接種は14週6日までに受けることが大切です。それ以降は、腸重積症の発症頻度が高くなるため、接種はしません。
どちらのワクチンを扱っているかは医療機関によって異なります。どちらかで受け始めたら、最後まで同じワクチンを受けます。途中で変更はできません。引っ越しなどでどうしても同じ種類のワクチンを受けられない場合は、お住まいの市区町村に相談してください。
【おすすめの受け方は?】初回は遅くとも14週6日までに接種して
初回接種は、2ヶ月のときヒブ、肺炎球菌(13価結合型)ワクチンなどと同時接種するのがおすすめ。同時接種ができなくても、初回接種は遅くとも出生14週6日後までに受けましょう。
<注意!接種できる期間を過ぎると受けられなくなります>
通常、予防接種は推奨の月齢・年齢を過ぎても接種可能ですが、ロタウイルスワクチンは接種できる期間が決められていて、その週齢を過ぎると受けられなくなります。接種指定時期を過ぎてから接種すると、接種後に腸重積症を発症するリスクが高まるとされるからです。
接種できる期間がとても短いので、できるだけ早くかかりつけの小児科医と相談し、接種スケジュールを立てることが大切です。
【効果の持続期間は?】発症後の重症化を防ぐ効果があります
発症を完全に予防するワクチンではありませんが、発症後の重症化を防ぐ効果が期待できます。とくに、症状が最も重くなる初回感染時の重症化を予防します。
【副反応は?】発熱、下痢などが出ることがあります
発熱、刺激に対して敏感になる、下痢、嘔吐などの症状が報告されていますが、いずれも程度は軽いものです。
接種時期が遅くなると腸重積症を起こす頻度が高くなるので、1回目はできるだけ12週までに、どんなに遅くとも14週6日までに受けてください。
<接種後のおむつ替えに注意して>
接種1週間後くらいをピークに平均10日ほどは、うんちの中にロタウイルスが排出されます。ロタウイルスは大人にも感染するので、おむつ替え後の手洗いは徹底して行いましょう。
ロタウイルス胃腸炎とはどんな病気?
・かかりやすい季節は?…冬~春(日本では4月がピーク)
・かかりやすい年齢・月齢は?…6ヶ月~2才
・主な症状は?…下痢、嘔吐、発熱
・感染力は?…非常に強い
・ママからの移行免疫は?…6ヶ月ごろまで有効
ロタウイルスが原因の感染性胃腸炎で、ウイルスの潜伏期間は1~2日。発症すると下痢、嘔吐、発熱などの症状が現れます。患者の4分の3が0~2才児で、0才代ではママからの免疫がなくなる6ヶ月以上に多くなります。
日本での発症は冬から春に多くなります。20年前の発症のピークは冬でしたが、近年では4月と春先になってきています。
【症状・経過は?】治療薬はなく水分補給で脱水を予防するのみ。たいていは1週間程度で回復します
根本的な治療薬はなく、脱水症状を防ぐために水分補給などをして回復を待ちます。ほとんどが1週間程度で回復しますが、発症中と回復後の1週間はうんちにウイルスが排出。感染力が強く、石けんでの手洗いやアルコール消毒だけでは完全に感染を予防することはできず、家庭内で感染が広がる恐れがあります。
【合併症・後遺症は?】脳症を合併すると、重度の後遺症が出ることがあります
●合併症
初感染のときが最も症状が重く、重度の下痢や嘔吐による脱水症状やけいれん、肝機能障害、腎不全、脳症などの合併症を起こすことがあります。脱水症状がひどい場合や合併症を併発した場合は、入院治療が必要です。
●後遺症
合併症として脳症が引き起こされると、ダメージを受けた脳の部位により、意識障害、記憶障害、知能障害、失語症、運動まひなどの後遺症が出ることがあります。
【患者数・罹患率は?】就学前の子どもの半数がかかっています
厚生労働省によると、就学前の子どもの約半数がロタウイルス感染症で小児科外来を受診するとされており、この推計に基づいて人口統計から患者数を計算すると、日本の患者数は年間80万人ぐらいで、そのうち15~43人に1人(2万6500~7万8000人ほど)が入院していると推計されています。
国内でのロタウイルス胃腸炎による死亡例は近年、年間数人とごくまれですが、WHO(世界保健機関)によると、2013年には21.5万人(19.7~23.3万人)がロタウイルス胃腸炎で死亡していると報告されています。
ロタウイルスは非常に感染力が強く、就学前までに大半の子どもがロタウイルスに感染したことがあると言われています。治療薬はないので、かかってしまうと、重い下痢症で入院する可能性があります。ワクチンを接種できる期間が短いので、確実に予防接種を受けられるように計画することが重要です。
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
●記事の内容は掲載当時の情報で、現在と異なる場合があります。
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